「ボストン美術館には、600点以上の春信作品が所蔵され、世界一のコレクションを誇ります。このうちの半数以上を占めるスポルディング・コレクションは門外不出、たとえボストン美術館であっても展示されることはありません。今回はそれと並ぶ質量を誇るビゲロー・コレクションより選りすぐりの作品を展示します。」(展覧会HP、かっこ付き文書は以下同じ)
展覧会は次のような構成になっていた。
第1章は絵暦交換会の流行と錦絵の誕生、第2-4章は以下の通り、第5章は江戸の今を描くで、春信に前後する作家の作品も展示されている。以下で、3つの章の代表作を紹介したい。
第2章 絵を読む楽しみ
《見立玉虫 屋島の合戦》(1766-67年頃、左の上段)
「屋島の合戦において那須与一が、平家方の官女玉虫の誘いを察し船上の扇を見事射抜いたという物語が原典」
春信の作品の特徴のひとつは、古典や故事に倣って制作することである。それが多くの人に人気を博した理由かもしれない。
第3章 江戸の恋人たち
《寄菊 夜菊を折り取る男女》(1769-70年頃、左の中段)
「闇夜にまぎれて菊の花をとろうとする若衆が、灯火を差し掛ける若い娘と目を合わせています。」
このページ下段で紹介する「夜の萩」と同様のモチーフで、若い男女の恋の、春信独特の世界が描かれている。
第4章 日常を愛おしむ
《五常 智》(1767年、左の下段)
「手習いの少女たち。江戸時代は子どもの教育に熱心で、男女問わず識字率は高かったといいます。」
春信の作品には、当時の人々の日常の生活を丁寧に描いている作品が多く、この作品を通して当時の生活が、意外に現代に近いことに気がつかされる。
ところで、春信の代表作は以上に止まらない。スポルディング・コレクション (Spaulding Collection, Museum of Fine Arts, Boston) が所蔵している「雪中相合傘」は有名である。
小林忠氏は、「浮世絵の至宝 ボストン美術館秘蔵 スポルディング・コレクション名作選」(小学館、2009年)で、「降りしきる雪を吹き墨の手法によって鉛白の白をまいており(現在は黒変しているが)、ほかと異なってユニークな作例である。」(179ページ)と書かれている。
画像ではわかりにくいが、「雪の白や着物の白には空摺(凹凸のみで模様を加える技法)が、施されている。」(次に掲げる文献, p.16)春信の作品を含む浮世絵は、作家ごとの個性的なテーマと作品群だけではなく、制作の多様な表現力と独創性な技術がすばらしい。
この作品は、「墨一色の背景に、秋の虫の音に誘われて屋外に出た若衆と娘の親しげな様子を描いたロマンチックな図。」(上掲書, p.19)雪中相合傘と同様に、若いユニセックスの男女が、流れるような曲線で描かれている。
同書は春信の作品を、「青春」「流麗」「温故」の3つのキーワードで捉え、「雪中相合傘」と「夜の萩」は「青春」のページで紹介している。
同書には、これらと同様に評価の高い「坐鋪八景」や春画「風流艶色真似ゑもん」が掲載されていて、春信の全貌を知るのにとても役に立つ。価格が680円とお手頃だが、現在では増し刷りされていないようで、古書でしか入手出来ないのは残念である。
関連する私のブログ:「浮世絵の至宝 ボストン美術館秘蔵 スポルディング・コレクション名作選」 (2012.7.29)
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