2014年3月6日木曜日

『伊藤若冲 動植綵絵 調査研究篇』、Jakuchu Itoh

伊藤若冲には、一般向けの多数の解説書とともに、その調査研究をまとめた貴重な研究文献がある。
伊藤若冲・動植綵絵 : 全三十幅、伊藤若冲 [画] ; 宮内庁三の丸尚蔵館, 東京文化財研究所, 小学館編集、小学館, 2010.1である。これは動植綵絵全三十幅そのものと、 調査研究篇からなっている。
非常に専門的な内容ではあるが、若冲を理解する上では重要なので、多くの人が読んでほしい書籍である。高価ではあるが、その価格にふさわしい内容となっている。

この調査研究篇の冒頭で、太田彩氏は次のように述べている。「宮内庁三の丸尚蔵館で所蔵する伊藤若冲の『動植綵絵』全30幅は、・・・平成11年度から16年度の6か年をかけて、本格的な解体修理を行なった。その際に、すでに公表した裏彩色の使用が確認されるなど、この美しい作品の描法の秘密が明らかになった」
「本書は、修理の際の調査、そして修理後も続行した絵具の調査と高精細画像による細部の調査を総合して、『動植綵絵』の描写について、絵具の種類、その用い方、描写方法など、できるだけ多くの図版を用いて視覚的に紹介し、同時に調査内容とその結果を紹介することを目的に企画したものである。」

この書籍で、若冲の描画技術が、具体的に視覚的によくわかる。左上は、『動植綵絵』のうち最も有名な「老松白鳳図」であるが、その裏彩色を見たのが、右の図である。表から描くだけではなく、裏からも別の描きかたをすることで、非常に多彩な表現が可能になる。また、以下のように金泥などを使わずに金色にみせるということもできている。

特に、ここで注目されるのは、この図の金色である。「金(金茶)部分では裏面に裏彩色として、黄土あるいは代赭などを塗り、表面にCa系白色顔料を薄くあるいは線描きすることで、絹を通して裏面の黄(茶) 色を透けて見せ、絹の光沢感を利用して金色として認識させるという、高度な描写が行なわれている。金泥などの材料をいっさい使わずに、これだけ美しい金色を見せることのできる彩色は、若冲の高い描写技術を裏付けるもののひとつである。」(調査研究篇、p.101)

もうひとつを紹介してみたい。「紅葉小禽図」である。
この図は、『動植綵絵』の最後の時期に書かれている。この図に近寄って、紅葉の色をよく見ると、まさに紅葉の最中の葉や、もう紅葉が終わり、散りそうになっている葉など、多彩に描き分けられているのがわかる。その違いを生み出しているのが、やはり右の裏彩色の図である。


「薄墨で描かれた葉、印章の横の枝から離れた1枚を除いて、ほとんどの紅葉に裏彩色がある。裏彩色の色は赤、資色みがかった赤、ピンク色みのある赤、黄色などで、絵具の厚みの差も加わってさまざまである。」(調査研究篇、p.91)

若冲の作品の科学的研究は、こうして画期的に前進した。非常に長い間、低い評価しか与えられなかった作品群が一気に甦った。
この再評価は、江戸時代の文化や社会の再評価をさらに進めるだろう。

同じようなことが他の文化の分野にとどまらず、経済や企業活動についても言える。
これまでの常識を絶えず科学的に再検証していく動きは止まることはないだろう。

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