シネマ版で見れば、舞台全体がいろいろな角度から見られる。そればかりか、役者の表情をごく近くからも見ることができる。とてもおすすめである。
(『野田版 桜の森の満開の下』パンフレットから、以下も同じ) |
「満開の桜の森は人の気を狂わせるという」
現代人は桜と言えば、桜の下での宴会を考える。実はそこにはもうひとつの世界がある。
「深い深い桜の森。時は天智天皇が治める時代。
ヒダの王家の王の下に、三人のヒダの匠の名人が集められる。その名は、耳男、マナコ、そしてオオアマ。
ヒダの王は三人に、娘である夜長姫と早寝姫を守る仏像の彫刻を競い合うことを命じるが、実は三人はそれぞれ素性を隠し、名人の身分を偽っているのだった。
そんな三人に与えられた期限は3年、夜長姫の16歳の正月まで。
やがて3年の月日が経ち、三人が仏像を完成させたとき、それぞれの思惑が交錯し…。」
耳男(中村勘九郎)が出会ったのは、美しく残酷な王家の娘夜長姫(中村七之助)だった。耳男の耳を切り落とすように命じる夜長姫と、復讐のために鬼の仏像を制作する耳男、そしていつの間にか夜長姫に心を奪われる耳男を巡る話。また、鬼達を使って天下を取ろうとするオオアマ(市川染五郎、現・松本幸四郎)などの、それぞれの欲望が交錯する話が複雑に絡み合って展開する。
なんと言ってもすばらしかったのは、耳男の勘九郎と夜長姫の七之助の演技だった。勘九郎はほぼ全時間出ずっぱり、七之助は右の画像の様な美しさと妖しさを演じきった。兄弟が二人の主役を演じ分けることができるなんて。
桜吹雪のなか、最後に鬼になった夜長姫の角を切り取った耳男が、夜長姫をその角で一突きにし、夜長姫はゆっくり仰向きに崩れ落ちる。耳男が泣き崩れながら倒れた夜長姫を抱きしめ布で覆うが、姫はいつの間にか消えていく。やはりこのシーンは圧巻だった。
背景で流れる音楽は、「私のお父さん」(プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」)。全く違う背景のはずなのだが、このシーンにぴったりだった。
今のところ、各地で4月25日まで上演される予定です。ぜひともご覧いただきたい作品です。
左は予告編。
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