2018年12月4日火曜日

森本草介『光の方へ』


写実絵画への関心と、写実絵画を多数所蔵したホキ美術館の人気がますます高まっている。
ここでは、ホキ美術館を代表する画家、森本草介氏の作品集『光の方へ』(求龍堂、2012年)を紹介したい。森本草介氏は、1937年に朝鮮全羅北道に生まれ、2015年にもっと多くの作品を残されることを期待されつつ亡くなった。氏の作品が、ホキ美術館の最初の作品になったことはよく知られている。以下の作品の多くも同美術館の所蔵である。

まず、作品集のタイトルと表紙ともなった作品「光の方へ」、2004、ホキ美術館である。他の人物画と同様に、背景には何もなく、激しい動きも見られず、中央に向こうを向いた中腰の裸婦がいる。アングルの作品のように、モデルの身体のアンバランスはみられない。
柔らかい光が当たった肌からは体温が伝わってくるようにさえ感じられる。森本氏の作品の色調は、この作品のようにベージュ色に統一されていることが多い。

「背中は美しい。背中には表情があり、モデルがどんな人なのか想像を膨らませることができる」と森本氏は語ったそうである。(下記の文献、p.20)

そして、「光の方へ」は、「写実絵画の新世紀: ホキ美術館コレクション (別冊太陽 日本のこころ 241)」の表紙も飾っている。

次に「未来」、2011、ホキ美術館蔵。画集の中では、油彩最後の作品となっている。
背景や全体の色調は変わらないが、多くの作品とは異なって、女性は上半身にはうすく青みがかった白のドレスを着ている。いつものベージュ色の背景ととても対照的になっていて、美しさが際立つ。

左は、森本氏のもうひとつの田園の作品群である、「田園」、2001年、ホキ美術館
森や木々の緑色がとても弱く、やはりベージュ色で、塔や住宅の色と渾然一体となっている。川面すらもそれに近い色で、向こうに見える教会の塔が写っている。


ボルドーの香り」、2007年、十騎会第39回展(高島屋)(?)。
左上から光が入り、右下に向かって長い影ができている。光は葡萄の中に入り込み、みずみずしさが伝わってくる。

森本氏の作品には、葡萄だけではなく、他の果物やパンが並んでいる「果物たちの宴」(2001)という作品もあるが、葡萄が
たわわに実り、一粒一粒が引き立つこの作品が、私にはとても引きつけられる。



最後に、横になるポーズ」、1998年、ホキ美術館。ここに掲載した作品では最も古い時期のもの。
「「横になるポーズ」は保木さんに初めてコレクションしていただいた作品です。」「人物画については、血が流れて生きているように・・・と思って描きます。」(森本氏、ホキ美術館、収蔵作家と作品から)
「光の方へ」とは少し角度を変えて描かれていて、しばしば登場するモデルの表情が見られる。何枚かの淡い色の布が身体と台を幾重にも折り重なって覆っている。この淡く透き通って流れるような布は、どの作品にも登場してモデルの一部ともなっている。

『光の方へ』には、122の作品、その目録、年譜などが掲載されている。森本氏の絵画をゆっくりと楽しむには必須の画集である。ぜひ多くの方が手にとっていただきたいと思う。

ところで、ホキ美術館は、「ホキ美術館の写実絵画は、16世紀ルネサンス以降のダ・ヴィンチ、レンブラント、フェルメール、シャルダンなどが描いたような、物の存在感を描きだす写実絵画を念頭においています。」と説明している。しかし、ホキ美術館に並ぶ様々な画家の作品は、「写実絵画の新世紀: ホキ美術館コレクション」が示しているように、対象や手法はそれぞれかなり異なっている。それでも写実絵画とあえて呼ばれているのは、長く抽象絵画が大きな影響力を持ってきたからだろうか。

写実絵画の評価がさらに高まって、様々な手法の作品が競い合って描かれ、人々がそれらを自由に楽しむことができる環境がより整って欲しい。また、ホギメディカルの保木元社長の様な優れた経営者が、芸術活動の支援にどんどん乗り出してくれることもあわせて期待したい

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