2019年3月3日日曜日

NHK「江戸あばんぎゃるど」(2)

前回(1)に続き、「江戸あばんぎゃるど」第1回の作品をもうひとつ追加したい。

酒井抱一(1761年ー1829年)「桜と楓の屏風」
六曲一双の屏風で、右隻には桜、左隻には楓と、異なる時期の花が同時に咲くという非現実的な構図だが、それが特別な豪華さを生んでいる。
なお、この作品は、『もっと知りたい酒井抱一』には掲載されていない。
酒井抱一の作品でよく知られているのは、本番組でも紹介されている「夏秋草図屏風」である。屏風にはあまり使われていない銀地を用い、激しく揺れる草花で強い風の動きを表現している。
酒井抱一は、その弟子鈴木其一(代表作は「夏秋渓流図屏風」)とともに、その色彩の鮮やかさと豊かさで抜きんでている思う。

以下は、「江戸あばんぎゃるど」第2回に登場する作品である。

土佐光起(1617年ー1691年)「吉野桜図」
土佐光起は、他の画家よりは早い江戸初期に生きている。時期的には他の作品と比べてもかなり前の作品にもかかわらず、その魅力は衰えてはいない。
これも六曲一双の屏風であるが、濃い色に描かれた山々と木々、そして横に長く伸びている金色の雲の中に浮かぶ桜が、本当に空中に浮いて動いているかのように見える。番組では、それを3Dのようだと表現している。

柴田是真(1807年ー1891年)「鯉の滝登り図」
この作品は今まで見たことの無い掛け軸である。普通は描かない左上の部分に滝の先端部分を持ってきて、そこから流れ落ちる滝の激しさを強調している。
さらに、鯉が滝を登るなど現実にはあり得ない独創的なイメージが使われている。
柴田是真については、「別冊太陽 柴田是真」があるが、同書p.106には、よく似た構図で河鍋暁斎との合作が掲載されている。この書籍は柴田の漆芸と絵画の両方を掲載しているが、柴田是真の偉大な業績の全貌がよくわかる。

曾我蕭白(1730年ー1781年)「牛と牧童の図」
六曲一双の壮大な屏風で、右隻には激しくぶつかり合う牛と牧童、左隻には休む牛と笛を吹く牧童が、墨の濃淡のみで描かれている。近づいてよく見ると、牛の目はしっかりとこちらに向いている。
曾我蕭白については、この番組ではこの作品以外にもいくつか紹介されている。どれも大胆に描かれた独創的な作品ばかりで、海外で評価が高い。
なお、この作品は『もっと知りたい曾我蕭白』p.32-33ではないかと思われるが、その作品は、「牧童群牛図屏風」と名付けられ個人蔵となっている。

ここに紹介した作品は、2回の「江戸あばんぎゃるど」のごく一部である。ぜひ再放送して多くの人々に知っていただきたいが、それとともに貴重な作品群の詳細を掲載した本も出版されることを期待したい。

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NHK「江戸あばんぎゃるど」(1)

NHKが放送した江戸あばんぎゃるど」は、日本から流出した作品を中心に、江戸時代の優れた絵画などを多数紹介したすばらしい番組である。
その再放送がなかなか実現しなかったが、ようやくNHK4Kで改めて見ることができたので、私が注目した作品を紹介したい。以下3点は、すべて、エイブリー・ブランデージ (Avery Brundage)が収集したものである。

長沢芦雪(1754年ー1799年)「那智滝図」(サンフランシスコ・アジア美術館蔵)
長澤蘆雪は「もっと知りたい長澤蘆雪」の表紙ともなっている「竜虎図襖」や「寒山拾得図」でよく知られているので、それとはやや異なる方法で描かれた「那智滝図」を見たときは本当に驚いた。
何よりも、白地のままの滝の水が、激しく流れ落ちる様子を見事に表現している。
滝は当時の日本の画家にとっては重要な題材で、「江戸あばんぎゃるど」(2)で紹介する柴田是真の滝図もあわせて見ていただきたい。なお、「もっと知りたい長澤蘆雪」は、この作品は掲載されていない。

森狙仙(1747年ー1821年)「猿図」
森狙仙は猿の画を得意とするが、猿の肌の色の柔らかさ、繊細な毛、表情の豊かさに引きつけられる。
森狙仙の動物の画には、第2回に登場する「群獣図」もあるが、同じ目線で動物をとらえている。
番組中で、西欧の動物は解剖図的に描かれているが、日本の画は動物に命を込めて描いたと説明されている。あらゆるものに神が宿るとする考えが根づいている日本と、人間中心の西欧とではそのような違いがあると言えるかもしれない。
なお、森狙仙にはまとまった研究書が無い。

狩野氏信(1616年-1669年)「鶴図屏風」
六曲一双の壮大な屏風。アメリカに渡った作品にはこのタイプがかなりあるようだ。横幅の広さと、折りたたんだ屏風の構造から、描かれた題材の動きがうまく表現できるように思われる。右隻では鶴が飛び立ち、左隻では舞い降りて骨を休めている様子を描いている。
説明している女性と比較して、屏風がどれほど大きいかがわかるが、現代の超特大横長ディスプレイでその動きを眺めているような感じになる。画面でもわかるように、2014年に修復が終わったという。
狩野氏信についてはまとまった研究書が無いが、「源氏物語画帖」などの作品がある。

なお、次回の私のブログでは、「江戸あばんぎゃるど」第2回の作品を中心に紹介したい。

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