2023年7月21日金曜日

日本株上昇の背景:木野内栄治氏の歴史的視点が不可欠

テレビやYouTubeでおなじみの木野内栄治氏の、今年春夏の日本株急騰に関する説明を紹介したい。同氏は、大和証券理事、チーフテクニカルアナリスト兼シニアストラテジストで、毎年の日本経済新聞社のアナリストランキングにおいて17回第1位を獲得されている。(大和証券
紹介するのは、「日本株新局面 年後半を大胆予測/モーサテプレミアムセミナー【一部無料】(2023年6月22日)」である。同様の説明は、他の番組でも見られる。

木野内氏は、戦後の日経平均の動きを次のように3つに区分されている。
1)戦後直後からベルリンの壁の崩壊(1989)まで、特徴:デフレからの脱却、反共の砦、
2)ベルリンの壁崩壊からリーマンショック前後(2008、図では明記されていない)、
3)リーマンショック前後から現在まで、デフレからの脱却、反覇権主義の砦。
 図からわかるように1)と3)の時期に株価は上昇、2)は下落を基調とする。

この分析で重要なのは、国際政治経済の歴史的変化が日経平均に大きな影響を与えてきたと言うことである。
戦後の米ソ対立と冷戦で、日本の経済的・政治的な地位と役割が増大し、日本への投資も活発になり、日経平均は上昇した。しかし、1989年のベルリンの壁の崩壊を契機に、米ソ間の対立は弱まり、世界的に平和な環境の下で、中ソへの投資も活発になり、日本の相対的な地位は低下し、日経平均は下落した。
下落の底はリーマンショックであったが、その後復活してきた中ロの経済的・政治的・軍事的な進出が活発になり、2022年にはロシアのウクライナ侵攻と、中国の軍事的な海外進出が本格化し、世界的な緊張が高まっている。そのような背景で、先進各国の企業は、中ロからの撤退やグローバルな調達の再編成を進めている。それは、再び日本の政治的・経済的な地位を上昇させ、日本への投資が活発になり、日経平均は大きく上昇を始めた。
この状況を最もよく象徴しているのが、世界の半導体企業の日本への進出である。最先端企業である台湾のTSMCの熊本への進出、米欧企業の支援を受けたラピダスの設立などである。

2023年5月中旬から始まった日経平均の急上昇について、以上の背景があると、木野内氏は指摘する。2023年7月中旬時点で株価はやや低迷し、今後一定の調整が不可欠だが、上昇は今後もしばらく続くと氏は予想する。
なお、木野内氏は、左の図で、日本への投資が行われている現状と、それが当面続く期間について解説している。

日経平均の長期の動きを、国際政治・経済の歴史的変化から説明される木野内氏の解説は極めて重要である。自由な貿易と投資の環境を重視した経済的理論がしばらく有力であったが、この大きな歴史的変化の時期には、短期的で数量的な分析とともに、木野内氏の解説のような国際経済・政治史的な視点を基礎に置くことが不可欠になっている。
 

2023年7月20日木曜日

奥村茂次先生を偲ぶ会が開かれる。

大阪市立大学名誉教授などを歴任された奥村茂次先生を偲ぶ会が、2023年7月16日に開かれた。奥村先生が亡くなられたのは、2019年11月30日だったが、コロナの感染拡大で、今まで延期されていた。会には、奥村先生との交流が深かった、また様々な形で指導を受けてきた大学関係者が多数参集した。

奥村先生の略歴、学会活動、主な研究業績は以下の通りである。

略歴:1925年3月20日大阪市にて誕生、1947年9月大阪商科大学(現・大阪公立大学)卒業、1950年4月大阪市立大学経済研究所助手、講師(1954年)・助教授(1958年)を経て、1965年10月大阪市立大学経済研究所教授、大学院経済学研究科教授を兼任、1974年3月経済学博士(大阪市立大学)。

学会活動:国際経済学会理事(1972年10月)・同常任理事(1978年11月)、経済政策学会理事(1983年3月・93年5月)、EU学会理事(1984年11月)

主な研究業績[著書]1965年7月『寡占経済と経済成長一現代アメリカ資本主義の実証的研究』、東洋経済新報社、その他多数。

詳しくは、以下のpdfファイルをご参照ください。会の案内状会の式次第(略歴その他を含む)

私にとっての奥村先生は、研究の基本的な姿勢を教えていただいた方である。ずいぶんと過去のことになるが、奥村先生が主宰されていた研究会で、同僚の中川信義先生が、報告を担当された奥村先生が電話帳のような分厚い資料を丹念に調べられている、と賞賛されていたことを思い出す。それは、確かUS Direct Investment Abroadと言うアメリカの直接投資の基本資料だった。この頃以降、私もこれをはじめとする関連資料を活用し、アメリカ内外の多国籍企業の分析を行った。そしてその方法を今も受け継いでいる。

もうひとつ、私にとって奥村先生の編著書で、今でも私が常に参照している文献がある。宮崎犀一・奥村茂次・森田桐郎編『近代国際経済要覧』(東京大学出版会、1981年)である。この文献は、近代から現在(出版時)までの経済史に関する数量的なデータを満載している。

私はこの資料を出発点にし、様々な歴史的文献を調査し、戦間期以降の世界経済の構造と、企業活動の発展の歴史を明らかにしてきた。

以上のように、私の研究の基本的な方法や姿勢は、奥村先生から学んできたと言える。

最後に、奥村先生との個人的な思い出をひとつ記しておきたい。奥村先生の自宅と私の自宅は比較的近く、妻と二人で先生のお宅を訪問したことがあった。当時、先生は奥様とイタリア旅行を楽しまれていた。偲ぶ会で初めてお聞きしたのだが、先生ご夫妻は北イタリアに夏の時期の16年間通われていたそうである。そして、多くの写真や動画を見せていただいたが、先生は奥様のことを「ほら熊さんが歩いている」(失礼な!)と言われながら、お二人の楽しそうなイタリア生活の一部を見せてくださった。

晩年に東京に移られてから、先生にお会いする機会が無いまま、先生は亡くなられた。先生に私の最近の研究をご報告する機会も失ってしまった。今はただ、先生のご冥福をお祈りするばかりです。

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