先に紹介した飯山雅史『アメリカの宗教右派』とあわせて、堀内一史『アメリカと宗教 保守化と政治化のゆくえ』(中公新書、2010年)についても紹介したい。
目次は以下の通りである。序 アメリカ宗教概観、I 近代主義と原理主義の闘い、
II 宗教保守化の背景、III 主流派とリベラリズムの隆盛、
IV 原理主義・福音派の分裂、V 政治的保守の巻き返し、
VI 宗教右派の誕生、VII 大統領レーガンと宗教右派の隆盛、
VIII 共和党プッシュ政権と宗教右派の結集、
IX オバマ政権と宗教左派。
南部バプテスト連合信徒の分布図(p.62) |
著者は、南部福音派を次のように定義し、そのうち南部バプテスト連合信徒の分布図を左の図で紹介している。
「南部福音派とは何か」では、「南部バプテスト連合は、現在では人口比で六・七%を占め一六二〇万人を超える信徒数を有するプロテスタントでは最大規模の教派である。聖書の無謬性を中心とする原理主義的な信仰を特徴とする。この南部バプテスト連合のほかに、チャーチ・オブ・ゴッドなどの南部を中心に分布している諸教派に属する福音派は、一般に「南部福音派」と呼ばれる。」(p.63-4)
著者は、南部福音派の人口移動が、その影響力の拡大をもたらしていることを特に重視している。移動した地域は、サンベルトと呼ばれるバージニア州南部とカリフォルニア州中部を結ぶ線以南に位置する合衆国南部,西南部の地域を指し、文字どおり陽光のまぶしい,一年中温暖な地域で、新たな産業が発展している地域である。この人口移動によって、サンベルトのバイブルベルト化が生じているという。
「宗教右派」の誕生とモラル・マジョリティの結成について、著者は次のように説明する。
ニューライト(政治家グループ)の活動家やファルウェル(テレビ伝道師)らは協力し、「保守的な福音派を動員し彼らの価値観や世界観を政治に積極的に反映させようとする利益集団を設立して展開する宗教・政治運動「宗教右派」(=「キリスト教右派」)の構想が誕生する。」(p.175)
「ファルウェルはモラル・マジョリティの目的を、生命を尊び、家族の価値を重視し、道徳を尊重し、アメリカを最優先することとした。」(p.177)
このようにして、白人福音派が次第に政治に影響力を拡大していく。右の図(p.244)は白人福音派が共和党を支持し、共和党を通じて影響力を拡大していく様子を示している。
ところで、この著作においても今後の見通しでは、最終章の「宗教右派の衰退、若年層の敬遠、福音派の変容ー新世代の登場、中間主義的福音派、宗教左派」などの見出しに示されているように、オバマ政権誕生とともに流れが変わりつつあるという評価になっている。
しかし、その後オバマ政権の政策と対立するトランプ大統領が登場し、共和党の力が議会で増大して、2010年刊行の本書が予想したのとは異なった結果がもたらされている。
本書と『アメリカの宗教右派』の予測が短期的にみれば適切では無かったとは言え、『アメリカと宗教』と『アメリカの宗教右派』の両著を通じて、日本では十分に知られていない宗教右派そのものとその政治への影響を理解することは、ますます重要になることは間違いない。両著をともに読まれることをお薦めしたい。
また、トランプ大統領の支持基盤が宗教右派や福音派とどのような関係にあったのかについての、具体的で詳細な調査と研究が今後登場することを期待したい。
論文:アメリカの最新宗教地図 【論文】(クリックで開きます)もあわせてご参照ください。