そこで、このブログでは、原さんの同書に掲載されている3つの作品を紹介したい。まず原さんのプロフィールから。「一九五六年、大阪府泉南郡生まれ。一九七九年、多摩美術大学卒業。・・・一九九八年、渡英。二〇〇五年、エディンパラに移住。二〇〇六年、第一回リアリズムの世界(飯田美術 以後毎年)。二〇〇九年、ざ・てわざー未踏への具象ー展(日本橋三越)。」(同書、159ページ)
最初に紹介する作品は、上の「クリストファーロビンの聲」、「イギリス南東部のケントの風景」だそうだが、左側の大木から、木の葉、そして敷き詰められた落ち葉まで、ひとつひとつが細かく正確に描かれている。おそらく気の遠くなる作業だろう。このような森に入れば、落ち葉を踏みしめながら、森のずーっと先をめざして、そこに何が見えるかを楽しみに進むだろう。大樹の根の下には、たくさんのウサギの巣の穴が見え、一瞬クリストファー・ロビンの楽しそうな声が聞こえるようだと言う。左側の大木群の向こうにはぐっと開かれた場がありそうだが、そこから光が差し込む。森の多い日本では、この様な風景はあちこちに見られるように思える。
今度は、1枚目とも3枚目とも異なって全体が深い雲に覆われた暗い絵、「モンテプルチアーノ」である。「標高600メートル余りの小高い丘の上にある城壁に囲まれた美しいトスカーナの町」モンテプルチアーノ。トスカーナはよく知られているワインの産地だが、モンテプルチアーノは、イタリアの赤ワイン用ブドウ品種名でもある。丘の上の教会か修道院に、原さんは神を見たというが、私には信仰と権威と権力の象徴であるように見える。全体の色調は暗いが、右上の雲間から差し込む、最初の絵と同様な太陽の強い光が、緑の大地を明るく照らしている。最後の1枚は「羊のいる風景」、今度は、おそらく原さんが住んでいる、「スコットランド南部の早春の風景」である。最初の絵とは異なってスコットランドなので、早春とは言えかなり寒いはずだが、森と草原の全体に深く光が差し込んでいるから、とても暖かそうに感じる。木々や木の葉だけでなく、草を無心に食んでいる羊の毛までひとつひとつが細かく描かれていて、暖かさをいっそう強く感じる。
『写実絵画の新世紀』を見ればすぐにわかるように、写実絵画と言っても、写実の方法も対象も画家によってとても異なる。ほんとうに写実絵画という分類が出来るだろうかとさえ思える。
原さんは、「ただ美しい風景では自分の絵にできない。何か気になるものが潜む風景でしか私の絵にならない」(58)と語る。私は、原さんの何か気になるものが潜む風景になぜか共感し、そこにいるかのようにさえ感じられる。
多くの方にも、『写実絵画の新世紀』では、見開き2ページで大きく細かく見ることにできるので、この3作品をぜひ見ていただきたいと思う。
なお、森本草介さんの絵と画集についても、私のブログであわせてご参照ください。:森本草介『光の方へ』』(2018.12.4)