2018年11月8日木曜日

歌麿の「世界で最も美しい画本」を紹介する浅野秀剛『歌麿の風流』

以下の内容を踏まえたYouTube動画を作成しました。「岡田美術館で歌麿の「雪月花」三部作を見る」、ぜひご覧ください。https://youtu.be/c2GCTUIQYKw (2023.9.23)

2013年5月2日に「世界で最も美しい画本:喜多川歌麿、Kitagawa Utamaro」を作成したが、紹介内容が少なすぎたのでここで大幅に増補改訂したい。
このブログは、歌麿の『画本虫撰』『潮干のつと』『百千鳥狂歌合』という主に3つの絵入り狂歌本を掲載した浅野秀剛『歌麿の風流』(小学館、2006年)を紹介した。『歌麿の風流』の表紙の帯にはこう書かれている。「世界でもっとも美しい「絵本」・・・子どもから大人まで、誰もが楽しめる浮世絵の世界を、最高水準の印刷技術で再現」。これらの狂歌本は歌麿のあまり知られていない重要な作品群でもあり、ぜひとも多くの人がこの書を通じて味わっていただきたい。

『歌麿の風流』p.8-9
3つの狂歌本を年代順に見ていこう。まず、『画本虫撰』(天明8年(1788))である。
「蝶 蜻蛉」、「白雲母を使った蝶と蜻蛉の羽に注目していただきたい」(かっこ内の解説は、著者によるもの、p.20、以下同じ)すべての画像はクリックしていただくと拡大され、よくわかります。
蝶の羽根は雲母で美しく輝き、蜻蛉は羽根が実に細かく描かれている。
なお、左の絵は、原本『画本虫撰』の見開き2ページの部分絵を少しずらして掲載している。

『歌麿の風流』p.14-15

右は、ひとつの画のように見えるが、実は『画本虫撰』の「虻 芋虫」(右半分)と「蛇 とかげ」(左半分)を合成している。
芋虫は葉を背景に、きめだしのみで描かれ、それが体型をうまく表現している。
「雲母がかけられた蛇の肌のぬめりにゾクゾクさせられる」(23)背の部分の雲母は黒雲母と思われるが、腹の部分は薄緑色と、うまく対照的に描き分けられている。


『歌麿の風流』p.30-31

次に『潮干のつと』(寛政1年(1789)年)。
この絵も2枚の原画の合成である。左の図の左上の「「きめだし」で表わされた、さざえの蓋の質感は見事というほかはない。」(36)
右下のあわびは、「うごめく身は不気味でさえある。」(37)
ここでも、ぜひ画を拡大して見ていただきたい。ともあれ、彫りと摺りの技術でこれほどまで立体的に表現出来るとは驚きである。


『歌麿の風流』p.52-53

3つめの狂歌本が『百千鳥狂歌合』(寛政2(1790)年頃)である。
右の図は、原画の「四十雀 こまどり」の部分図だが、こまどりと菊の位置は少しずれて掲載されている。
「「きめだし」で表わされた菊花と、こまどりの鮮やかな存在感が出色。」(63)
菊の花は、先の画の芋虫よりもはるかに大きく、色を使わず細かな模様をつけたきめだしのみで豊かに表現されている。

『歌麿の風流』p.56-57

最後の1枚、「鴨 翡翠(かわせみ)」が左の部分、右は「かし鳥 ふくろう」で合成されている。
「鴨と芦に留まる翡翠の鮮やかな色調により、本画帖中でももっとも華やかな1図となっている。」(65)鮮やかな色で目立つのは雄鳥だが、その後ろには雌鳥が見える。
右の図のくりくりとしたふくろうの目、留まっている木の枝も複雑に表現されている。


このように、3つの狂歌本は、多数の動植物の様々な表情を豊かに描き、歌麿の重要な作品群となっている。浅野秀剛『歌麿の風流』は、『画本虫撰』などの3つの絵入り狂歌本以外にもいくつか紹介している。
なお、3つの狂歌本を紹介した最近の本には、菊池庸介『歌麿『画本虫撰』『百千鳥狂歌合』『潮干のつと』』もある。こちらも印刷はとても良いので、版が小さいのが残念だが、おすすめのひとつである。

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