2021年6月5日土曜日

『神業の風景画』、原雅幸氏と森本草介氏の作品を中心に

最近出版された『神業の風景画 ホキ美術館コレクション』(芸術新聞社、2020年6月)から、原雅幸氏と森本草介氏の作品を中心に紹介したい。芸術新聞社刊行のホキ美術館コレクションには、他に『超写実の人物画』、『驚異の静物画』という画集がある。

目次は、以下の通り。1章 水のある景には、森本草介氏の風景観も含まれる。2章 自然の景で、野田弘志氏の風景観、3章 人の気配には、原雅幸氏の風景観を含む、巻末には、エッセイ「風景画の魅力」松井文恵がある。

本の作りは、大きく開いて見開きで見ることが出来るような製本になっているのはとてもありがたい。画集でも、意外にこのような製本になっていない場合が多い。残念なのは、個々の画の解説が無いことである。

まず、森本草介氏の「アリエー川の流れ」(6-7、数字は掲載ページ数)2013年,68.0*210.0cmである。森本氏の作品は、私のブログ「森本草介『光の方へ』」で、「光の方へ」、「未来」、田園」、ボルドーの香り」、「横になるポーズ」を紹介した。そのうちの風景画の代表作のひとつ「田園」と比較してみると、同じ淡いベージュ色の色調であるが、2mにもなる横幅で、静かに光る水面の拡がりが特徴的である。おそらくこの地域にも農業があり、人々の賑やかな日常生活があるはずだが、森本氏によると、アリエー川の静かな川面のような、静謐な世界が広がっている。

もうひとりの代表的な画家、原雅幸氏については、私のブログ「原雅幸 3枚の写実絵画 」で、写実絵画の新世紀 ホキ美術館コレクション』(別冊太陽、2016年)に掲載されているクリストファーロビンの聲」、モンテプルチアーノ」、羊のいる風景」という3つの作品を紹介した。『神業の風景画』からは、2つの作品を紹介したい。

まずひとつめが、「マナーハウス (82-3)、2012年, 60.7*91.2cmである。画集には説明が無いので、正確かどうかはわからないが、場所は原氏が住むスコットランドだろうか。スコットランドは降雪量がそれほど多くないので、雪がふんわりと降り積もっているという感じではない。私が注目したのは、広大な敷地の屋敷の入口が画面の中心で、「クリストファーロビンの聲」と同じように奥に向かって続く道という構図である。それは希望をさし示しているのだろうか?

もうひとつの作品が、「光る海(24-5), 2010年, 97.0*162.1cmである。これも画集に説明がないが、水田があるように見えるので、日本のどこかの農村のようである。ずっと遠くに光って見えるのが海で、それがタイトルの光る海だろうか。強い光が差し込み、海だけでなく、道路や小屋の屋根などを照らし出している。前回に紹介した3つの画と今回の2つの画とも、最も印象的なのは様々な角度と強さで差し込む光である。「光る海」では、光が全体を包み込むように感じる。画には時には動物が登場するが、人の姿は見られない。

原氏には、「原 雅幸 OIL PAINTINGS, WATERCOLOR PAINTINGS」というweb siteがある。多くの作品が掲載されているし、販売もされているので、ぜひ訪れていただきたい。なお、上記の作品の画像は、そのweb siteに掲載されているのを利用させていただいた。

『神業の風景画』から、森本氏や原氏以外にも紹介したい作品は、大畑稔浩氏『仰光ー霞ヶ浦』、同『苗名の滝』、同『早春(白い影)』や、この画集ではやや例外的な描き方をする石黒賢一郎氏のモノトーンの風景や、工場の風景などもあるが、紹介はまた機会を改めたい。

ところで、写実画と言っても、対象の選び方、画材などによる描き方などが、画家によって全く異なるので、それぞれの写実画は大きく異なる。『神業の風景画』に収められた多くの画家の作品もそれぞれとても個性的である。

しかし、『神業の風景画』あるいは日本の現在の写実画の共通点をあえて挙げるとすれば、ひとつひとつの対象が実に精緻に描かれているということではないだろうか。Scottish Galleryが原氏の作品を、the extraordinary super-realist artist (並外れた超写実主義の芸術家)と表現しているのは、海外の人々の率直な感想だと思われる。細部を徹底して精緻に仕上げるというのは、日本の伝統的な工芸作品や、現在の工業製品にも共通する特徴だと言えるだろう。Scottish GalleryのREALIST & LYRICAL LANDSCAPESという展覧会に出展している他の画家の作品と比較すると、その点がとてもよくわかる。なお、この展覧会のタイトルの、「写実的で叙情的」という表現はとても興味深い。

最後に、『神業の風景画』には、以上では紹介しきれない多数の画家たちの「神業」が、見開きで掲載されていて、風景を主題とする写実画を十分に味わうことができるので、改めてお薦めしたい。

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