2013年8月16日金曜日

鳥海靖『もういちど読む山川日本近代史』を読む、後編

鳥海靖『もういちど読む山川日本近代史』(山川出版社、2013年)は、本ブログの前編でも述べたように、さまざまな問題提起をしている。ただ、やや残念なのは、鳥海氏が経済的な要因をそれほど重視していないのではないかと思われる点である。

鳥海氏は日本の高度成長について、次のように述べている。(p.121)
「高度成長」の秘密をどこに求めるかについては, さまざまな考え方があるが,(1)寺子屋教育の伝統を引き継いだ学校教育による国民教育の普及,とりわけ国民の読み書き能力の高さ,(2)出身身分や階層に関係なく教育制度を通じて中下層の庶民が国家の指導階層にまで上昇し得るようなタテの社会的流動性の高さ,(3)「日本人の勤勉性」,(4)宗教的束縛の欠如,(5)そして,国民の大部分が同一民族からなり,同一言語を用い,宗教的対立や民族紛争による流血もあまりないという状況のもとでの日本社会の同質性の高さなど,江戸時代以来の日本のさまざまな歴史的前提条件の重要性を考慮することが必要であろう。」((1)から(5)の番号については、新保が付けた)
これらはすべて重要な要因であることは疑いないが、残念ながら明確な経済的な要因は入っていない。

しかし、日本の「高度成長」の秘密、あるいは日本資本主義の独自性は、経済的な要因からもっと明確にできるし、それを用いることで、前編で紹介した鳥海氏の最初の問題提起の意義がさらに明らかになると思われる。なお、ここで述べられているのは、厳密に言えば、日本の近代化についてであり、本書の対象とはなっていない戦後の高度成長のことではない。

まず、江戸時代には商品経済が著しく発展しており、世界で最初の先物市場も形成されていた。この点については、以下のような多彩な研究があり、世界の多くの研究者が着目している。いくつかの重要な研究を挙げておこう。
 宮本 又次, 株仲間の研究,
 岡崎 哲二, 江戸の市場経済―歴史制度分析からみた株仲間,
 Ulrike Schaede, Forwards and futures in tokugawa-period Japan:A new perspective on the Dōjima rice market, Journal of Banking & Finance, Volume 13, Issues 4–5, September 1989, Pages 487–513.
 Markets in Osaka, http://www.ndl.go.jp/scenery/kansai/e/column/markets_in_osaka.html

次に、このような基礎の上に、明治時代には、市場経済が急速に発展した。1878年の東京と大阪の株式取引所の設立が、市場経済と企業活動の発展に大きく貢献した。私が何度も強調しているように、第2次世界大戦以前の金融システムとコーポレート・ガバナンスは市場中心型であった。これについては、私の研究を参照していただきたい。
なお、このような見解を最初にまとめて展開されたのは、スタンフォード大学の星岳雄氏である。

さらに、このような市場中心型のコーポレート・ガバナンスであったため、日本の主要企業は市場から大量の資金を調達し、海外特に東アジアに積極的に投資することができた。その投資は、アジア各国の近代化に大きく貢献した。中国や韓国は、このような投資の事実も、積極的な貢献にも沈黙しつつ、日本への根拠の無い批判を続けている。

日本の近代史研究は、鳥海氏の問題提起を受けて、日本資本主義の独自の性格と、当時の世界とアジア経済への積極的な貢献を明らかにしていく必要がある。

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