2021年10月23日土曜日

『吉田博 全木版画集 増補新版』刊行される

吉田博 全木版画集 増補新版』が、2021年8月に刊行された。これまで入手可能だった第2版(1996年刊)の大幅な改訂となっているので、簡単に紹介したい。25年の間に、吉田博の人気は高まる一方である。私は、今年の秋に開かれた、千葉市美術館所蔵 新版画ー進化系UKIYO-Eの美で現物を見ることができ、その作品の精緻さ、素晴らしさに改めて驚かされた。

出版社の阿部出版は、改訂について次のように説明している。「本書は、全木版画を掲載した『吉田博全木版画集』を全面改訂した増補新版となります。作品掲載サイズを実際の大小サイズに合わせて変更し、作品の色彩も初摺の状態を再現。新発見作品や新情報を加え、60頁増ながら定価据え置きの完全版となっています。」

私が確認した改訂の大きな点一覧

1) 総ページ数が大幅に増加、その最大の理由は3)である:新:263p、旧:203p

2) 版画作品数:新:265、旧:259はそれほど変わらないが、以下は大幅に増加となっている。油彩・水彩他 新:8p、旧:3p、作品刷り工程 新:5p、旧:2p。油彩などのページが増え、サイズが大きくなり、細部まで見れるようになったので、この分野での作品にも注目が集まりそうである。また、作品刷り工程では、「版の数が12面ぐらいから20面前後で、一つの版面を数回使って刷り重ね」ることが紹介されている。この作業の実態を見ると、吉田博の作品の細部にわたる「超絶技巧」の一部が理解できる。

3) 掲載版画作品数は大きく変わらないが、半ページ版あるいは1/4ページ版などだった作品が、ページ全面の大きさに変更されている作品が多くなっている。その例として次にいくつか挙げておきたい。

まず<104 渓流>である。私のブログ『吉田博 全木版画集』で、「残念なことに、なぜか画集では半ページで印刷されている。」と書いたが、全ページ版になって、流れ落ちる水と渦巻く水の精細さがよくわかり、まぶしく感じられるほどになった。

<40-45 帆船>すべての画が全ページ版になって、一日の時の変化による差し込む光の違いがより鮮明になった。<156 フワテプールシクリ>「没後70年 吉田博展(2019-21)、図録」の裏表紙ともなった作品だが、「イスラム建築の精緻なアラベスクから滲む光とその乱反射」が、たたずむ教徒を浮かび上がらせている。<94-96 習作・熱海温泉・鏡之前>全作品の中で珍しい女性像だが、画面が大きくなって、ふくよかな印象をどのように出しているのだろうか、と改めて思った。

<193 春雨>雨で散りそうになった遠くの桜が、道ばたにたまった雨水に、風で揺れているせいだろうか、ぼんやりとした影を映し出している。<218 上野公園>が、<192 弘前城>と同様に、雲のようにふんわりと浮かぶ近くの桜と、塔を囲むように咲くやや遠くの桜がより対照的に美しく見えるようになった。

さらに全体に言えることだが、「作品の色彩も初摺の状態を再現」したとのことだが、全体にとても明るく、鮮明になったように思われる。

4) 解説記事は、位置の移動はあるが、内容には変更が無い。

Amazon他新刊を扱う書店では、おそらく「増補新版」しか検索しないと思いますが、図書館でご覧になる場合は、この「増補新版」をご覧になることをお薦めします。また、以前の版を置いている図書館では2つの版を見比べるのも、とても興味深いと思います。

これまで私が作成した吉田博についてのブログは以下の通りです。

『新版画ー進化系UKIYO-Eの美』に出かけました(2021年9月16日)没後70年 吉田博展(2019-21)、図録の紹介(2020年12月2日)『吉田博 全木版画集』(2017年1月9日)

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2021年10月20日水曜日

李大根著『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』が刊行

 李大根著、金光英実訳、黒田勝弘監訳『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』(文藝春秋、2021年)が刊行された。日本語版でも本文が485ページに及ぶ大著である。本書は、帰属財産についての本格的な研究を通して、具体的で歴史的な事実に基づく 、韓国・朝鮮近代史の包括的な研究となっている。

李大根氏については、奥付に紹介がある。「1939年、韓国・慶尚南道陜川生まれ.1964年、ソウル大学商学部卒業、1980年、成均館大学経済学部教授。落星台経済研究所創立に参加。」

目次は以下の通りである。

李大根氏(文春オンライン)
李大根氏(文春オンライン)
監訳者によるまえがき、序文、第一章 なぜ帰属財産なのか、第二章 日本資金の流入過程、第三章 帰属財産の形成過程 (I): SOC建設、第四章 帰属財産の形成過程 (II): 産業施設、第五章 帰属財産の管理 (I): 米軍政時代、第六章 帰属財産の管理 (II): 韓国政府時代、第七章 解放後の韓国経済の展開と帰属財産、参考文献

李大根氏によれば、「帰属財産とは何か。一九四五年八月の解放当時、韓国で暮らしていた日本人が帰国の際に残していった財産について、新たに登場した米軍政がその財産権を米軍政に「帰属される」(vested)という意味で付けられた名称である。よって「帰属財産」(vested property)という名称は、米軍政による新造語といえる。その本質はあくまでも解放当時まで韓国にいた日本(人)の財産である。驚くべきことに、この帰属財産の資産価値は、当時の朝鮮の国富の八○〜八五%にも及んだ。」(30、本書ページ数、以下同じ)

帰属財産を、以上のように定義し、各章はその内容を詳しく明らかにしている。第三章 帰属財産の形成過程 (I): SOC建設は、鉄道、道路、港湾、山林緑化事業を取り上げるが、特に鉄道では、営業線路6,362km、従業員数10万人を超える鉄道が敷設されたことが明らかにされている。

第四章 帰属財産の形成過程 (II): 産業施設は、電気業、鉱業、製造業を詳細に検討している。電気業では、アメリカのTVAのフーバーダムに匹敵する水豊発電所(左の写真:Wikipedia)が建設された。また、全期間を通して、主要産業で最も設立会社数が多かったのは工業であり、そのうちの多くが第四期(一九三七〜四五年)に集中していた。第四期は「本格的な重化学工業化」の時期であった。

第七章 解放後の韓国経済の展開と帰属財産では、本書の重要な問題提起が整理されている。ウォーラーステインの世界システム論は、多くの植民地でモノカルチャー経済を発展させたことを明らかにしたが、これと対比しつつ、李大根氏は朝鮮が、「植民地経済の均衡的発展のために鉱工業を中心とした産業構造の高度化を行った点で、どの国の植民地支配とも完全に区別される特殊な工業化を経たのである。」(449-50)との結論を導き出している。

本書は大著ではあるが、わかりやすく書かれているので、多くの方々にぜひとも読んでいただきたい韓国・朝鮮近代史の貴重な研究である。

なお、私のさらに詳しい書評は以下に掲載しています。書評 李大根『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』」2021年の論文

戦間期朝鮮経済史と反日種族主義批判の最近の動向をまとめた『論文・書評集:戦間期朝鮮経済史と反日種族主義批判』は、以下に掲載しています。新保博彦の日本語版Website TOPページ

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2021年10月10日日曜日

とても便利!pdfファイルのkindleファイルへの変換

pdfファイルのkindleファイルへの変換
について、最も容易だと思われる方法を以下に記載します。とても簡単なので、ぜひ利用してみてください。

アカウント&リストーアカウント・サービスーコンテンツと端末の管理ー設定ーパーソナル・ドキュメント設定を開きます。

そこには、次のように記載されています。「Send-to-Kindle Eメールアドレスの設定、以下に表示されているEメールアドレス宛に文書を送信すると、端末で読むことができます。 」

その下には、自分の利用しているkindle(ハード)やPC、タブレット、スマホなどに割り当てられたメール・アドレスがあります。そのアドレスのどれかに向けて、kindleファイルに変換してほしいpdfファイルを添付して送信します。

そうすると、Amazon Kindle サポートからメールが届きますので、<リクエストの確認>をします。

次に、コンテンツと端末の管理ーコンテンツーパーソナル・ドキュメントを開けると、あっという間に変換されたkindleファイルを見ることができます。

以上とても簡単ですが、販売されたkindleファイルと比較すると、読むのには問題ありませんが、残念ながら機能はかなり制限されているようです。

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New! 新保博彦の政治・経済コラムを開設しました。このブログとともに、コラムもよろしくお願いいたします。(2021.10.2)

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