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以下の内容を踏まえたYouTube動画を作成しました。「岡田美術館で歌麿の「雪月花」三部作を見る」、ぜひご覧ください。https://youtu.be/c2GCTUIQYKw (2023.9.23)
English Abstract
Rediscovery of Kitagawa Utamaro's "Fukagawa in the Snow" and his triptych
"Fukagawa in the Snow" was rediscovered in 2012, and exhibited after restoration at the Okada Museum of Art in 2014. The exhibition’s pictorial record introduces not only "Fukagawa in the Snow," but also Utamaro’s triptych, including "Cherry Blossoms at Yoshiwara" at the Wadsworth Atheneum Museum of Art and "Moon at Shinagawa" at the Freer Gallery of Art. With the rediscovery and exhibition of "Fukagawa in the Snow" as a starting point, we hope that interest in Utamaro’s triptych increases. We also hope that the publication of these works will soon occur so that we can enjoy the high definition pictures of the triptych.
喜多川歌麿の「深川の雪」が2012年に再発見され修復の後、2014年に岡田美術館で公開された。当時忙しく見落としていたが、このたび岡田美術館から図録を購入できたのでぜひとも紹介したい。図録は、日英両国語で作成されていて、海外にもこの作品を伝えようという、美術館の強い意志が感じられる。
私はこのブログで、喜多川歌麿を以下の2回取り上げたが、この三部作によって、改めて歌麿の作品のすばらしさを感じることができた。
「世界で最も美しい画本:喜多川歌麿、Kitagawa Utamaro」 (2013.5.2)
「深川の雪」は、「江戸随ーの芸者の町、深川の大きな料亭の二階座敷で、辰巳芸者と呼ばれた芸者や飲食の用意をする女性たちが、子どもや猫とともに多彩に描き出されている。・・・制作時期は、享和年間から文化初年(1802~06年)ころ、歌麿最晩年と推定されている。」(p.7)198.8×341.1 cmの大きな画面いっぱいに描かれている。
中央に降り積もる雪からからわかるように時期は冬、登場人物は27名の女性と子供のみである。画面上下には、うすい青色の雲がかかっている。それぞれの女性の着物は、色や模様など豪華に細密に描き分けられている、岡田美術館の図録は一人一人を切り取った画像も掲載しているが、女性の仕草や表情は、歌麿の他の浮世絵と同じように微妙に違っている。そして、それらの人々が、座敷のあちこちで様々なドラマを繰り広げている。
もうひとつは、アメリカ・コネチカット州ハートフォードにあるワズワース・アセーニアム美術館が所蔵している「吉原の花」である。寛政3~4年(1791~92)頃の作品である。(186.7×256.9 cm)
「吉原遊廓の大通り、仲の町に面した引手茶屋と路上を行き来する女性や子供、総計52人もの群像がはなやかに描かれている。・・・、贅沢を禁止する寛政の改革を風刺しているようにも思われる。」(9)
三部作の中では、全体としての金色と思われる色を中心とした色調と、女性達の衣装の多彩さなどから、最も豪華に見える。その豪華さと、武家の女性の参加が、解説にあるように、幕府の改革への批判となっているのだろう。満開に咲き誇る桜の下、二階立ての建物の上の階で、賑やかな宴会が開かれている。楽器の音、人々の歌い声や話し声までもが伝わってきそうである。
最後に、アメリカ・ワシントンD.C.のフリーア美術館が所蔵する「品川の月」である。「土蔵相模とうたわれた品川の有名な妓楼(食売旅籠)の二階座敷の様子を、まるで芝居の舞台でもあるかのように、広く、深く見渡した画面になっている。・・・天明8年(1788)頃の制作と考えられ、三部作のうちでもっとも早期の作品である。」(8)(147.0 x 319.0 cm)
この作品のみ、部屋の外にある海の遠くまで見渡せていて、海には何艘もの船が見える。海の彼方には月が浮かんでいる。遠近法が使われていて、画面の奥行きを最も強く感じられる。ここでも登場人物は女性と子供であるが、左上の奥の部屋には男性と思われる影が見える。
三部作が、場所、季節、登場人物などを意図的に描き分けているため、これらがひとつの構想で描かれた作品であることを推測させる。これらの作品を通じて、歌麿は大首絵とは異なった壮麗な世界を描いたのである。
三部作の制作を依頼したのは、栃木の豪商「釜伊」こと釜屋善野伊兵衛だと言われる。(4)幕府から、浮世絵に対して様々な弾圧を受けていた歌麿が栃木でこのような大作を完成させたこと、栃木の有力者があえてそれを支援した事実はとても興味深い。なお、今栃木市役所に三部作の高精細画像が展示されているという。残念ながら、図録の「深川の雪」以外の画像の解像度は小さいので、ぜひそれらの画像で見てみたい。
インターネットでの三部作についての記事を調べてみたが、上記のアメリカの2つの美術館を含め非常に少ない。「深川の雪」の再発見と、展覧会開催の機会に、歌麿のこの三部作への関心がいっそう高まることを期待したい。また、できるだけ早く、三部作すべての高精細な画像を楽しめる出版物が登場することも望みたい。
Rediscovery of Kitagawa Utamaro's "Fukagawa in the Snow" and his triptych
"Fukagawa in the Snow" was rediscovered in 2012, and exhibited after restoration at the Okada Museum of Art in 2014. The exhibition’s pictorial record introduces not only "Fukagawa in the Snow," but also Utamaro’s triptych, including "Cherry Blossoms at Yoshiwara" at the Wadsworth Atheneum Museum of Art and "Moon at Shinagawa" at the Freer Gallery of Art. With the rediscovery and exhibition of "Fukagawa in the Snow" as a starting point, we hope that interest in Utamaro’s triptych increases. We also hope that the publication of these works will soon occur so that we can enjoy the high definition pictures of the triptych.
喜多川歌麿の「深川の雪」が2012年に再発見され修復の後、2014年に岡田美術館で公開された。当時忙しく見落としていたが、このたび岡田美術館から図録を購入できたのでぜひとも紹介したい。図録は、日英両国語で作成されていて、海外にもこの作品を伝えようという、美術館の強い意志が感じられる。
私はこのブログで、喜多川歌麿を以下の2回取り上げたが、この三部作によって、改めて歌麿の作品のすばらしさを感じることができた。
「世界で最も美しい画本:喜多川歌麿、Kitagawa Utamaro」 (2013.5.2)
中央に降り積もる雪からからわかるように時期は冬、登場人物は27名の女性と子供のみである。画面上下には、うすい青色の雲がかかっている。それぞれの女性の着物は、色や模様など豪華に細密に描き分けられている、岡田美術館の図録は一人一人を切り取った画像も掲載しているが、女性の仕草や表情は、歌麿の他の浮世絵と同じように微妙に違っている。そして、それらの人々が、座敷のあちこちで様々なドラマを繰り広げている。
もうひとつは、アメリカ・コネチカット州ハートフォードにあるワズワース・アセーニアム美術館が所蔵している「吉原の花」である。寛政3~4年(1791~92)頃の作品である。(186.7×256.9 cm)
「吉原遊廓の大通り、仲の町に面した引手茶屋と路上を行き来する女性や子供、総計52人もの群像がはなやかに描かれている。・・・、贅沢を禁止する寛政の改革を風刺しているようにも思われる。」(9)
三部作の中では、全体としての金色と思われる色を中心とした色調と、女性達の衣装の多彩さなどから、最も豪華に見える。その豪華さと、武家の女性の参加が、解説にあるように、幕府の改革への批判となっているのだろう。満開に咲き誇る桜の下、二階立ての建物の上の階で、賑やかな宴会が開かれている。楽器の音、人々の歌い声や話し声までもが伝わってきそうである。
最後に、アメリカ・ワシントンD.C.のフリーア美術館が所蔵する「品川の月」である。「土蔵相模とうたわれた品川の有名な妓楼(食売旅籠)の二階座敷の様子を、まるで芝居の舞台でもあるかのように、広く、深く見渡した画面になっている。・・・天明8年(1788)頃の制作と考えられ、三部作のうちでもっとも早期の作品である。」(8)(147.0 x 319.0 cm)
この作品のみ、部屋の外にある海の遠くまで見渡せていて、海には何艘もの船が見える。海の彼方には月が浮かんでいる。遠近法が使われていて、画面の奥行きを最も強く感じられる。ここでも登場人物は女性と子供であるが、左上の奥の部屋には男性と思われる影が見える。
三部作が、場所、季節、登場人物などを意図的に描き分けているため、これらがひとつの構想で描かれた作品であることを推測させる。これらの作品を通じて、歌麿は大首絵とは異なった壮麗な世界を描いたのである。
三部作の制作を依頼したのは、栃木の豪商「釜伊」こと釜屋善野伊兵衛だと言われる。(4)幕府から、浮世絵に対して様々な弾圧を受けていた歌麿が栃木でこのような大作を完成させたこと、栃木の有力者があえてそれを支援した事実はとても興味深い。なお、今栃木市役所に三部作の高精細画像が展示されているという。残念ながら、図録の「深川の雪」以外の画像の解像度は小さいので、ぜひそれらの画像で見てみたい。
インターネットでの三部作についての記事を調べてみたが、上記のアメリカの2つの美術館を含め非常に少ない。「深川の雪」の再発見と、展覧会開催の機会に、歌麿のこの三部作への関心がいっそう高まることを期待したい。また、できるだけ早く、三部作すべての高精細な画像を楽しめる出版物が登場することも望みたい。