2018年8月16日木曜日

DVD 東京裁判をもう一度紹介します

今日は8月15日で、第2次世界大戦が終了した日である。この戦争とその後の東京裁判について見直すために、私は2012年8月16日に「DVD「東京裁判」を改めて見直す」というブログを作成した。

DVDの内容を改めて詳しく紹介するつもりだが、そのブログで欠けていたDVDそのものの基本情報をあらかじめ簡単に紹介したい。DVDに付属しているしているリーフレット(ここをクリック)である。リーフレットは、「解説」「裁かれる日本の十七年八ケ月」「法廷を構成した人たち」から成っている。

上記の私のブログは、裁判で最も注目すべき一人のブレークニー弁護人の弁護内容を、DVD「東京裁判」の字幕とナレーションに基づいて紹介したものである。もう一度以下に掲載したい。

『戦争裁判余録』から
ここでは、当時の被告人弁護団の活動についてふれておきたい。特に、ベン・ブルース・ブレークニー(Ben Bruce Blakeney, 1908年-1963年3月4日)氏の活躍は、特筆すべきものであった。彼らの活躍は、アメリカの民主主義の強さを象徴している。

ブレークニー弁護人の弁護内容を、DVD「東京裁判」の字幕とナレーションで紹介しておこう。
「戦争は犯罪ではない。戦争に関し国際法の法規が存在していることは、戦争の合法性を示す証拠であります。戦争の開始、通告、戦闘方法、終結をきめる法規も、戦争自体が非合法なら全く無意味です。国際法は、国家利益の追及の為に行う戦争をこれまでに非合法と見做したことはない」
「歴史を振り返ってみても、戦争の計画、遂行が法廷において犯罪として裁かれた例はひとつもない。我々は、この裁判で新しい法律を打ち立てようとする検察側の抱負を承知している。しかし、そういう試みこそが新しくより高い法の実現を妨げるのではないか。“平和に対する罪”と名付けられた訴因は、故にすべて当法廷により却下されねばならない」
「国家の行為である戦争の個人責任を問うことは、法律的に誤りである。何故ならば、国際法は国家に対して適用されるものであり、個人に対してではない。個人に依る戦争行為という新しい犯罪をこの法廷が裁くのは誤りである。」「戦争での殺人は罪にならない。それは殺人罪ではない。戦争が合法的だからです。つまり合法的な人殺しなのです。殺人行為の正当化です。たとえ嫌悪すべき行為でも、犯罪としてその責任は問われなかったのです。」
「キッド提督の死が真珠湾攻撃による殺人罪になるならば、我々は、広島に原爆を投下した者の名を挙げることができる。投下を計画した参謀長の名も承知している。その国の元首の名前も我々は承知している。彼らは、殺人罪を意識していたか?してはいまい。我々もそう思う。それは彼らの戦闘行為が正義で、敵の行為が不正義だからではなく、戦争自体が犯罪ではないからです。何の罪科でいかなる証拠で戦争による殺人が違法なのか。原爆を投下した者がいる。この投下を計画し、その実行を命じ、それを黙認したものがいる。その人達が裁いている。」
(上記DVDの「前編 47.弁護側補足動議 ファーネス、ブレークニー両弁護人」から)


なお、ファーネス弁護人は、ブレークニー弁護人の発言に先立って、「真に公正な裁判を行うのならば、戦争に関係の無い中立国の代表によって行われるべきで、勝者による敗者の裁判は決して公正ではありえない。」と簡潔明瞭に述べている。

ブレークニー、ファーネス両氏については、豊田隈雄著『戦争裁判余録』(泰生社、1986年)に、「学究ブレークニー、天城山に死す」「芝居好きのファーネス」として紹介されている。あわせて参照していただきたい。ここに掲載した両氏に写真は同書から転載させていただいた。

2018年8月10日金曜日

佐川美術館「⽣誕110年 ⽥中⼀村展」


ビロウとアカショウビン
ビロウとコンロンカ
佐川美術館開館20周年記念の第⼆弾特別企画展として、「⽣誕110年 ⽥中⼀村展」開催されていたので、とても楽しみにして出かけた。テレビでも同様の企画がいくつもあって関心が高まっていたのだろう。平日にもかかわらず多くの人々が参加していた。

まずは、美術館の壮大さに驚く。敷地面積が28,871.58平方メートル、建築面積が6,280.08平方メートルだという。それだけではなく、周囲が水で囲まれ建物が水に浮かんでいるようでとても美しい。

「⽣誕110年 ⽥中⼀村展」は4つの章に分かれていて、多数の作品が展示されていた。これらの一連の作品から、最後期の「奄美時代」にどう至ったかを見るというのが、今回の展覧会の大きなねらいだと言えるだろう。
第⼀章 ⻘少年時代、若き南画家(1915〜1930年︓7歳〜22歳)
第⼆章 千葉時代、新しい画⾵の模索(1931〜1946年︓23歳〜38歳)
第三章 ⼀村誕⽣(1947〜1957年︓39歳〜49歳)
第四章 奄美時代、旅⽴ちと新たなる始まり(1958〜1977年︓50歳〜69歳)

しかし、田中一村を長く見続けてきていない私には、まずは「奄美時代」の作品がどのような作品なのかをできるだけ多く見たいというのが率直な気持ちだったので、今回の展示にはやや不満が残った。期待が大きすぎたと言うことかもしれない。ともあれ、一村の理解には欠かせない、大矢鞆音氏の『もっと知りたい 田中一村』に依りながら(以下の作品名はこの書籍から採った)代表作を見ていきたい。

まず、ビロウとアカショウビン(1962、最上段左)と、ビロウとコンロンカ(1962-63、最上段右)である。大矢氏の書籍の表紙を飾る、ビロウとアカショウビンは奄美に渡って聞もない頃に描いた作品で、それまでとは非常に異なった対象を本格的に描いた象徴的な作品である。ただ、これまでに描かれた鳥たちと異なって、中央にとまっているアカショウビンはやや平板に見えるのはどうしてだろうか。
ビロウとコンロンカは、「枇榔樹の森に崑崙花」として展覧会場に掲げられている。画面いっぱいにピロウ樹があり、その中央に絹の白さを生かしたのコンロンカのがくが一面に描かれている。その白さは、レビュー作の「白い花」(1947)に通じる作品と言えるだろうか。「ビロウ樹、右手前から出る葉に「堀り塗り」の手法を用い、俵屋宗達の「牛図」、伊藤若冲の「菜蟲譜」などを想起させる意欲作だと言う。」(『もっと知りたい 田中一村』、p.77、以下同じ)

榕樹に虎みみづく
アダンの海辺の図
左は、榕樹に虎みみずく(昭和40年代)である。榕樹(ガジュマル)が画面いっぱいに拡がっているその最上部に虎みみずくがじっとこちらを見つめている。また、右中央のハマユウの花から強い光が放たれている。
大矢氏が書かれているように、「厚塗りの難しい絹本に、一気に描いていく画家のカを思う。」(81)他の作品でも同様だと思われた。

右はアダンの海辺の図(1969年)で、展覧会には「アダンの海辺」として飾られている。大きく成長したアダンと繊細に描かれた海岸、遠くまで見通せる奄美の海、高い雲、奄美の田中一村を象徴する作品だと思われる。

クワズイモとソテツ
本ブログに掲げる最後の作品が、クワズイモとソテツ(1974年)である。一村は、この作品とアダンの海辺の図を「閻魔大王への土産品一命かけた一作」(92)と呼んだという。彼が亡くなったのは1977だったので、最晩年の作品である。
 (死亡した年の表記に誤りがありました。お詫びして訂正いたします)
何よりも最初にその色彩の豊かさに驚く。真っ赤なクワズイモの実が登場する。さまざまな方向に伸びるクワズイモの成長の力が、画面いっぱいにあふれている。
一村を日本のルソーとかゴーギャンなどと評価する人もいるが、そういう評価が生まれるのも納得する一枚だろう。

以上の5枚の作品だけでも、絵の対象、構図、色使いなどの描き方など、一村が奄美の自然の中でそのつど新たな世界を開いているように思われる。もし、彼がもう少し長生きできていたら、またひとつ違う世界が生み出されたのだろう。

水に取り囲まれた佐川美術館、そして田中一村の展覧会、さらに平⼭郁夫⽒、佐藤忠良⽒、樂吉左衞⾨⽒の作品も同時に見られるので、かなり混み合うので時間を選ばないといけないが、ぜひ多くの方が見に行かれることをおすすめしたい。

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2018年8月5日日曜日

『中国株二季報』でみる中国企業50社

私の私のWebsite、中国の代表的な企業50社について、『中国株二季報 2018年夏秋号』(DZHフィナンシャルリサーチ編)によってまとめた論文を掲載した。本ブログはその要約である。
なお、論文は『中国株二季報』でみる中国企業50社(最新中国企業分析(1))論文】(クリックしてください)で読むことができます。

『中国株二季報』は2001年に創刊され、今では中国企業に投資する必須の文献のひとつとなっている。
最近激しさを増している、トランプ政権の対中貿易戦争を理解するためには、これらの文献によって、両国の経済を担っている代表的な企業の動向を捉えることが不可欠である。

その論文で取り上げた中国企業の50社は、4-Traders のChinaとHong Kongの株式時価総額順(2018年7月15日)の企業群に、『中国株二季報』に掲載された海外市場に上場している6社を追加した、時価総額順の上位50社である。

以下の表1は50社のうち上位10社のみを掲げている。中国最大の企業はインターネット通販の阿里巴巴集団控股有限公司(Alibaba Group Holding Ltd.)である。持株会社はもちろん、子会社のいくつかはタックス・ヘイブンのCayman Islandsで登録されていて、Cayman Islands企業として活動している。当然ながらその目的は節税や情報の秘匿であると思われる。
Alibabaの急激な発展を支えたのは、インターネット通販という新たな事業を確立したことであるが、何よりもそれを中国という巨大な市場で実現したことである。
Alibabaの事業は、CtoCのTaobao(淘宝網)、BtoCのTmall(天猫)が中核である。Alibabaの決済を担っているのは、新たに33%の株式を取得した 、Ant Financial Services(螞蟻金融服務集団)の傘下のAlipay(支付宝)である。SNSの新浪微博公司(Weibo Corp.)も傘下にある。
クリックすると拡大できます、次の図も同様です
Alibabaと並ぶ二強のもうひとつは、騰訊控股有限公司(Tencent Holdings Ltd.)である。Tencentは、対話アプリWeixin(微信、海外ではWeChat)やポータルサイトQQ.comを基盤にゲームやスマホ決済、動画配信などを展開している。
ところで、GoogleやFacebookは、世界で幅広く活動しているが、中国共産党政権はそれらの活動を認めていないため、その特殊な条件の下で、Tencentはその事業を急速に拡大している。TencentにおいてもAlibabaと同様に、個人情報を含むさまざまな情報は共産党政権が収集し監視している。監視は中国人と中国企業はもちろん、当然のことながら中国で生活する外国の個人、事業活動を行う外国企業にも及んでいる。それらの情報がどのように用いられているかは、今後中国国内だけではなく、世界の最も重要な問題のひとつとなるだろう。

上位10企業には、AlibabaとTencent以外では、金融・証券・保険の企業5社がずらりと並ぶ。中国工商銀行股份有限公司、中国建設銀行股份有限公司などである。それ以外では、石油・石炭の中国石油天然気股份有限公司、通信の中国移動有限公司が注目される。

次に中国企業にとっては非常に重要な各企業の筆頭株主について明らかにしてみたい。
その中で、最も共産党政権の強い影響下にあると思われるのが、中国の政府系ファンドとして有名な中国投資有限責任公司の傘下にある中央匯金投資有限責任公司が筆頭株主である4つの巨大銀行である。
これ以外に政府系企業は3社ある。
次に注目されるのは、中国特有の国有企業の支配である。国有企業だとみられる集団公司あるいは集団有限公司が筆頭株主になっている企業は17社ある。
以上をまとめると、共産党政権の影響力が強い企業を合計すると24社となる。中国・香港市場に上場し筆頭株主が示された論文が取り上げた41社の58.5%を占める。
その他では、一般の企業が親会社である企業(子会社)が7社、親会社が外国企業であるのは4社、個人や家族が所有しているいわゆる財閥企業は6社である。

論文の第2節は中国企業50社の産業構成を明らかにしている。最大の産業は金融・証券・保険で、第2位の産業が、IT・ソフトウエア産業である。後者の地位は、上記の通り急上昇しており、オールド・エコノミーとニュー・エコノミーとの競争がいちだんと活発になっている。
第3節は中国企業50社の財務情報を詳しく明らかにしているが、スペースの都合で、上位10社のみ掲載し、様々な興味深い事実を明らかにしているが、本ブログでは省略したい。論文を参照していただきたい。

このように、『中国株二季報』は、有力な中国企業を詳しく紹介している貴重な文献である。ぜひとも多くの方々が、この書を通じて、中国企業とその経済の理解を深めていただきたい。
また、あわせて前回のブログ「『米国会社四季報』でみるアメリカ企業100社」を読んでいただければ、アメリカ企業との比較もできる。