『千葉市美術館所蔵 新版画ー進化系UKIYO-Eの美』が、(
2021年)9月15日(水)から27日(月)までの日程で、大阪高島屋 7階グランドホールで始まった。特に吉田博の作品に興味があり、ブログでも取り上げているので早速出かけた。左は、展覧会の図録の表紙、川瀬巴水の「東京十二ヶ月 谷中の夕映」である。川瀬巴水については、機会を改めて取り上げたい。
「新版画は、江戸時代に目覚ましい進化を遂げた浮世絵版画の技と美意識とを継承すべく、大正初年から昭和のはじめにかけて興隆したジャンル」とされる。今回の展覧会は、千葉市美術館が誇る約120点で構成され、小原古邨、伊東深水、川瀬巴水、山村耕花、吉川観方、小早川清、橋口五葉、吉田博、などの多数の作品が展示されている。
展覧会は、プロローグ 新版画誕生の背景、第1章 新版画、始まる、第2章 渡邊版の精華、第3章 渡邊庄三郎以外の版元の仕事、第4章 私家版の世界という構成となっている。やはり私は、展示の最後に位置する吉田博の作品に注目した。まず、「雲井櫻」である。作品は53.9×70.7cmと大きい。「明治32年に吉田博が初めてアメリカで自作を展示した際、デトロイト美術館に唯一買い上げられた作品が同構図の水彩画であった。」「摺りに際しては版木と紙の収縮率の違いから木と花がずれてしまい、ふたりの摺師を使ってようやく摺りあげたと伝わる。」(展覧会図録からの引用、以下同じ)吉田博作品の、刷りの特別の多さはよく知られているが、作品に近寄って見てみると、桜の花と木のずれは見事に無く、重ね刷りの跡は見つからない。画集などではとてもわからない技術の高さには本当に驚いた。
次に、吉田博を代表する「渓流」である。「《雲井櫻》とともに、吉田博が制作した特大版6点のうちの1点。」この作品もまた、右の画像サイズではとてもわからない、水の表現の驚くべき多彩さとひとつひとつの精緻な動きが、実物からよくわかる。
私の以前のブログでは、「流れ落ちる水と渦巻く水が、信じられないような精細さで描かれている。水の音が聞こえてきそうである。」と書いた。実物を鑑賞して、改めてその感を強くした。
追記:これまで私が作成した吉田博についてのブログは以下の通りです。(2021.10.23)
「『吉田博 全木版画集 増補新版』刊行される」(2021年10月23日)、「没後70年 吉田博展(2019-21)、図録の紹介」(2020年12月2日)、「『吉田博 全木版画集』」(2017年1月9日)
「豊かに流れる黒髪の圧倒的な存在感や女性の清雅なたたずまいが印象的な、五葉の私家版を代表する1点。」橋口五葉の「髪梳ける女」である。やはりこの画像からはわかりにくいが、豊かな黒髪の黒の鮮やかさと、髪の一本一本が見事に丁寧に描かれている。高島屋の展覧会ページでは、この画像よりも大きく掲載しているので、ぜひそちらも参照していただきたい。
橋口五葉のもうひとつの作品が
「夏衣の女」。髪の表現は上と同じだが、こちらでは、夏衣に注目したい。黒の夏衣からは、女性の肌が透けて見える。この画をどのような技法で作成したのだろうか。図録に解説が無いのが大変残念である。
私はこの画を見て、『浮世絵の至宝 ボストン美術館秘蔵 スポルディング・コレクション名作選』にも掲載されている、喜多川歌麿「娘日時計」午ノ刻」を思い出した。歌麿の作品は、版画の色が褪せて、その状態がよくわからないものが多いが、このコレクションの画は、確かに「女性が羽織った薄衣から白い肌が透けて見えている。」
最近の画集は大きく鮮明な印刷になっているが、やはり新版画や浮世絵は画集ではなく、現物に近寄って見ることで、その技術の高さが本当に味わえると思う。コロナ禍でなかなか外出がかなわない日々が続くが、混みそうな時間をうまく避けて、ぜひ出かけていただきたい展覧会である。