同書は、筑摩書房創業80周年記念出版「ちくまプリマー新書新シリーズ」の1冊だが、そのすばらしい構成に驚かされる。左のような、67の高精細な画像が、場合によっては見開きのページで掲載されている。
目次は以下の通り。
はじめにー謎と不思議の天才絵師、伊藤若冲、第1章 生い立ち──画家としての出発、第2章 《動植綵絵》制作──画家としての名声確立、コラム1 若冲は人物画が苦手?、第3章 若冲画の世界──その多様さ、おもしろさ、コラム2 《動植綵絵》は隠し絵の宝庫?、第4章 画業の空白期と、新たな若冲像、コラム3 作品にひそむ科学の視点──フラクタルと進化論、第5章 激変した生活──最後まで画家であり続けた晩年、コラム4 精神医学からみる若冲の絵画表現、あとがき、若冲年表、参照文献。
私は、彼の作品を紹介した文献・資料をこのブログでいくつも紹介してきた。未発見の大作 伊藤若冲「十六羅漢図」(2019.8.22)、『若冲の世界』(TJmook, 狩野博幸監修) (2017.12.23)、太田彩『伊藤若冲作品集』で若冲の全作品を愉しむ (2016.7.6)、『若冲原寸美術館 100%Jakuchu!』、原寸図で若冲を楽しむ (2016.6.29)、『伊藤若冲 動植綵絵 調査研究篇』、Jakuchu Itoh (2014.3.6.)などである。
そこで、今回のブログでは、私が辻氏のこの著作で特に関心を持った箇所に限って、詳しく紹介したい。
辻氏は、若冲が「動植綵絵」を生命感に溢れた極彩色の絵画として描いた理由について、次のようにまとめられている。「その有力な仮説として挙げられるのは、仏教の「草木国土悉皆(しっかい)成仏」という思想を若冲なりに解釈し、絵として具現化したものなのではないか、というものです。「草木」は植物や生き物、「国土」はまさに国土を形成する鉱物や無生物などのことで、両者を合わせると「自然界のすべてのもの」となります。つまり「草木国土悉皆成仏」とは、自然界にあるすべてのものが仏性をそなえ、仏になれる可能性をもっているという意味の言葉です。」(94、数字は本書ページ数、以下同じ)「「草木国土悉皆成仏」とはそのような、「アニミズム」と呼ばれる世界観をもつ思想です。」(95)「アニミズムというのは、石などの無生物も含めて自然界のありとあらゆるものに霊魂が宿るとする世界観であり、そういった霊的な存在に対する信仰のことをいいます。」(96-7)その感覚は、冒頭に掲載した「貝甲図」や「地辺群虫図」(図24)によく表れている。
辻氏は、「コラム1 若冲は人物画が苦手?」で、人物画について、「下手といってもいいほどで」と書かれている。(107)しかし私は、若冲の「草木国土悉皆成仏」思想が、人間を特別の対象とするルネッサンスの画家達と異なって、人間を特別な存在として注力して描かなかった理由ではないかと思う。