2023年10月13日金曜日

論文集『グローバル・サウス:分断された世界での役割と可能性』をHPに掲載しました

論文集『グローバル・サウス:分断された世界での役割と可能性』をHPに掲載しました。以下をクリックしてください。論文集

内容は以下の4つの論文から構成されています。

第1章 グローバル・サウスはグローバルな諸課題に対応できるか:グローバル・サウスを代表する9か国キーワード:グローバル・サウス、非同盟諸国会議(運動)、経済統合、発展途上国の累積債務問題)

第2章 インドはグローバル・サウスを導けるか?:インド企業の先進性と後進性キーワード:グローバル・サウス、財閥、コングロマリット、国有企業、外資系企業)

第3章 輸入代替工業化からモディ政権へ:戦略転換を終えたインドは自由化を推進できるか(キーワード:輸入代替工業化、モディ政権、経済自由化、メイク・イン・インディア(Make in India)、ヒンドゥー至上主義)

第4章 BRICSという幻想:独裁国家ロシア・中国とその他の国の懸隔キーワード:BRICS、非同盟諸国会議(運動)、輸出志向工業化戦略、グローバル・サウス、宥和政策)

本論文集は、グローバル・サウスを、多くが世界の南側に位置する発展途上国による、グローバルな諸課題に取り組む、新たな政治的・経済的な連携ととらえている。それに該当する国は、発展途上国各国の経済・政治の基本指標を用いて、アルファベット順に、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコ、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、タイ、アラブ首長国連邦の9か国とした。

今、さっそくこれらの国が貢献しなければならない緊急の課題がある。10月7日に始まったハマスとイスラエルの戦争である。特に、グローバル・サウスの中でも、アラブ諸国のサウジアラビアアラブ首長国連邦は、積極的に解決への道筋を切り開くことが求められている。
実はハマスの突然の大規模な攻撃は、アラブ首長国連邦・バーレーンとイスラエルとのアブラハム合意による急速な関係改善への動きと、そしてサウジアラビアも同様の道を進むかもしれないとの憶測があり、それらの動きによってハマスが孤立化に向かうことへの反発によると言われている。

(注)アブラハム合意(The Abraham Accords Declaration)
以下のアメリカ国務省のサイトでの各文書を参照。 ISRAEL-UAE AGREEMENTが最も包括的で詳しい。https://www.state.gov/the-abraham-accords/


2023年7月21日金曜日

日本株上昇の背景:木野内栄治氏の歴史的視点が不可欠

テレビやYouTubeでおなじみの木野内栄治氏の、今年春夏の日本株急騰に関する説明を紹介したい。同氏は、大和証券理事、チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストで、毎年の日本経済新聞社のアナリストランキングにおいて17回第1位を獲得されている。(大和証券
紹介するのは、「日本株新局面 年後半を大胆予測/モーサテプレミアムセミナー【一部無料】(2023年6月22日)」である。同様の説明は、他の番組でも見られる。

木野内氏は、戦後の日経平均の動きを次のように3つに区分されている。
1)戦後直後からベルリンの壁の崩壊(1989)まで、特徴:デフレからの脱却、反共の砦、
2)ベルリンの壁崩壊からリーマンショック前後(2008、図では明記されていない)、
3)リーマンショック前後から現在まで、デフレからの脱却、反覇権主義の砦。
 図からわかるように1)と3)の時期に株価は上昇、2)は下落を基調とする。

この分析で重要なのは、国際政治経済の歴史的変化が日経平均に大きな影響を与えてきたと言うことである。
戦後の米ソ対立と冷戦で、日本の経済的・政治的な地位と役割が増大し、日本への投資も活発になり、日経平均は上昇した。しかし、1989年のベルリンの壁の崩壊を契機に、米ソ間の対立は弱まり、世界的に平和な環境の下で、中ソへの投資も活発になり、日本の相対的な地位は低下し、日経平均は下落した。
下落の底はリーマンショックであったが、その後復活してきた中ロの経済的・政治的・軍事的な進出が活発になり、2022年にはロシアのウクライナ侵攻と、中国の軍事的な海外進出が本格化し、世界的な緊張が高まっている。そのような背景で、先進各国の企業は、中ロからの撤退やグローバルな調達の再編成を進めている。それは、再び日本の政治的・経済的な地位を上昇させ、日本への投資が活発になり、日経平均は大きく上昇を始めた。
この状況を最もよく象徴しているのが、世界の半導体企業の日本への進出である。最先端企業である台湾のTSMCの熊本への進出、米欧企業の支援を受けたラピダスの設立などである。

2023年5月中旬から始まった日経平均の急上昇について、以上の背景があると、木野内氏は指摘する。2023年7月中旬時点で株価はやや低迷し、今後一定の調整が不可欠だが、上昇は今後もしばらく続くと氏は予想する。
なお、木野内氏は、左の図で、日本への投資が行われている現状と、それが当面続く期間について解説している。

日経平均の長期の動きを、国際政治・経済の歴史的変化から説明される木野内氏の解説は極めて重要である。自由な貿易と投資の環境を重視した経済的理論がしばらく有力であったが、この大きな歴史的変化の時期には、短期的で数量的な分析とともに、木野内氏の解説のような国際経済・政治史的な視点を基礎に置くことが不可欠になっている。
 

2023年7月20日木曜日

奥村茂次先生を偲ぶ会が開かれる。

大阪市立大学名誉教授などを歴任された奥村茂次先生を偲ぶ会が、2023年7月16日に開かれた。奥村先生が亡くなられたのは、2019年11月30日だったが、コロナの感染拡大で、今まで延期されていた。会には、奥村先生との交流が深かった、また様々な形で指導を受けてきた大学関係者が多数参集した。

奥村先生の略歴、学会活動、主な研究業績は以下の通りである。

略歴:1925年3月20日大阪市にて誕生、1947年9月大阪商科大学(現・大阪公立大学)卒業、1950年4月大阪市立大学経済研究所助手、講師(1954年)・助教授(1958年)を経て、1965年10月大阪市立大学経済研究所教授、大学院経済学研究科教授を兼任、1974年3月経済学博士(大阪市立大学)。

学会活動:国際経済学会理事(1972年10月)・同常任理事(1978年11月)、経済政策学会理事(1983年3月・93年5月)、EU学会理事(1984年11月)

主な研究業績[著書]1965年7月『寡占経済と経済成長一現代アメリカ資本主義の実証的研究』、東洋経済新報社、その他多数。

詳しくは、以下のpdfファイルをご参照ください。会の案内状会の式次第(略歴その他を含む)

私にとっての奥村先生は、研究の基本的な姿勢を教えていただいた方である。ずいぶんと過去のことになるが、奥村先生が主宰されていた研究会で、同僚の中川信義先生が、報告を担当された奥村先生が電話帳のような分厚い資料を丹念に調べられている、と賞賛されていたことを思い出す。それは、確かUS Direct Investment Abroadと言うアメリカの直接投資の基本資料だった。この頃以降、私もこれをはじめとする関連資料を活用し、アメリカ内外の多国籍企業の分析を行った。そしてその方法を今も受け継いでいる。

もうひとつ、私にとって奥村先生の編著書で、今でも私が常に参照している文献がある。宮崎犀一・奥村茂次・森田桐郎編『近代国際経済要覧』(東京大学出版会、1981年)である。この文献は、近代から現在(出版時)までの経済史に関する数量的なデータを満載している。

私はこの資料を出発点にし、様々な歴史的文献を調査し、戦間期以降の世界経済の構造と、企業活動の発展の歴史を明らかにしてきた。

以上のように、私の研究の基本的な方法や姿勢は、奥村先生から学んできたと言える。

最後に、奥村先生との個人的な思い出をひとつ記しておきたい。奥村先生の自宅と私の自宅は比較的近く、妻と二人で先生のお宅を訪問したことがあった。当時、先生は奥様とイタリア旅行を楽しまれていた。偲ぶ会で初めてお聞きしたのだが、先生ご夫妻は北イタリアに夏の時期の16年間通われていたそうである。そして、多くの写真や動画を見せていただいたが、先生は奥様のことを「ほら熊さんが歩いている」(失礼な!)と言われながら、お二人の楽しそうなイタリア生活の一部を見せてくださった。

晩年に東京に移られてから、先生にお会いする機会が無いまま、先生は亡くなられた。先生に私の最近の研究をご報告する機会も失ってしまった。今はただ、先生のご冥福をお祈りするばかりです。

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2023年3月23日木曜日

論文集『新たな軍拡競争での米英と中ロの軍需企業』 を作成しました

論文集『新たな軍拡競争での米英と中ロの軍需企業』 を作成しました。(2023.3.23) 以下の論文と序章からなっています。論文集

本論文集は、2023年に入って作成した中ロ、米英の軍需企業についての各論文と、中ロの企業比較を試みた論文を合わせた、4つの論文から成っている。この論文集は、またこれまでまとめてきた、ロシアのウクライナ侵攻に関する2つの論文集である、『ロシアのウクライナ侵攻の背景と対ロ経済制裁』と『戦間期における独ソとその周辺諸国の経済関係』を引き継ぐ、第3の論文集である。

  本論文集の各章は中ロ、アメリカの軍需企業を個別に詳しく検討しているので、本序章は、各軍需企業の活動の背景にある、世界の軍事情勢の特徴を概観したい。

 ロシアのウクライナ侵攻は、核保有の独裁国家の暴走と侵攻が現実にありうること、また、アジアでは、この事実からも同じ独裁国家中国による台湾侵攻が起こることが想定されることを示した。

 このような背景をもとで、中ロの軍需産業について検討するのは不可欠の課題となっている。第2次世界大戦以降、国連の安全保障理事国の中ロが主役となる大規模な侵略戦争は無かったため、軍需企業や産業に関する研究は少なくなっていた。本論文集は、その状態を少しでも改善しようとするひとつの試みである。

目次

序章(作成日時: 2023年3月23日)

はじめに、1 現代の軍拡競争、2 AIと半導体、3 宇宙、4 サイバー戦争、5 米英・中ロの経済・政治と軍需企業比較

第1章 ロシア軍需企業の現在 2021年(作成日時: 2023年1月22日)

はじめに、1 FT500でみる21世紀ロシア企業、2 SIPRI統計でみる21世紀ロシア軍需企業、3 ロシア軍需企業の現在 2021年、おわりに

第2章 軍産複合体としての中国5大軍需企業(作成日時: 2023年2月9日)

はじめに、1 躍進した中国軍需企業、2 軍産複合体としての中国5大軍需企業、3 中国5大軍需企業の上場子会社、おわりに

第3章 世界を代表する米英軍需企業6社(作成日時: 2023年3月7日)

はじめに、1 米英軍需・防衛企業6社の売上と資産、2 米英軍需企業6社の部門別動向、3 ロシアのウクライナ侵攻が世界の軍需企業に与える影響

第4章 ロシア・中国企業比較論 (1) 2021-22年(作成日時: 2022年11月1日)

はじめに、1 中国の対外・対内直接投資、香港とタックス・ヘイブンの役割、2 中国のグローバル企業と中国に進出するグローバル企業、2.1 国有企業を中心とした中国のグローバル企業、2.2 中国企業のアメリカ市場上場廃止の動き、2.3 グローバル企業の進出に依存する中国、2.4 半導体産業における中国企業、紫光集団の行き詰まり、おわりに:ロシア・中国企業比較論序説

2023年1月24日火曜日

「ならず者国家ロシア」の軍需企業

ブレマー氏のユーラシア・グループによる2023年の10大リスクが発表された。最大のリスクは「ならず者国家ロシア」である。このブログでは、そのロシアを支える軍需企業を明らかにしたい。以下は、私の論文の簡単な紹介である。

私の論文は私のwebsite、ユーラシア・グループの10大リスクは、私の政治経済コラムを参照ください。

まず、世界の軍事費ランキングSIPRI (Stockholm International Peace Research Institute)のデータで確認する。アメリカの圧倒的な優位はこの表からも明らかであるが、2021年には中国が急速にアメリカに迫っていることがわかる。

ロシアは、2021年には第5位であるが、2002年から2012年にかけては大幅な増加が見られるものの、2012年からは減少している。2021年には、2012年の世界第3位の地位を失っている。だが、輸出額で見ると、ロシアの地位は高い。『SIPRI 年鑑 2022』によると、「主な兵器貿易国 2017年~2021年」は、アメリカが39%で1位、ロシアは19%で2位である。

次に、SIPRIの武器製造および軍事サービス会社100社調査におけるロシア企業について検討する。
(表はクリックすると大きく表示されます)

最大のロシア軍需企業Rostec State Corporationは、左の表のUnited Aircraft Corp.、Russian Helicopters、United Engine Corp.、Uralvagonzavod などを傘下に持つ。

それ以外の軍需企業としては、ロシア艦船の80%を生産しているUnited Shipbuilding Corp.、ウクライナへのミサイル攻撃の主力のひとつとされる、空中発射の対地攻撃巡航ミサイル「Kh-101」などを生産しているTactical Missiles Corp.、やはりウクライナ攻撃に使われている防空ミサイル・システムS-400など生産するAlmaz-Anteyが有力である。

ところで、実はこれらの企業は、先進民主主義国の電子部品、半導体を多く使っている。イギリスのRoyal United Services Institute (RUSI)は、Silicon Lifeline: Western Electronics at the Heart of Russia's War Machineという報告書を公表した。報告書は、「巡航ミサイル、通信システム、電子戦複合体などを含む、ロシアの最新の軍事システムの27の構成要素と機能」を調査した。その結果について、報告書は「ウクライナで鹵獲またはウクライナに向けて発射されたロシアの軍事機器の技術的検査に基づいて、ロシアの数十億ドル規模の数十年にわたる軍事近代化プログラムが、米国、日本、台湾、韓国、スイス、オランダ、英国、フランス、ドイツで製造されたマイクロエレクトロニクスの広範な使用にどの程度依存してきたかを概説している。」具体的に明らかになった重要な事実のひとつを挙げると、以下の通りである。「RUSI は主に西側の製造業者から調達した独自の部品を450個確認し、そのうち少なくとも318個は米国企業から調達したものであった。」


ロシアの企業は、産業としては石油・天然ガスと、軍需・原子力企業に集中し、それ以外の産業では外国企業に依存している。石油・天然ガスと軍需・原子力企業においてさえ、部品やメンテナンスは外国企業に大きく依存している。電子部品や半導体は言うまでも無い。この状態は、ロシアが強大な軍事・侵略国家ではあるものの、ロシアの致命的な弱点となっている。

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