2019年8月2日金曜日

今の香港を理解するのに必須:遊川和郎『香港 返還20年の相克』(2)

(1)から続く

第5章 迷走する民主化と軽量化する行政長官
Wikipedia. 2014年香港反政府デモ
2 雨傘運動とその後」では、「2014年6月10日、中国政府は『香港白書』を発表した。・・・同白書は、「1997年の返還以来、香港の民主的な政治制度は安定、発展してきた」と現状を肯定するとともに、「香港の『高度な自治権』は固有なものではない、中国中央指導部の承認によって与えられるものだ」と高圧的に民主派の動きをけん制した。」(166)ことが明らかにされる。
 この白書を背景にして、2014年に中国全人代常務委員会から「8.31決定」が出された。それは、「これまで1200名の選挙委員による投票を18歳以上の全ての香港市民(約500万人)に拡大する一方、立候補者は指名委員会の半数以上の同意を必要とすることとし、事実上民主派からの立候補を排除した。確かに「1人1票」の選挙権は認められたものの、被選挙権は中国側がコントロール可能ということである。」(167)
 この決定に対して、9月には香港の学生達は、催涙弾から身を防ぐために雨傘を使って抗議と反対の意思表示を行った。これがいわゆる雨傘運動であった。「実際に運動を指揮した学生団体のリーダーが「學民思潮 Scholarism」の黃之鋒 Joshua Wong(Facebookのページにリンクしています)と香港学生聯盟(学聯)代表の周永康だった。」(168)しかし、学生達の占拠を伴う運動は具体的な成果を得られないまま終結した。

第6章 劣化する国際経済都市
 第6章では、再び経済に焦点が合わされる。まず、「1 老化する財閥」では、30年一日の財閥ランキングが表6-1、表6-2の対比で示される。「2 都市間競争での劣後」では、香港と上海が比較される。
 興味深いのは、香港を都市国家、あるいは人口数百万人規模で1人あたりのGDPが1万ドルを超える経済体との比較した、「世界のスモール・オープン・エコノミー」(208-)である。貿易や金融での優位を活用している国、あるいはハイテク産業への特化を進めている国などの事例が紹介されている。香港がどれを採用できるか、今は明らかではないが、中国への依存を弱め、より自立した経済を構築しようとすれば、この点を明らかにしていく必要があるだろう。

終 章 竜宮城のリニューアル
 終章の最後の小節:「休養生息」(立ち止まって考える)で、遊川氏は本書を次のように締めくくっている。「「一国二制度」や「50年不変」が返還交渉当時、国際社会にも受け入れられた背景には、改革開放に乗り出したばかりの中国自身が50年の聞には変わっているだろうという現実的な期待があった。すなわち2047年までの50年は中国に対して与えられた猶予期間でもある。これまでの20年問、中国は目覚ましい経済発展を実現したが、体制維持の窮屈さは逆に増していることが問題である。最終的には「一国二制度」の「一国」のあり方が問われている。」(222)
 しかしながら、この終章は、中国「一国」がどうなるかという問題とともに重要な、もうひとつの香港自体の将来像にはあまり明確には触れていない。香港の経済的・政治的自立のためには何が必要かについて、独立派を含む民主派が具体的な政策を立案できるかどうかが問われていると思われるが、遊川氏もこの点について詳しく触れていただきたかった。

 最後に、香港の現状を包括的に検討した本書はその欠落を埋める重要な著作で、本書を通じてひとりでも多くの読者が、現在の香港の経済的・政治的な動きと今後の可能性について考える機会になることを、改めて期待したい。

なお、(1)で紹介した、私のWebsiteに掲載した書評では、2 補論:香港の金融市場と企業を付けた。そこでは、香港の金融市場と主要な企業の特徴を見ると、香港での民主化への、若い世代を中心とする幅広い人々による活発な動きにもかかわらず、経済と政治の両面での、香港の中国からの自立と民主化への道筋はなお大きな困難があることも指摘した。

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