2012年5月29日火曜日

IEAエコノミスト、ファティ・ビロル氏の日本の原発政策への提言


以下は、昨日(5月29日)の読売新聞の記事である。読売新聞のWeb Siteにはなぜか掲載されていないので、全文を掲載する。

「国際エネルギー機関(IEA)のチーフエコノミスト、ファティ・ビロル氏は読売新聞のインタビューに応じ、「原子力は日本で廉価な電気を供給し、経済成長に重要な役割を果たしてきた」と述べ、日本が原子力発電を維持していく必要性を強調した。
  ビロル氏は、日本国内にある50基の原発が止まっている現状について「日本は経済的な面で、第2次世界大戦以来の最も危機的な分岐点に直面している」と警鐘を鳴らした。  第一に、原子力を火力で代替するために中東から化石燃料の輸入量が増加していることが「日本のエネルギー安全保障上も悪影響を及ぼす」と指摘した。
  原油や液化天然ガス(LNG)の高騰で、日本企業はより高いエネルギー価格を払わされ、他国企業との競争条件で不利になるとも述べた。エネルギー価格の高騰は、電気料金の値上げによって消費の減退にもつながるとの見方を示した。
  日本がインフラ輸出戦略の柱として掲げる原子力発電所の海外への輸出にも言及し、「相手国を説得するのが極端に難しくなる」として、日本が脱原発の方向性を強めれば、交渉が難航するとの見解を示した。
  一方、今後の原油価格の動向については「イラク以外に増産余地のある国はなく、(1バレル=100ドルを上回る)3桁台の高い水準で推移する」との見通しを示した。」

ファティ・ビロル氏は、日本の原子力発電に関する現状を簡潔明瞭に捉えている。原発の日本の経済発展に対するこれまでの役割、化石燃料への依存による日本経済への悪影響、日本にとって重要な輸出産業へのダメージなどである。
これらに、製造業大国日本にとって安定した電力供給の重要性、再生可能エネルギーへの依存の困難さ、などのより幅広い検討が付け加えられれば、とも思われる。
メディアを中心とする、福島第一原発事故の影響などについて、科学的な検討に基づかない批判が多い中、このような日本経済の発展のための経済学者からの提言と活発な議論が求められている。
ともあれ、まずはさらに詳しいインタビュー内容が掲載されることを期待したい。

Dr. Fatih Birolの経歴は以下でみられる。http://www.iea.org/journalists/docs/cv_Birol.pdf


2012年5月3日木曜日

ドイツの太陽電池メーカー Qセルズの破綻


「一時は世界最大の太陽電池メーカーに上り詰めたドイツのQセルズが3日、裁判所に破産を申請した。同国の太陽電池大手の破産申請は昨年12月以降で4社目。」(「独Qセルズが破産申請へ-国内太陽電池大手の経営破綻相次ぐ、4月3日(ブルームバーグ)」
Qセルズは、2010年に世界で第6位、ドイツで第1位の太陽電池メーカーである。福島第一原発の事故が起こり、再生可能エネルギーが注目されているにもかかわらず、関連する企業の倒産や、株価の暴落が続いている。

その原因は、太陽電池メーカーの多くが国の補助金によって成り立っている企業であり、ヨーロッパの金融危機で、補助金の削減が必至だからである。ヨーロッパの金融危機は、一時的には収まっているようには見える時もあるが、依然として解決にはほど遠い。
また、この産業は、参入が比較的容易で、中国企業の参入が相次ぎ、ドイツ企業など先進国企業は競争力を失いつつあるからである。これは日本企業も同様である。2010年には、上位5社のうち、中国企業が4社を占めていた。この中国企業の場合でさえ、その株価は暴落している。例えば、2001年に設立されたSuntechは、2007年12月には85ドルであったが、今日は、わずかに2.7ドルである。
さらに、期待されるもうひとつの再生可能エネルギーである風力企業も事態は同様である。最大のグローバル企業で1世紀以上の歴史を持つVestasの株価は、2008年8月には700 Danish krone (DKK)であったが、今日は48DKKである。風力産業でも中国企業は急成長している。しかし、世界第2位の企業、Sinovel Wind Groupは2011年はじめには、80 Chinese yuan (CNY)であったが、やはり現在は16CNYまで下落している。
このような株価の急落は、再生可能エネルギー企業に対する市場の評価を示している。

日本では、7月1日から「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が発足するが、その価格が高く、それがある程度長期になることが予想される。それは、日本でシャープや京セラなどの既存の再生可能エネルギー企業や、新規に参入するベンチャー企業を一時的には保護し育成することになるかもしれない。しかし、上記のドイツ企業などの状況を見れば明らかなとおり、補助金などに依存した企業は、結局長期的な発展は難しい。
買取制度をできるだけ一時的な制度にし、すみやかに競争的な環境に戻すことが望まれる。また、同時に、再生可能エネルギー企業の現状を踏まえた、現実的で包括的なエネルギー政策が求められる。

これまでの記事一覧2012年記事名をクリックしていただければそのページに移動します
奈良公園の桜(2012.4.11)
シャープと台湾ホンハイの提携(2012.4.7)
日本国際経済学会について(2012.3.27)
エレーヌ・グリモーの、heleneGrimaudTVを見つけた(2012.2.13)
ユニバーシティ・ガバナンスについて(2012.2.12)
台湾総統選挙、日台関係(2012.1.17)
『昭和天皇独白録』(2012.1.12)
新年あけましておめでとうございます 伊藤若冲とともに(2012.1.2)
2011年
今年ももう年末、ドゥダメルを聞く(2011.12.30)
池田信夫氏のBlog、戦前日本の海外投資の重要な貢献(2011.12.24)
GoogleでのブログですGoogleでのブログを開設しました (2011.12.24) 
 以下の内容が一括して掲載されています。
 7) 2月8日は日米開戦70周年 DVD「東京裁判」の紹介(2011.12.10)
 6) 奈良公園の紅葉・黄葉 12月3日 (2011.12.4)
 5) オリンパスのコーポレート・ガバナンス (2011.11.30)
 4) グローバルな都市間競争に勝てる大阪に(大阪ダブル選挙の結果)(2011.11.28)
 3) オレンジリボン運動のバッジを着けるようにしています (2011.11.23)
 2) TPPと、農業経営者の試み (2011.11.23)
 1) hshimpoのブログを開設しました (2011.11.20)

2012年4月25日水曜日

依然として見えない橋下市長のエネルギー政策


やや古くなるが、4月11日の日本経済新聞は、以下のように伝えている。
「関西電力に原発全廃などを求める大阪市の株主提案が10日、確定した。・・・提案を細かく分けることで、他の株主が議案ごとに柔軟に賛否を判断できるようにする狙いとみられる。「原発全廃」は株主利益を損なう可能性があり賛同を集めにくいが、コスト削減につながる「取締役半減」は比較的理解が得られやすい、などと判断したようだ。」
(「大阪市、関電株主提案の内容決定 可決狙い議題細分化、株主賛同狙い書面送付へ」、日本経済新聞電子版、2012/4/11 15:33)

日本経済新聞は、「「原発全廃」は株主利益を損なう可能性があ」るみているが、私は、この提案が、橋下市長(前知事)が推進してきた、関西経済の復活への提案と相容れないと思う。関西経済の復活には、アジア各国の経済と対抗できる最先端の産業を誘致し、雇用を拡大させることが不可欠である。カジノやサービス産業だけでは、幅広い産業の復活には繋がらない。そのためには、安定的な電力の供給が必要である。
大阪府・市だけでなく各自治体は、安定的な電力の確保のために、ただ周辺の原発とその再稼働に反対するだけではなく、自らのエネルギー政策の全体を示す必要がある。再生可能エネルギーのための投資をするのか、あるいは火力発電所に投資するのかすら明確では無い。そのような投資を促進するとすれば、関西電力を含む電力会社に求めるのか、他の企業を誘致するのか、あるいは自治体が自ら出資するのか、についても明らかにすべきである。

よく知られているように、再生可能エネルギーには、安定的な供給に問題がある。福島の事故にもかかわらず、世界の再生可能エネルギー企業の株価は暴落し、一部の企業は倒産している。また、イランや中東の不安定化は、石油価格の高騰をもたらし始めている。このような条件で、原発以外のエネルギーの安定的な拡大は容易ではない。(この点については、近く発表する論文で、具体的な事実を詳しく示したい)
また、日本の産業構造は大きく変化している。最も重要な背景は、これまで日本をけん引してきた電機、自動車が、アジア企業の猛追を受けて後退していることである。ソニー、パナソニック、シャープの業績は著しく悪化した。これは、日本がアメリカを追い上げたことの繰り返しである。こうして、日本はより技術集約的な産業に移行して行くことが求められている。
それが、電力、水道、鉄道、航空・宇宙などのインフラストラクチャ産業である。この産業での日本企業の地位は高まっているし、今後の可能性も大きい。(この点については、私の論文Global Infrastructure Investment, Competition, and the Japanese Company(ここからダウンロードできます)で検討している)同じ電機産業でも、重電部門を重視した東芝、日立などは着実に業績を改善している。

ところで、最新の橋下市長の動きからも、大きな変化は見られない。
橋下市長は政府に、原発から100キロ圏内の都道府県と電力会社が安全協定を結ぶ仕組みを作ることや、使用済み核燃料の最終処理体制の確立などを盛り込んだ8提言を示したという。(「橋下市長ら官房長官に8提言 原発再稼働問題、「国家の危機」と橋下氏」、日本経済新聞電子版、2012/4/24 12:19)
繰り返しになるが、このような提言を行い、原発の再稼働に反対するなら、まず自身の経済政策の柱となるエネルギー政策を明確にすべきである。この政策の曖昧さは、橋下市長の国政のための基本政策となる船中八策が、肝心の外交・安保政策で曖昧さが目立つのと同じである。大阪府・市の改革に大きな成果を挙げつつある橋下氏が責任あるエネルギー政策を提出することを期待したい。

2012年4月11日水曜日

奈良公園の桜

日本の最も美しい季節、桜の満開の季節がやってきました。
奈良公園の桜もそろそろ満開、一部は散り始めています。今日は雨なので、散るのも早くなるかもしれません。今日は、日本の桜を見るために、いつもより外国人観光客が多かったようです。
(Blogの背景は、奈良公園ではなく、生駒山を背景にした桜です)

向こうに若草山と公園一帯を望みながら咲いています

桜と緑が見事にコントラスト、そのうちに奈良公園も緑一色に 







そろそろ一部は散り始めています































(2012.4.12追記)
100周年を迎えたワシントンの桜祭りの桜はもう散ってしまったようです。
今年は、桜祭りの一環として、日本を代表する画家伊藤若冲の展覧会、Colorful Realm: Japanese Bird-and-Flower Paintings by Itō Jakuchū (1716–1800)が、National Gallery of Artで開かれています。

2012年4月7日土曜日

シャープと台湾ホンハイの提携


「シャープは3月27日、EMS(電子機器の受託製造サービス)で世界最大手の台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業と資本業務提携すると発表した。鴻海グループがシャープ株の約10%を取得し、事実上の筆頭株主となる。」(日経、「シャープ、国際分業で再建急ぐ 鴻海が筆頭株主に」、2012/3/27 23:30
シャープの側のねらいは明確であり、日本の各紙でも詳しく紹介されている。液晶パネルの価格が暴落し、経営が急速に悪化しているからである。ホンハイとの提携で液晶の安定的な供給が可能になる。

ホンハイは世界最大のEMS (Electronics Manufacturing Service, 電子機器の受託製造サービス)として、アップルへの供給をはじめ、時代をリードする製品を次々と世界市場に供給してきた。今や、ホンハイ抜きにして、最新の電子製品は語れない。
しかしながら、実はホンハイの経営もまた苦しい。売上高は台湾電子企業で圧倒的な規模を維持しているが、利益率は決して高くない。最近になってやや低下傾向も見られる。
また、最大の生産基地中国で、賃金の低さや労働条件の悪さが批判の的となり、今改善を進めざるを得なくなっている。これが実現されると、利益率はさらに低下する恐れもある。こうして、ホンハイも日本企業との提携による高度の技術の導入は、急を要する課題なのである。

この提携がどのような結果をもたらすかはまだ明らかではない。今後、シャープからの投資も行われ、相互投資の形態に発展する可能性もある。ホンハイ優位のみが結果となり、シャープのいっそうの衰退がもたらされる可能性も否定できない。
しかし、日本企業にとって台湾企業との提携は、それぞれの得意分野が異なること、などの理由で、国境を越えた提携としては、最も可能性のある提携のひとつであると思われる。したがって、日本企業は、この提携の先に新たな可能性を見つけ出す必要があるだろう。

このテーマについての、私の詳しい最新の研究は、以下をご参照ください。(英語版です、近日中にデータとして掲載します)なお、一部は以下のブログで、日本語で掲載しています。
日本と台湾の関係を広く検討した、私のブログは、本ブログの2012年1月17日をご参照ください。

2012年3月27日火曜日

日本国際経済学会について


しばらく専門外の記事が中心だったので、少し私の専門に立ち戻ってみたい。

今年の5月に日本国際経済学会第2回春季大会が、10月に日本国際経済学会第71回全国大会が開かれる。
日本国際経済学会は、1950年に創立総会が開かれた、長い歴史と伝統のある学会である。
設立当初の時代は、日本の学会は、いわゆる近代経済学とマルクス経済学に分かれて設立されることが多かった。両者の立場も大きく異なっていた。しかし、日本国際経済学会は、設立当初から両方の立場の研究者が参加し、活発な議論が繰り広げられてきた。
その伝統は今も生きている。例えば、TPPに賛成する研究者も、反対する研究者も参加し、興味深い議論が展開されている。それが、この学会の強みとなっている。
各全国大会や各支部の研究会の、ほぼすべての報告のレジュメ、論文、PowerPointが掲載されているので、ぜひ参照していただきたい。私は、昨年までの約10年間、学会ホームページ(本部版と関西支部版)の作成を担当し、情報の広範囲な開示に努力してきた。なお、今年10月の全国大会のホーム・ページの作成は、私が担当している。
ところで、ギリシャやイタリアでは、金融危機の深刻化にともなって、意見の調整が困難な政党に代わって、研究者が政治の要職に就くという例が出てきた。日本でも、TPPや消費増税をめぐって、政党の議論は混迷を深めている。責任を持って政策を推進する政党が出てくることを期待したいが、ポピュリズム万能の時代には難しいかもしれない。その意味でも学会の役割は非常に大きくなっている。
これからは、学会が、現実的な政策に議論の中心を置くだけではなく、メンバー以外の人々の参加を容易にするような運営が必要だと思う。

3月28日の補足
今日、マリオ・モンティイタリア首相の特別講演会が開かれた。非常に興味深い、日本にとっても重要な内容だった。
講演会のホーム・ページUstreamでの講演内容新聞記事

2012年3月4日日曜日

「『特攻―空母バンカーヒルと二人のカミカゼ』(M.T.ケネディ著)より」

You Tubeはさまざまな偶然の出会いをもたらしてくれる。
エレーヌ・グリモーの、heleneGrimaudTVもそうだったが、また新たな出会いがあった。『特攻―空母バンカーヒルと二人のカミカゼ』(M.T.ケネディ著)よりである。Maxwell Taylor Kennedyによる"Danger's Hour" (2008)の翻訳を紹介した動画である。
著者は、「本書は、一九四五年五月一一日、神風特攻隊の攻撃によって甚大な被害を受けたアメリカ海軍の航空母艦バンカーヒルの艦上で起きた出来事を描いたものである。」(プロローグ、p.11)
「日本軍の上層部が敗北を充分に認識した上で大勢の若者を神風特攻隊に任命したのは、絶望的な大義のために命を捧げた若者たちの倫理規範が、以後何千、何万年と、人々の自己犠牲精神をかき立て続けるであろうと考えてのことだった。彼らの最後の望みは、未来の日本人が特攻隊の精神を受け継いで、強い心を持ち、苦難に耐えてくれることだった。
現代を生きる私たちは、神風特攻隊という存在をただ理解できないと拒否するのではなく、人の心を強く引きつけ、尊ばれるような側面もあったということを理解しようと努めるべきではないだろうか。」(同、p.24)
第2次世界大戦が終了して70年近く経ち、ようやく戦争に対する客観的な評価が増加しつつある。アメリカを民主主義陣営の盟主とし、日本を独裁国家の代表とするという図式が確実に見直されている。あらゆる分野で、少しずつそのような作業が行われている。この著作も、そのような作品の一つである。ぜひとも多くの人に読んで欲しい本だと思う。
もちろん、著者の見解の一部には、日本へのよく見られる偏見が残っている。「日本人は個の生命は根本的に限られたものである・・・」(同、p.15)しかし、同時に著者は、「しかし、はっきりしているのは、神風特攻隊員のほとんどは、天皇のためなら喜んで死ぬという狂信者ではなかったということだ。」(同、p.19)とも言っている。
ところで、私は、自分自身の研究領域で、戦前の日本のコーポレート・ガバナンスがアメリカのコーポレート・ガバナンスと同様、市場中心型であると説明してきた。(『日米コーポレート・ガバナンスの歴史的展開』(2006))戦後長く日本を支配してきた、戦前日本の経済・企業は財閥中心であるという議論を具体的な資料を駆使して批判し、上記のような主張を展開した。
事実は、日本の市場経済と企業、そして民主主義がしだいに発展し、アメリカに脅威となったために、当時の条件の下では、戦争が不可避になったということである。
ところで、You Tubeが紹介している本は、「特攻 空母バンカーヒルと二人のカミカゼ-米軍兵士が見た沖縄特攻戦の真実」(ハート出版、2010年)である。