目次は、春陽大和路、追憶の大和、祈りのほとけ、人間のいない風景(白洲正子)、大和路の夏、回想・カメラで絵を描く人(杉本健吉)である。
最初の写真は、「春めく二月堂裏参道」。
「大仏殿の裏から二月堂に向かう参道は、ものさびた光景で、いかにも古都奈良らしい情感が漂うたたずまいである。私は四季にわたってよくこの裏参道を撮影するが、桜と同じころに木蓮も咲く。」(14)
このように入江は書いているが、今となっては、この写真のせいだろう、参道では、たくさんの写真家に出会って驚く。
今日は3月20日(2018年)、例年より早く関西でも桜の開花が宣言された。これからしばらく桜の開花のニュースと番組が続くだろう。
右の写真は「陽春大仏殿」。「撮影場所は、若草山の北側の奈良奥山ドライブウェイの途中にある三笠温泉郷付近の小高い丘で、背後に見えるのは興福寺の五重塔である。」(38)
入江は本書の別の箇所で、「桜は、あまり奈良、大和とは調和しないんじゃないかという気がする」(54)と書いているが、この写真を見ていると、あまりに見事で、それは本音かなと疑ってしまう。
春夏紀行にも、やはり風景を中心にする章にはさまれて、仏像の章「祈りのほとけ」の章がある。そのうちの1枚。「東大寺戒壇院広目天像」。
広目天は、「広く世間を視ること、つまり大らかな心で視野を広げ、正しい知恵を得ることが、結果的には無量の寿命を得ることになるというのですから、無病息災の仏といえるでしょう。」(西村公朝)
そして、これもまた有名な夏の1枚、「唐招提寺金堂列柱」。
「唐招提寺の南大門に立つと、正面に堂々とした金堂が視野いっぱいに映る。・・・石段を下りて近づくにしたがい、屋根の量感は弱まり、そしてその大屋根を支える八本の丸い列柱がはっきりしてくる。」(138)
その列柱とともに堂内全体を覆った青葉を対称にした1枚。青葉を鮮やかにし、列柱をつなぐ光が、夏の強い光を感じさせる。
同じ唐招提寺での1枚、「唐招提寺 蓮」。
「唐招提寺の境内には、珍しい種類の蓮華がたくさん集められている。蓮華といえば、極楽に咲くともいわれ、そして、仏の座とも供花ともされている。」(166)
唐招提寺には何度も行っているのに、珍しい種類のたくさんの蓮華とは!気がつかなかった。右上の写真が夏の始まりとすれば、左の写真は夏の終わりを飾っている。
入江氏は、この1枚で風景と花、仏の「春夏紀行」を締めくくる。氏の『私の大和路』は、大和路の寺社と街の長い歴史と自然の様々な表情を多彩に伝えてくれる、おすすめのガイドブックである。
入江泰吉『私の大和路』(1)秋冬紀行
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