2016年2月17日水曜日

投資の2つのバイブル(2): 「敗者のゲーム」 、Winning the Loser's Game

前回のブログを引き次いで、今回のブログは、もうひとつの投資のバイブルとして評価の高いチャールズ・エリスの『敗者のゲーム 原著第6版』(Winning the Loser's Game, 6th edition: Timeless Strategies for Successful Investing)を取り上げたい。このブログでもできるだけエリスの記述を忠実に整理して紹介することにしたい。

工リスは1937年生まれ、1972年にグリニッジ・アソシエイツを設立。以後、30年にわたり代表パートナーとして、投資顧問会社や投資銀行などの経営・マーケティング戦略に関する調査、コンサルティングに従事する。2001年6月代表パートナーを退任。現在、ホワイトヘッド財団理事長。この間、イェール大学財団基金投資委員会委員長、米国公認証券アナリスト協会会長、バンガード取締役などを歴任している。

第1部「資産運用でまず押さえるべきこと」の冒頭で右の図 ウィルシャ-5000インデックスに勝てなかった株式ファンドの比率が示される。「年間成績では約6割のマネジャーが市場平均を下回る。10年では7割、20年では8割のマネジャーが市場に負けている。」(19-20)期間が長ければ長いほど、この傾向が顕著になることがわかる。

その背景についてこう続ける、「過去50年において、アクティブ運用を「敗者のゲーム」に変えてきた背景をここで整理してみよう。
・ニューヨーク証券取引所の1日の売買高は2000倍以上に増加、各国主要市場においても同様、
・投資家の構成は個人投資家90%から、機関投資家90%へと変化、・・・」(31-2)などが挙げられている。

このような条件の下では、インデックス・ファンドは、少ないコストで優れた結果をもたらす。その理由は以下の通りだと言う。
「第一に、証券市場は誰もが参加でき、自由で競争的な市場であり、・・・特定のファンド・マネジャーが競争相手に継続的に勝ち続けるのは難しい。
第二に、このような市場は「効率的市場」と言うことができる。
第三に、こうした「効率的市場」においては、株価は過去・現在・将来に関するその企業のあらゆる情報を「織り込んで」いる。
第四に、「効率的市場」における価格形成が常に正しいとは限らない。・・・総体としての投資家も、しばしば判断を間違える。しかしその場合も、いずれはさまざまな情報に基づく売買が始まり、行きすぎの訂正が起こる。その意味で十分「効率的」と言える。」(68-70)

第2部「運用を少し理論的に見てみよう」では、収益率が幅広く検討され、株式と他の投資が比較される。
図8-1は、アメリカ資本市場の投資リターンの実績を示している。年率リターン(1926~2012年)が、株式9.7%、債券5.4%、短期財務省証券3.9%、
インフレーション3.0%である。「インフレ調整後で、十分に長い期間で見ると、投資収益率が、実は一定しているという点が明確になってくる。」(92)
なお、興味深いのは、「1930~1955年、そして1965~1985年という長い間、株価はほとんど上
昇していないが、この間の配当再投資による資産増加は非常に大きい。」と言うことも図15-2(148)で示されている。

これらを踏まえて、成功する運用基本方針策定のポイント(5段階)が、次のように示される。
「〈第1段階〉自分自身の長期運用目的の確認と、その達成のために望ましい資産配分比率の策定:株式・債券などへの配分。
〈第2段階〉株式ポートフォリオの構成の決定:成長株対割安株、大型株対小型株、国内株対海外株など。
〈第3段階〉アクティブ対パッシブ比率の決定:多くの投資家にとっては、長期的にはパッシブがお勧め。
〈第4段階〉個別ファンドの選択、〈第5段階〉アクティブな運用。」(116-7)
このように、様々な投資目的を持つ個々の投資家にとって必要な基本的な指針を明確にし、その中でのインデックス・ファンドの重要性を説いている。

第3部「個人投資家への助言」では、個人投資家が持つ様々な問題に答えている。個人投資家のための十戒(150-153)、投資信託どう選ぶ(第16章)、生涯を通じた投資プラン(第18章)などである。
終章でエリスは、「私の関心は、市場に勝とうとして虚しい努力を続ける「敗者のゲーム」から、長期資産配分と運用基本政策の確立・堅持という「勝者のゲーム」へと移っていった。」(217)と述べている。この本のねらいと結論が、この短い文章に良く表されていると思う。

インデックス・ファンドは、1971年にウェルズ・ファーゴ銀行が年金向けとして株式インデックス・ファンドを立ち上げたのが始まりといわれている。現在では多数のインデックス・ファンドが販売されている。さらに、証券取引所に上場し、株価指数などに代表される指標への連動を目指す投資信託ETF (Exchange Traded Funds)も急激に取引を拡大している。

エリスの著作は、叙述と結論がとても明解で、それを説明する資料もわかりやすい。その意味でも、投資のバイブルと呼ばれるにふさわしい書籍である。この本も、多くの人にぜひお薦めしたい一冊である。
ところで最後に、本ブログで取り上げた2冊の書籍の問題提起が深まり、個人投資家に役立つ投資プランが作成できるようになるためには、株式市場と投資信託、企業のデータなどの長期にわたって自由に使えるようなデータベースが作成されることが求められているように思われる。その登場を期待したい。

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