企業史料統合データベース(Business Archives)のサービス提供が開始された。
このデータ・ベースは、「財務諸表をはじめ営業の概況などが記述され、日本の近現代における企業の経済活動の実態を知る上で最も基礎的な史料である「営業報告書」、企業の事業計画・見通しについて詳細に記述され、数期にわたる比較財務諸表が掲載されていることが多い「目論見書」、そして「営業報告書」の後身ともいうべき「有価証券報告書」」から成っている。
今、トライアル版を雄松堂から提供されて使ってみたが、予想通り充実したすばらしい内容だった。
実は、私は、このデータ・ベースのマイクロフィルム版を他大学で利用していたが、マイクロフィルムの読み取り機にはさまざまな欠陥があり、使いこなすのは容易ではなかった。また、マイクロフィルム版では、どの企業の営業報告書があるかを見つけるのにも、一苦労した。これらの問題は、新しいデータ・ベースで一気に解決した。これで、日本経済史・経営史の研究が格段に進歩するだろう。
研究者以外の人々もぜひ利用していただきたいと思う。また、このデータ・ベースを構築された企業とスタッフの方々に心から感謝したいと思う。
ところで、私は以前のマイクロフィルム版を使って、戦前の日本のコーポレート・ガバナンスが市場中心型であることを示した。また、同じ資料を使って、日本の海外投資が以下のような特徴を持つことを示した。
「第1に、その産業的な構成は、当時のインフラストラクチャである鉄道、電力、金融が、しだいに中心になった。第2に、海外事業活動を担ったのは、主に主要財閥系企業ではなく、新興財閥系企業や独立した企業群であった。第3に、海外で活動する企業は、国策会社や特殊銀行も含め、金融・証券市場で株式を公開し社債を発行する企業であった。第4に、以上の結果として、現地企業の独立性が高い。第5に、これらの企業は、現地各地域の企業と、活発な競争を展開していた。」(私の上記の主張は、2つの英語版著作、Japanese Companies in East Asia: History and Prospects、Historical Development of Japanese Companies: Corporate Governance and Foreign Investment Expanded and Revised Second Editionで詳しく展開しています)
今後は、新しいデータ・ベースを使って、上記の特徴をさらに明確にしたいと思う。日本の内外では、戦前日本のコーポレート・ガバナンスが財閥中心である、またその海外投資が受け入れ地域の経済発展に寄与しなかったとする主張が、依然として根強い。私のねらいは、これらの偏見や誤解を正すこと、さらに、今日の日本経済と企業の発展のためには、市場を基礎にし、いっそうのグローバル化が必要であることを明らかにする事である。
(ブログのTOP、ブログの目次, 新保博彦のホームページ)