2018年12月21日金曜日

ZTEとHUAWEIの事業活動とその脅威(2)

前回のブログから続く

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次に、Huawei (Huawei Technologies Co., Ltd., 华为技术有限公司)である。によって、まず売上高をみると、その急成長ぶりがよくわかる。営業利益も営業活動によるキャッシュ・フローも、2017年度に大きく伸びている。ただし、負債比率が2017年度でも65.2%とほとんど変化がなく高いままである。
Huaweiのセグメント情報をみてみると、ビジネス別では、通信事業者向けネットワーク事業が49.3%、コンシューマー向け端末事業が39.3%である。地域別では、中国が50.5%であるが、欧州、中東、アフリカ(EMEA)が27.1%と高く、南北アメリカは6.5%とまだそれほど高くない。

問題は株主である。Huaweiは、「従業員の全額出資による民間企業」として株式を公開してない。このように巨大な企業が非公開なのは、中国でさえしだいに例外になりつつある。創業者任正非の持株は1.4%で、その他は従業員持株制度が所有している。
この巨大な株主である、労働組合を通じての従業員持株制度が、資金的にも人的構成でもどのような制度で、株主として経営にどのように介入しているについては明らかではない。従業員持株制度についてふれられているのは、Annual Reportでこの箇所のみである。

さらに、ZTEの箇所でも指摘したように、Huaweiについても同様に共産党と企業内共産党委員会についての記述は無い。中国政府との具体的な関係についても詳しい記述は無い。以前から指摘されている、任正非とその出身中国人民解放軍との関係、早期の段階での政府からの資金面での支援等についても十分に明らかにされていない。
表の財務データからは負債の額が非常に多いことが確認できるが、それが誰あるいはどの組織によるものかはわからない。上場していないので、成長と投資に必要な資金をどこから得ているのか、最大の株主の組合であるとすれば、組合がそれをどこから得ているかを示すべきである。

ところで、5G(第5世代移動通信システム)は、LTE、およびLTE-Advancedのさらに次世代の高速移動通信方式で、高い周波数帯を従来の低い周波数帯と組み合わせて用いることにより、通信の安定性を確保しつつ、100倍の高速化、1,000倍の大容量化を実現することをめざしている。
 ZTEとHuaweiは、この分野での急速な発展が両社の発展の原動力となっている。当面の最も重要なインフラストラクチャとなる移動通信分野で、中国政府の強い影響下にある両社の技術に依存し安全保障上の問題が生まれることを、先進各国は強く警戒している。

3 ZTEとHuaweiに対する日本の対応
米豪などのZTEとHuaweiに対する明確な対応に比較して、日本の政府や企業の対応は曖昧である。日米間の貿易戦争の過程で、日本はアメリカの一国主義に対してグローバリズムを主張している。確かにそれは、TPPを推進してきた日本の立場の主な戦略であることは疑いない。
しかし、日本企業は、これまでに特に中国政府・企業による、経営資源の移転への政治的な圧力、中国への投資に関しての様々な制限、知的所有権の侵害などの攻撃を受けてきた。そのような経緯を背景に、ようやく米豪などの主張に倣おうとしている。
(論文掲載時点に比較して、日本政府の対応は前進している)

さらに詳しくは、ZTEとHUAWEIの事業活動とその脅威(最新中国企業分析(2))論文(クリックしてください)をご参照ください。

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ZTEとHUAWEIの事業活動とその脅威(1)

私は私のWebsiteで、論文「ZTEとHUAWEIの事業活動とその脅威」(2018年10月2日)を公表した。このテーマがますます重要になっているので、このブログにその要約を2回に分けて掲載したい。詳しくは、ZTEとHUAWEIの事業活動とその脅威(最新中国企業分析(2))論文】(クリックしてください)をご参照ください。

米中の貿易戦争は激しさを増している。この戦争は、一面ではアメリカによる一国主義とグローバリズムの対立であるが、他面ではアメリカと中国の覇権争いのようにみえる。後者についてもう少し厳密に説明すると、グローバルな企業間競争において、中国政府とその強い影響下にある企業が、国内では自国の市場を閉鎖しながら、先進各国の市場に急速に浸透していることによる、中国政府・企業と先進各国政府・企業との対立である。対立は特に第5世代移動通信システムをはじめとする最先端産業で激しさを増している。

1 ZTEとHuaweiをめぐる最近の動き
日本経済新聞、2018/8/14によれば、「トランプ米大統領は(2018年8月)13日、2019会計年度(18年10月~19年9月)の国防予算の大枠を決める国防権限法に署名し、同法が成立した。・・・同法には、中国政府による米国でのスパイ活動に利用されている中国の通信機器大手、中興通訊(ZTE)華為技術(ファーウェイ)との契約を米政府に禁じる規定を入れた。」

アメリカでは、このような動きはかなり以前からあった。2012年に、アメリカ合衆国下院が提出した報告書”Investigative Report on the U.S. National Security Issues Posed by Chinese Telecommunications Companies Huawei and ZTE”は、様々な問題を提起し、ZTEとHuaweiに回答を求めている。
報告書はZTEとHuaweiに対して、それぞれの企業と中国政府、共産党、企業内党委員会との関係を説明すことを求めたが、両社は明らかにすることができなかったと結論づけている。この中国企業における共産党支配の問題は、中国企業全般に共通する問題であるが、両社が次世代のインフラストラクチャや防衛産業で果たしている役割から、特に先進国にとっては脅威となっている。

2 ZTEとHuaweiについて
クリックして拡大してご覧ください、以下も同様です
左の表ZTE (ZTE Corporation, 中兴通讯股份有限公司)の主な財務情報である。ZTEはHuaweiに比べて売上高は1/6でかなり小さく、その増加率も低い。2016年には一度赤字に陥ったが、翌年には回復した。ZTEの収入でのセグメント情報をみると、ビジネス・セグメントでは、Carriers’ networksが58.6%、Consumer businessが32.4%、Government and corporate businessが9.0%である。地域別にみると、国内は56.9%、中国を除くアジアが14.5%、欧米オセアニアが25.1%となっている。日本やアメリカの比重は不明である。

Nikkei Asian Review
右の図は、Nikkei Asian Reviewに掲載された図である。この図は、ZTEが公表している資料での株主をさらに遡って明らかにしている。直接の株主からさかのぼると、それぞれ共産党一党独裁の政府が100%支配する国有企業に行き着く。
ZTEは、次に検討するHuaweiとは異なって、その株主が示しているように、明確に政府の影響を強く受ける企業である。
アメリカ議会報告書が明らかにしたもうひとつの重要な問題点である、共産党の企業内委員会の問題はこの資料からは明らかにはならない。Annual Reportにも共産党に関する記述は無い。

第2節のHuawei (Huawei Technologies Co., Ltd., 华为技术有限公司)に関する部分と、第3節は、次のブログに掲載する。

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2018年12月4日火曜日

森本草介『光の方へ』


写実絵画への関心と、写実絵画を多数所蔵したホキ美術館の人気がますます高まっている。
ここでは、ホキ美術館を代表する画家、森本草介氏の作品集『光の方へ』(求龍堂、2012年)を紹介したい。森本草介氏は、1937年に朝鮮全羅北道に生まれ、2015年にもっと多くの作品を残されることを期待されつつ亡くなった。氏の作品が、ホキ美術館の最初の作品になったことはよく知られている。以下の作品の多くも同美術館の所蔵である。

まず、作品集のタイトルと表紙ともなった作品「光の方へ」、2004、ホキ美術館である。他の人物画と同様に、背景には何もなく、激しい動きも見られず、中央に向こうを向いた中腰の裸婦がいる。アングルの作品のように、モデルの身体のアンバランスはみられない。
柔らかい光が当たった肌からは体温が伝わってくるようにさえ感じられる。森本氏の作品の色調は、この作品のようにベージュ色に統一されていることが多い。

「背中は美しい。背中には表情があり、モデルがどんな人なのか想像を膨らませることができる」と森本氏は語ったそうである。(下記の文献、p.20)

そして、「光の方へ」は、「写実絵画の新世紀: ホキ美術館コレクション (別冊太陽 日本のこころ 241)」の表紙も飾っている。

次に「未来」、2011、ホキ美術館蔵。画集の中では、油彩最後の作品となっている。
背景や全体の色調は変わらないが、多くの作品とは異なって、女性は上半身にはうすく青みがかった白のドレスを着ている。いつものベージュ色の背景ととても対照的になっていて、美しさが際立つ。

左は、森本氏のもうひとつの田園の作品群である、「田園」、2001年、ホキ美術館
森や木々の緑色がとても弱く、やはりベージュ色で、塔や住宅の色と渾然一体となっている。川面すらもそれに近い色で、向こうに見える教会の塔が写っている。


ボルドーの香り」、2007年、十騎会第39回展(高島屋)(?)。
左上から光が入り、右下に向かって長い影ができている。光は葡萄の中に入り込み、みずみずしさが伝わってくる。

森本氏の作品には、葡萄だけではなく、他の果物やパンが並んでいる「果物たちの宴」(2001)という作品もあるが、葡萄が
たわわに実り、一粒一粒が引き立つこの作品が、私にはとても引きつけられる。



最後に、横になるポーズ」、1998年、ホキ美術館。ここに掲載した作品では最も古い時期のもの。
「「横になるポーズ」は保木さんに初めてコレクションしていただいた作品です。」「人物画については、血が流れて生きているように・・・と思って描きます。」(森本氏、ホキ美術館、収蔵作家と作品から)
「光の方へ」とは少し角度を変えて描かれていて、しばしば登場するモデルの表情が見られる。何枚かの淡い色の布が身体と台を幾重にも折り重なって覆っている。この淡く透き通って流れるような布は、どの作品にも登場してモデルの一部ともなっている。

『光の方へ』には、122の作品、その目録、年譜などが掲載されている。森本氏の絵画をゆっくりと楽しむには必須の画集である。ぜひ多くの方が手にとっていただきたいと思う。

ところで、ホキ美術館は、「ホキ美術館の写実絵画は、16世紀ルネサンス以降のダ・ヴィンチ、レンブラント、フェルメール、シャルダンなどが描いたような、物の存在感を描きだす写実絵画を念頭においています。」と説明している。しかし、ホキ美術館に並ぶ様々な画家の作品は、「写実絵画の新世紀: ホキ美術館コレクション」が示しているように、対象や手法はそれぞれかなり異なっている。それでも写実絵画とあえて呼ばれているのは、長く抽象絵画が大きな影響力を持ってきたからだろうか。

写実絵画の評価がさらに高まって、様々な手法の作品が競い合って描かれ、人々がそれらを自由に楽しむことができる環境がより整って欲しい。また、ホギメディカルの保木元社長の様な優れた経営者が、芸術活動の支援にどんどん乗り出してくれることもあわせて期待したい