北斎は、小布施の豪農商・高井鴻山に招かれて、岩松院を4度訪れており、岩松院には、北斎晩年の、そして最大の作品である、次に示す「八方睨み鳳凰図」が残されている。
残念ながら、天井にある鳳凰図は、写真に撮ることが許されていなかった。そこで、ここでは、「葛飾北斎の天井絵を立体化! 名画と最新技術の融合作品『八方睨み鳳凰図3D』」が掲載した鳳凰図を掲載したい。参拝者は、椅子に座って天井の鳳凰図を眺めることになる。まず、その色が170年以上経っているのに衰えておらず、とても鮮やかであることに驚く。
岩松院に依れば、「大きさは畳21枚分。塗り替えは1度も行っておりません。朱・鉛丹・石黄・岩緑青・花紺青・べろ藍・藍など顔料を膠水で溶いた絵具で彩色されており、周囲は胡粉、下地に白土を塗り重ね金箔の砂子が蒔かれています。」これら高価な素材の購入にかかった費用は150両、金箔は4400枚も使用したと言う。
「八方睨み鳳凰図」を理解するには、その数年前に描かれた、ボストン美術館の「鳳凰図」を見るのが良いと思う。その図は、『北斎肉筆画の世界』(TJmook, 内藤正人監修)に掲載していて、私のブログ「『北斎肉筆画の世界』(TJmook, 内藤正人監修) (2017.11.23)で、部分図を取り上げた。
ボストンの鳳凰図を見れば、複雑に一体化された岩松院の鳳凰の全体像がよくわかる。
ところで、鳳凰とは、「空想上の鳥の名。古来中国で麒麟,亀,竜とともに四瑞として尊ばれた。・・・聖徳の天子の兆しとして出現すると伝えられる。」(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)北斎も最晩年になって、聖徳の天子が現れることを祈って描いたのだろうか。北斎の晩年のひとつのモチーフを表しているように思われる。なお、伊藤若冲も「老松白鳳図」を始め、何度も描いているのはよく知られている。
ところで、「八方睨み鳳凰図」は、NTT東日本などがアルステクネの技術を活用して高精細デジタル化を行い、2022年6月2日~7月3日に、「Digital×北斎 特別展 大鳳凰図転生物語」を開催していた。今後、デジタル化された画像によって、様々な角度から詳細に、各地で見られることを期待したい。