2017年11月23日木曜日

『北斎肉筆画の世界』(TJmook, 内藤正人監修)

『北斎肉筆画の世界』が2017年6月に宝島社から、内藤正人氏の監修で刊行された。北斎の肉筆画をまとめて紹介するというとても興味深い試みで、そのなかには「暁の富士」「鶏竹図」などの本邦初公開の作品が含まれる。
また、本が縦29.6cm、横23.5cmのサイズなのでそれぞれの作品がとても見やすい。2ページの見開きの作品が、折り目を気にせず読めるような綴じ方が採用されていれば、なお良かったと思われる。

まず本邦初公開の一つ目の作品「暁の富士」(1843年, 84歳)である。以下に紹介する作品の中では、最も後期に属する。

詳しく見ると、点描を多用している。同書は、「あっさりした色彩ともあいまって、なかには十九世紀フランスの画家ジョルジュ・スーラを思い出す人もいるはずだ。」(同書14,ページ、以下同じ)と解説している。
北斎は周知のようにいくつも富士を描いているが、その都度新たな表現方法を試みていて、この作品はそのひとつである。

もうひとつの本邦初公開の作品が、「鶏竹図」(1804-18年, 45-59歳)である。「暁の富士」よりもずっと遡る初期の作品である。鶏と言えば若冲だが、北斎の鶏も特にその白と黒の羽根は鮮やかに細密に描かれている。
「清の沈南蘋を祖とする中国花鳥画の新風を独習した北斎の、写生風を基盤とする新鮮な作風を示す」(16)と説明されている。北斎がどのように先駆者から学んだかを示す作品である。


同書第1章は「肉筆画の衝撃」で、そこで上記2作品などが紹介されているが、第2章は「美人画こそが北斎の真髄」として、その代表作の「二美人図」(1801-04年, 42-45歳)などが紹介されている。

「立ち姿と座り姿とを対比し、すらりと伸びた遊女の体躯と奥ゆかしく足元に座る芸者の姿が調和している」(56)
私は2人の着物の柄にも注目したい。濃紺と赤、茶など鮮明な色が多彩に使われているが、描かれている文様がいくつも細かく描き分けられていて見事である。
「本作は、三葉葵の紋のついた表装であることから、徳川将軍家またはその周辺からの特別注文として制作された可能性が指摘されている。」(56)

第3章は「画狂人の超絶技巧」である。章の冒頭にあるのが、左の「鳳凰図」(1835年, 76歳)。原図は八曲一隻(せき)屏風で、横は2mもあり、ここには掲載しにくいので、中央やや左の鳳凰の顔を中心とした部分のみ掲載した。

鳳凰には長く伸びた羽毛、そのそれぞれの先端には目のようなものが付いていて、あらゆる方向に伸びている。
そして緑、青、赤などの原色で描かれた羽根を大きく拡げながら、鳳凰の目つきは鋭く前方を見つめている。

もうひとつ「鯉亀図」(1813年, 54歳)も紹介しよう。これもかなり横長なので、左の落款の部分が欠けている。
「水草と鯉の眼の部分に淡く藍色が施されているだけの、ほぼ墨の濃淡だけで描かれている作品」(82)である。
水の中を泳いでいるのか、空中を浮遊しているのか、どちらにも見える。鯉の鱗は、単色で描かれているのに身の厚みを感じさせる。そして鳳凰と同様に、鯉の目の見つめ方が柔らかいがとても鋭い。

『北斎肉筆画の世界』に掲載されている作品はあまりにも多数で、とても紹介しきれない。それらはそれぞれが異なったテーマと描き方をしていて、北斎は肉筆画でもその能力を遺憾なく発揮している。ぜひ見ていただきたい一冊である。

なお、私のブログには、「北斎晩年最大の傑作、須佐之男命厄神退治之図 No.1」もある。あわせてご覧いただければ幸いです。

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