昨年から今年にかけて各地で、吉田博の生誕140年を記念する展覧会が行われている。その展覧会の記事で、私はこの優れた仕事を残した吉田博を知った。
このブログでは、彼の作品のうち木版画をまとめた『吉田博 全木版画集』(編集発行:阿部出版、1987年)を紹介したい。この本は、彼の活躍の場が世界であったことを反映して、日本語と英語で書かれている。
千葉市美術館によれば、「吉田博(1876-1950)は福岡県久留米市の生まれ。京都の地で三宅克己の水彩画に感銘を受け、以来本格的な洋画修業を始めました。明治27年に上京して不同舎に入門、小山正太郎のもとで風景写生に励んで技を磨きます。・・・
大正後期からは彫師・摺師と組んだ木版画に軸足を移し、伝統的な技術に洋画の表現を融合したかつてない精巧・清新な造形で国内外の版画愛好家を魅了し続けました。・・・
比較的早くに評価の定まった白馬会系の絵描きたちに比し、長く埋もれてきた感のある博の画業は、今の私たちにどう映るでしょうか。」
小さな画像ではなかなかわかりにくいが、流れ落ちる水と渦巻く水が、信じられないような精細さで描かれている。水の音が聞こえてきそうである。
滝の直前までに流れる水の深い青さと流れ落ちた水の渦の白さが対照的である。
残念なことに、なぜか画集では半ページで印刷されている。流れや渦がどのように描かれているかを見るには、同書p.84の「中房川奔流」(1926)が参考になる。
次に、「富士拾景」にある「河口湖」(1926, p.62)で、最も日本的な素材である。この時期から、先の「渓流」なども含まれるが、大きな山桜の版木を手に入れ、特大版の制作を始めていると言う。
富士山中腹だけでなく、地上にもかなりの雪が積もっていて、雪の白さが画面全体を覆っている。
薄く赤い空、青くぼんやりとした雲などとともに、地上の木々と湖面に映る木々、山の裾野の雪と土の入り交じった箇所などはとても細かく描かれている。
吉田は早くから海外に出て作品を制作し、展覧会を開いてきた。海外を題材にした作品は非常に多い。右は、そのうちのひとつ「マタホルン山」とその夜版(1925, p.44-45)である。
彼にはこのように同じ版の色違いの作品がある。左は昼、右は夜であるが、この画集の中にも、「タジマハルの庭」とその夜版(p.118)などがある。
昼版ではマッターホルンとともに生きてきた、一面緑に覆われた、教会を中心とした山麓の様子が描かれ、夜版では、家々の明かりがともり、人々静かな生活がうかがわれる。その二つの版の時間差が二つの版それぞれの美しさを際立たせている。
ところで、吉田が描いたのは風景画が多く、風景画で人々が登場する場合は少ないが、次の作品のような例もある。それらとは別に、普通の人々の生活を描いた作品も少なくない。
最後に紹介するのは、「大同門」(1937, p.148)である。同じ海外の作品であるが、当時日本統治下にあった朝鮮の平壌にある大同門である。他に、南朝鮮や満洲も描いた作品がある。
絵では大同門のすぐ前を流れる川で洗濯などをしているようにみえる、普通の人々の日常が暖かいまなざしで描かれている。
当時、朝鮮では日本企業による大規模な電源開発が行われ、近代化が急速に進んでいたが、まだその成果がここには及んでいないのだろうか。
このブログではわずか4点しか紹介できなかったが、『吉田博 全木版画集』には多数のすばらしい作品が掲載されている。ぜひ、購入しじっくり見ていただくことをお薦めしたい画集である。
その際に、p.175-176の「作品刷り行程」も参照されて、吉田の作品群の超絶技巧の一部も見ておかれることもあわせてお薦めしたい
富士山中腹だけでなく、地上にもかなりの雪が積もっていて、雪の白さが画面全体を覆っている。
薄く赤い空、青くぼんやりとした雲などとともに、地上の木々と湖面に映る木々、山の裾野の雪と土の入り交じった箇所などはとても細かく描かれている。
彼にはこのように同じ版の色違いの作品がある。左は昼、右は夜であるが、この画集の中にも、「タジマハルの庭」とその夜版(p.118)などがある。
昼版ではマッターホルンとともに生きてきた、一面緑に覆われた、教会を中心とした山麓の様子が描かれ、夜版では、家々の明かりがともり、人々静かな生活がうかがわれる。その二つの版の時間差が二つの版それぞれの美しさを際立たせている。
ところで、吉田が描いたのは風景画が多く、風景画で人々が登場する場合は少ないが、次の作品のような例もある。それらとは別に、普通の人々の生活を描いた作品も少なくない。
絵では大同門のすぐ前を流れる川で洗濯などをしているようにみえる、普通の人々の日常が暖かいまなざしで描かれている。
当時、朝鮮では日本企業による大規模な電源開発が行われ、近代化が急速に進んでいたが、まだその成果がここには及んでいないのだろうか。
このブログではわずか4点しか紹介できなかったが、『吉田博 全木版画集』には多数のすばらしい作品が掲載されている。ぜひ、購入しじっくり見ていただくことをお薦めしたい画集である。
その際に、p.175-176の「作品刷り行程」も参照されて、吉田の作品群の超絶技巧の一部も見ておかれることもあわせてお薦めしたい
なお、展覧会は以下のように続けられる。
久留米市美術館 2017年2月4日(土)~3月20日(月・祝)
上田市立美術館 2017年4月29日(土)~6月18日(日)
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館 2017年7月8日(土)~8月27日(日)
(2017.1.25追記)
この版画集の現在販売されているのは第2版(1996.11刊)である。初版が刊行されたのは、1987年5月である。阿部出版によると、両版の違いは、「1996年以降の第2版の36頁には、1987年第1版刊行以降に発見された「帆船 夜」という作品が新たに掲載され」たということである。
追記:これまで私が作成した吉田博についてのブログは以下の通りです。(2021.10.23)
「『吉田博 全木版画集 増補新版』刊行される」(2021年10月23日)、「『新版画ー進化系UKIYO-Eの美』に出かけました」(2021年9月16日)、「没後70年 吉田博展(2019-21)、図録の紹介」(2020年12月2日)
(ブログのTOP、ブログの目次, 新保博彦のホームページ)
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