2019年12月29日日曜日

富山県水墨美術館開館20周年記念「墨画×革命 戦後日本画の新たな地平」

図録表紙
富山県水墨美術館開館20周年記念「墨画×革命 戦後日本画の新たな地平」が、2019年11月15日から2020年1月13日)まで開かれている。
「本展では、戦後に制作された墨画的表現を概観し、戦後日本画の中での墨画の性格、水墨画の伝統の受容/変容の状況を、さまざまなアプローチを見せた画家たちの群像により紹介します。」というのが展覧会の目的である。

残念ながら私は行けなかったが、すばらしい作品が多いので、購入した図録で紹介したい。この図録は、小さいながら、3枚見開きが高山辰雄、平川敏夫、下保昭、2枚見開きが横山操、小泉淳、加山又造の各氏の作品で掲載されているので、小ささを感じず十分に楽しむことができる。 

非常に興味深い墨画が多数集められているが、私が特に強く引かれたのは、平川敏夫氏(1924-2006)の次の作品である。それぞれの画像をクリックして、ぜひ拡大して見ていただきたいと思います。
平川敏夫「雪后閑庭」、1985/1990年 豊橋市美術博物館
図全体
所有者の豐橋市美術博物館によれば、「この作品は、昭和60年に右半双を発表したのち、平成2年の平川敏夫展(豊橋市美術博物館)に出品するため、左半双を描いて四曲一双屏風として5年越しで完成しました。」このような事情からか、縦が左右で少し異なるようである。このブログの図は図録を元に作成しているので、厳密には原作の図とやや異なっている。

左半双
何よりも、この光り輝く強い白色をどのようにして生み出したのかを知りたくなる。図録は次のように説明している。
右半双
「白く描きたい(残したい)部分に水溶性ゴムでマスキングをほどこし、その上に墨で描き、乾いた後にはがし取る方法である。従来の水墨画とは異なる方法で、新しい墨の表現を追求し、幽玄な世界を創り上げていった。」(66)

静まりかえった池の周辺で、前面に深く積もった雪が強く輝き、背後の木々が幹と枝を大きく広げている。枝に降り積もった雪か、舞っている粉雪が木々を覆っている。
白と黒の2つの色とそのコントラストだけで、これほど豊かな自然の生命力を繊細に描き出すことができるとは、本当に驚きである。

加山又造「一九八四・東京」、1984年、東京国立近代美術館
展覧会のもうひとつの作品も紹介しよう。加山又造氏のよく知られた作品である。
平川氏と同じような構想ではあるが、対象はビルが建ち並ぶ大都会の東京。「雪后閑庭」と同じように、辺り一帯に雪が降り積もり静まりかえっている。

加山又造「月光波濤」、1979年
今回の展覧会に展示された作品ではないが、あわせて掲げておきたいのは、加山又造氏のこの代表作である。
上の静まりかえった東京とは対照的に、左半双では高い岩にあたって激しく砕け散る波と水面が、月の光を受けて輝き、右半双にはそれを遠くから眺めるような満月、黒を背景にして白という色のみで、躍動する自然の一瞬が描かれている。

加山氏は、自らの手法を次のように説明している。「和紙に胡粉の上澄みを数度引き、エアガン、バイプレーター噴霧機、染色的手法、数種類の明墨の併用、と、現在自由に出来るあらゆる手法技術をぶち込んでみた。」(NIKKEI POCKET GALLERY「加山又造」、作品33の解説)

本ブログで紹介した展覧会「墨画×革命 戦後日本画の新たな地平」は残念ながらもうすぐ終了だが、図録や関連する墨画で、多くの方が墨画への関心が高められるよう願いたい。

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2019年12月6日金曜日

緑ヶ丘美術館 三代 徳田八十吉展

展覧会の案内 おもて
2019年の最後を飾るすばらしい展覧会に行くことができた。

生駒市の緑ヶ丘美術館で、(2019年)9⽉8⽇から12⽉22⽇まで<没後10年>⼈間国宝・三代德⽥⼋⼗吉展が開かれている。緑ヶ丘美術館・開館二周年を記念して開かれたということである。

展覧会では、以下の3つめの画像が示すように、⼈間国宝・三代德⽥⼋⼗吉の多数の作品が展示されている。
生駒市は人口が12万、大阪のベッドタウンとしては便利ではあるが比較的小さな都市で、このようなすばらしい展覧会が開かれるなんて本当に驚きである。

展覧会の案内 うら

「三代徳田⼋⼗吉⽒は、初代⼋⼗吉⽒を祖⽗に、⼆代が⽗という九⾕焼名⾨の家に育ち、⼦供の頃から伝統的な九⾕五彩の⾊絵に囲まれて育ってきました。・・・
時を経て、先代と違う独⾃の表現に⽬覚め、⾊と技法の研究から、ついに「彩釉」(さいゆう)を発案。絵ではない⾊釉の新しい表現を編み出しました。絵付け表現の九⾕焼に全く新しい⾊だけで表現する九⾕焼が発現しました。⽣前、三代⼋⼗吉⽒が「耀彩」(ようさい)と命名した作品が、その完成形です。
⼤胆なグラデーション、オーロラのような光、透き通る「⾊」の宇宙。類稀な情熱が⽣んだ光り輝く「耀彩」の世界。」(美術館Websiteから)

ずっと以前に、私も九谷を訪れ、お土産に九谷焼の絵付けされた湯飲みを買ったことがあった。三代徳田⼋⼗吉の作品はそれとは全く異なっているので、実際に見るのをとても楽しみにしていたが、やはり実物をみてあまりの美しさに圧倒されてしまった。

以下は、展覧された作品の一覧である。主な作品名を示しておこう。
左ページの左上の作品は、会場の入ってすぐの位置にある代表的な作品「耀三彩遊線文壺」、左ページ右上は「碧明耀彩花器」、左ページ3段目右は「彩釉鉢「輪華」」。
右ページ右の上段中央は「耀彩」、右ページ右上は「耀彩大皿「月輪」」中段右は「碧明耀彩曲文壺」である。
以上の代表的な6作品は、いずれも以下で紹介する美術館のカレンダーに掲載されている。

作品一覧、展覧会パンフレットから

















展覧会パンフレット・表紙

以上の作品群はどのようにして創造されたのか?展覧会パンフレットには次のように書かれている。

「通常の九谷焼の工程では、素地を成形し、素焼して施釉のあとに本焼き、それに呉須(下絵の染付)で絵柄の輪郭を描き、その上に厚く絵の具を乗せて、約800度で焼成します。
 しかし、三代八十吉は、絵付け焼成を約1050度という高温で行います。これは、より高温で焼き、ガラス化した釉の中に色彩、輝きを閉じ込めるため。そうして生まれたのが「耀彩(ようさい)」という独特の世界なのです。」(6ページ)
次年度カレンダー

こうしてできあがった三代徳田⼋⼗吉氏の世界を、ぜひ美術館に行かれて、作品にぐっと近づいてご覧いただきたいと思う。日本の中で連綿と受け継がれるブルー:青の世界が、三代徳田⼋⼗吉氏によって、また新たに切り開かれたのを見ることができる。

ちなみに、入場は無料、展覧会パンフレット、右のカレンダーも無料でいただける。まず、作品についての10分ほどのビデオも見ることができる。
さらに、同時にやはり人間国宝の陶芸家藤本能道氏、島岡達三氏の生誕100年記念特別展示まである。
遠くから来ていただいても十分に満足していただける内容だと思います。

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