この重要な著作を、私は私のweb siteで書評として詳しく紹介した。本ブログはそのごく一部の要約である。ぜひ書評(クリックしてください)そのものもご参照ください。
【目次と著者略歴】本書の目次は以下の通りである。第1部 「慰安婦」とは記憶との闘争、第2部 信頼できない司法府の判決文、第3部 国民をだまし、世界をだます聖域化運動、第4部 三〇年間の慰安婦歪曲、赤い水曜日
金氏のTwitterから |
【慰安婦の証言の確認】第1部は、慰安婦達の証言を、ひとつずつ事実かどうか確認していくことから始める。「皮肉なことに、執筆において最も役に立った資料は、挺対協(韓国挺身隊問題対策協議会)が発刊した八冊の挺対協証言集だった。」(プロローグ, p.8, 110, ( )内の一つ目の数字は印刷版のページ数、二つ目の数字はKindle版のロケーション数)李容洙(イヨンス)、吉元玉(キルウォノク)、金学順(キムハクスン)が特に詳しく取り上げられる。以上の検討を踏まえて、「だから私は、「日本軍慰安婦被害者は一人もいない」と断言する。」(p.53, 653)という結論を得る。
このように金柄憲氏はひとつずつ事実を明らかにしつつ、次に、女性家族部の「慰安婦被害者法」に基づく「生活安定支援対象者」である彼女達に関する情報公開を情報公開法に基づいて請求した。しかし、非公開とされたので、著者は「二〇二一年一月二七日、「補助金管理に関する法律」違反の疑いで李容洙と吉元玉をソウル市鍾路警察署に告発した。」(p.43, 523)これもまた、棄却と不送致という結論だった。
【慰安所の目的、慰安婦の契約、数と収入などの実態】金柄憲氏に依れば、「基本的に日本軍慰安所は、一九三七年からの中日戦争と一九四一年からの太平洋戦争時の日本軍占領地において、現地女性の拉致、強姦、殺害のような戦争犯罪を防止するため、また民間売春宿の利用による兵士の性病を予防するために設置された。」(p.50, 607)
著者は、慰安婦の数や収入を推定する。朝鮮人慰安婦の数は2,400人から3,200人程度、収入は慰安婦証言者の証言を元に、かなりの高収入だと推測する。また、帰国後「多くの女性は解放後も、依然として花柳界に従事した。」(p.239, 3047)とも指摘する。
【河野談話、日韓合意、クマラスワニ報告書】以上の検討を踏まえて、金柄憲氏は慰安婦問題の代表的な談話、合意、報告書を批判する。著者は、「河野談話とクマラスワミ報告書の撤回こそが、日本軍慰安婦問題解決における先決課題であると確信している」(p.189, 2423)と強く主張している。
【『赤い水曜日』の意義と今後の課題】金柄憲氏の『赤い水曜日』は、挺対協証言集などでの多くの慰安婦の証言と、慰安婦に関連する朝鮮総督府などの様々な公文書などを検討し、徹底して事実の解明を試みた。また、正確を期すため情報公開を請求し、関連する裁判所の判決文も精査している。この徹底した実証主義こそが、この本の最も優れた点であり、慰安婦問題ではこれまでには極めて少なかった試みである。
このように、金柄憲氏の、一切のイデオロギー的な前提を排除し、事実をひとつずつ様々な角度から検証し、それらにのみ基づいた結論を得るという方法は、ようやく韓国で拡がろうとしている。その方法に基づいた研究は、最近の李栄薫編著『反日種族主義』によって幅広い支持を得つつある。『赤い水曜日』は、その方法に基づいた慰安婦研究だと思われる。