出版社の阿部出版は、改訂について次のように説明している。「本書は、全木版画を掲載した『吉田博全木版画集』を全面改訂した増補新版となります。作品掲載サイズを実際の大小サイズに合わせて変更し、作品の色彩も初摺の状態を再現。新発見作品や新情報を加え、60頁増ながら定価据え置きの完全版となっています。」
私が確認した改訂の大きな点一覧
1) 総ページ数が大幅に増加、その最大の理由は3)である:新:263p、旧:203p
2) 版画作品数:新:265、旧:259はそれほど変わらないが、以下は大幅に増加となっている。油彩・水彩他 新:8p、旧:3p、作品刷り工程 新:5p、旧:2p。油彩などのページが増え、サイズが大きくなり、細部まで見れるようになったので、この分野での作品にも注目が集まりそうである。また、作品刷り工程では、「版の数が12面ぐらいから20面前後で、一つの版面を数回使って刷り重ね」ることが紹介されている。この作業の実態を見ると、吉田博の作品の細部にわたる「超絶技巧」の一部が理解できる。
3) 掲載版画作品数は大きく変わらないが、半ページ版あるいは1/4ページ版などだった作品が、ページ全面の大きさに変更されている作品が多くなっている。その例として次にいくつか挙げておきたい。
まず<104 渓流>である。私のブログ『吉田博 全木版画集』で、「残念なことに、なぜか画集では半ページで印刷されている。」と書いたが、全ページ版になって、流れ落ちる水と渦巻く水の精細さがよくわかり、まぶしく感じられるほどになった。<40-45 帆船>すべての画が全ページ版になって、一日の時の変化による差し込む光の違いがより鮮明になった。<156 フワテプールシクリ>「没後70年 吉田博展(2019-21)、図録」の裏表紙ともなった作品だが、「イスラム建築の精緻なアラベスクから滲む光とその乱反射」が、たたずむ教徒を浮かび上がらせている。<94-96 習作・熱海温泉・鏡之前>全作品の中で珍しい女性像だが、画面が大きくなって、ふくよかな印象をどのように出しているのだろうか、と改めて思った。
<193 春雨>雨で散りそうになった遠くの桜が、道ばたにたまった雨水に、風で揺れているせいだろうか、ぼんやりとした影を映し出している。<218 上野公園>が、<192 弘前城>と同様に、雲のようにふんわりと浮かぶ近くの桜と、塔を囲むように咲くやや遠くの桜がより対照的に美しく見えるようになった。
さらに全体に言えることだが、「作品の色彩も初摺の状態を再現」したとのことだが、全体にとても明るく、鮮明になったように思われる。
4) 解説記事は、位置の移動はあるが、内容には変更が無い。
Amazon他新刊を扱う書店では、おそらく「増補新版」しか検索しないと思いますが、図書館でご覧になる場合は、この「増補新版」をご覧になることをお薦めします。また、以前の版を置いている図書館では2つの版を見比べるのも、とても興味深いと思います。
これまで私が作成した吉田博についてのブログは以下の通りです。
「『新版画ー進化系UKIYO-Eの美』に出かけました」(2021年9月16日)、「没後70年 吉田博展(2019-21)、図録の紹介」(2020年12月2日)、「『吉田博 全木版画集』」(2017年1月9日)
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