2017年11月23日木曜日

『北斎肉筆画の世界』(TJmook, 内藤正人監修)

YouTubeチャンネルを開設しました。新保博彦のチャンネルです。以下の内容を含む「北斎の須佐之男命厄神退治之図と晩年の大作群」を作成しました。(2023.5.22)

『北斎肉筆画の世界』
が2017年6月に宝島社から、内藤正人氏の監修で刊行された。北斎の肉筆画をまとめて紹介するというとても興味深い試みで、そのなかには「暁の富士」「鶏竹図」などの本邦初公開の作品が含まれる。
また、本が縦29.6cm、横23.5cmのサイズなのでそれぞれの作品がとても見やすい。2ページの見開きの作品が、折り目を気にせず読めるような綴じ方が採用されていれば、なお良かったと思われる。

まず本邦初公開の一つ目の作品「暁の富士」(1843年, 84歳)である。以下に紹介する作品の中では、最も後期に属する。

詳しく見ると、点描を多用している。同書は、「あっさりした色彩ともあいまって、なかには十九世紀フランスの画家ジョルジュ・スーラを思い出す人もいるはずだ。」(同書14,ページ、以下同じ)と解説している。
北斎は周知のようにいくつも富士を描いているが、その都度新たな表現方法を試みていて、この作品はそのひとつである。

もうひとつの本邦初公開の作品が、「鶏竹図」(1804-18年, 45-59歳)である。「暁の富士」よりもずっと遡る初期の作品である。鶏と言えば若冲だが、北斎の鶏も特にその白と黒の羽根は鮮やかに細密に描かれている。
「清の沈南蘋を祖とする中国花鳥画の新風を独習した北斎の、写生風を基盤とする新鮮な作風を示す」(16)と説明されている。北斎がどのように先駆者から学んだかを示す作品である。


同書第1章は「肉筆画の衝撃」で、そこで上記2作品などが紹介されているが、第2章は「美人画こそが北斎の真髄」として、その代表作の「二美人図」(1801-04年, 42-45歳)などが紹介されている。

「立ち姿と座り姿とを対比し、すらりと伸びた遊女の体躯と奥ゆかしく足元に座る芸者の姿が調和している」(56)
私は2人の着物の柄にも注目したい。濃紺と赤、茶など鮮明な色が多彩に使われているが、描かれている文様がいくつも細かく描き分けられていて見事である。
「本作は、三葉葵の紋のついた表装であることから、徳川将軍家またはその周辺からの特別注文として制作された可能性が指摘されている。」(56)

第3章は「画狂人の超絶技巧」である。章の冒頭にあるのが、左の「鳳凰図」(1835年, 76歳)。原図は八曲一隻(せき)屏風で、横は2mもあり、ここには掲載しにくいので、中央やや左の鳳凰の顔を中心とした部分のみ掲載した。

鳳凰には長く伸びた羽毛、そのそれぞれの先端には目のようなものが付いていて、あらゆる方向に伸びている。
そして緑、青、赤などの原色で描かれた羽根を大きく拡げながら、鳳凰の目つきは鋭く前方を見つめている。

もうひとつ「鯉亀図」(1813年, 54歳)も紹介しよう。これもかなり横長なので、左の落款の部分が欠けている。
「水草と鯉の眼の部分に淡く藍色が施されているだけの、ほぼ墨の濃淡だけで描かれている作品」(82)である。
水の中を泳いでいるのか、空中を浮遊しているのか、どちらにも見える。鯉の鱗は、単色で描かれているのに身の厚みを感じさせる。そして鳳凰と同様に、鯉の目の見つめ方が柔らかいがとても鋭い。

『北斎肉筆画の世界』に掲載されている作品はあまりにも多数で、とても紹介しきれない。それらはそれぞれが異なったテーマと描き方をしていて、北斎は肉筆画でもその能力を遺憾なく発揮している。ぜひ見ていただきたい一冊である。

なお、私のブログには、「北斎晩年最大の傑作、須佐之男命厄神退治之図 No.1」もある。あわせてご覧いただければ幸いです。

ブログのTOPブログの目次新保博彦のホームページ

2017年11月17日金曜日

イルデパン 2017年10月

念願のニューカレドニアのイルデパン(Île des Pins, 松の島)に行きました。グランドテール島のヌメアからは飛行機で約30分。ニューカレドニア全体がとても美しい島々ですが、イルデパンは島全体がひときわ美しい。このブログには、いくつかの動画を入れてみました。動画はいったんYouTubeにuploadしてから掲載しましたが、うーん、当然ながら画質が今ひとつです。

今回とても良かったのが、宿泊したコテージがオロ(Oro)湾のすぐ近くで、湾とピッシンヌ・ナチュレール(Piscine Naturelle, 天然のプール)を結ぶ川のほとりにあり、湾と川の両方を楽しめたことだった。川は朝、湾からピッシンヌ・ナチュレールへ流れ、しばらくたつと一時水量が減るが、夕方になるとピッシンヌ・ナチュレールから湾に流れる。水の流れの音だけではなく、周囲の森からは絶えず風の音と、様々な鳥の声が聞こえる。


東海岸にあるオロ湾とは反対の、西海岸に位置するのが、クト(Kouto)湾カヌメラ(Kanumera)湾。すぐ隣り合わせだが、どちらもイルデパンの深く透明な海のすばらしさがとてもよくわかる。座って海を眺めていると、すっかり時を忘れてしまう。
左の写真はカヌメラ湾だが、真っ青な海と、水に沈んだ白い木々が対照的である。

下は、カヌメラ湾のすぐ近くのクト湾である。延々と続く白い砂浜、強い日差し、そしてもちろん真っ青な海、この日はとても風が強かったので、動画には風の音、波の音、そして鳥の声が聞こえる。


下は、改めてイルデパン島の最も有名で、この島を訪れた人が必ず向かうピッシンヌ・ナチュレールの動画である。名前の通り自然にできたプールで、浅いので多くの人が泳いだり潜ったりしている。昼になると観光客も増え、水量が減るので、朝早い時間に出かけ、静かなピッシンヌ・ナチュレールを思う存分楽しんだ。
途中、どこからともなく黒い犬が現れ、ピッシンヌ・ナチュレールはこっちだよと言うかのように導いてくれた。とても不思議な体験だった。

  

今度は、ピッシンヌ・ナチュレールから反対方向を見た動画である。こちらの方向で見ると、オロ湾に向かって流れる澄み切った川と高い松がとても美しい。


最後に、グランドテール島のヌメアにあるニューカレドニア博物館に出かけた。ここでは、ニューカレドニアの歴史と文化が学べる。
たまたま、小学生の見学ツァーと遭遇、日本語でお互いに挨拶した。とても人なつこいこども達だった。

ブログのTOPブログの目次新保博彦のホームページ