第5章は、今回の選挙とトランプ大統領の登場を検討している。
予備選における「性、年齢、教育程度別 トランプ投票者割合(表5-3)」と「イデオロギー・最重要イッシュー別トランプ投票者割合(表5.5)」の平均値と中央値のみを取り出したのが、左の表である。
性、年齢、教育程度別では、トランプ大統領は、男性、40代後半以降、非大卒に支持が大きいことがわかる。
イデオロギーでは弱い保守に支持があることに注意しておきたい。強い保守であるキリスト教右派からの支持は弱かった。そして支持された最重要イッシューは移民が他を大きく引き離している。
以上が、トランプ大統領を支えている基盤であると言えるだろう。
著者は、「2016年大統領選は,アメリカの分断状況を再確認させるどころか,亀裂がより深まっていることを印象づけた。もはやアメリカの民主党支持者と共和党支持者との間には,抜き差しならぬ対立状態にあるように見える。そして措抗する支持状況が亀裂をさらに深める作用をしている。」(p.183)と適切にまとめている。
ところで、トランプ大統領の最重要イッシューは移民であったが、今アメリカは大量の移民受け入れから移民制限へ大きく舵を切ろうとしている。アメリカはしばしば移民の国とされているが、同時に移民排斥の国であったことも事実である。日本からの移民が過酷な状況に置かれた時期があったことを忘れてはならない。移民の受け入れと排斥は、経済のグローバル化と保護主義が交互に登場するのと酷似あるいは対応している。
また、トランプ大統領が経営者として巨額の資産家であり、政権には多数の経営者や資産家が参加しているとは言え、その支持基盤に比較的所得階層が低い階層や地域が多いことにも注意しておくべきだろう。それは、民主党内でサンダース旋風が巻き起こったこととも対応している。
最後に、「アメリカ分裂―数字から読みとく大統領選挙」は、多くのデータを用いて、今回の大統領選挙の背景と結果を明らかにした重要な文献であり、広く読まれることを、改めて期待したい。しかし、この本での検討は、アメリカ政治の本格的な検討の第一歩である。
トランプ大統領の登場を予見したとする一部のジャーナリストや研究者の調査や報告で検討に値するものはほとんど無い。大統領選挙の本選、同時に行われた議会選挙などを含めた、井田正道氏の研究をさらに詳しくした調査・研究が現れることを期待したい。
今年はヨーロッパで次々と重要な選挙イベントが控えている。それぞれの国でもトランプ的な主張が強くなっているが、その特徴とアメリカとの比較を詳しく調査する報告や研究が現れることもあわせて待ちたい。
このページから先に読まれた方は、ぜひ第5章までを検討した、ひとつ前のブログをあわせてご参照ください。
論文:アメリカの最新宗教地図 【論文】(クリックで開きます)もあわせてご参照ください。