ところで、私の論文「強まるバブル懸念の指標とバブル研究の古典」は、今日のバブルの懸念を示す指標とともに、バブル研究の古典である、キンドルバーガー『熱狂、恐慌、崩壊 金融恐慌の歴史』、ガルブレイス『新版 バブルの物語』とチャンセラー『バブルの歴史』を検討した。(ブログでの要約:「強まるバブル懸念の指標とバブル研究の古典(1)」「強まるバブル懸念の指標とバブル研究の古典(2)」)
キンドルバーガーの著書は後に新しい版が刊行され、アリバーによってリーマン・ショックまでの金融危機の記述などが追加された。その新著を、先の論文の続編である、「リーマン・ショックと現在 キンドルバーガー『熱狂、恐慌、崩壊』の最新版を読む」が紹介した。(2つの論文は、ともに私のweb site 「2021年の論文」に掲載されています)以下は、その簡単な紹介である。
リーマン・ショック:大恐慌以来の深刻な金融危機
リーマン・ショックとは、2008年9月15日に、アメリカ第4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが、負債総額6300億ドルとなる史上最大級の規模の「破綻が引き金となり、大恐慌以来の深刻な危機に陥ることになる」(410)金融危機である。危機の前には、次のような動きがあった。2000年に入ると、アメリカにおいて、信用力の低い個人向け住宅融資であるサブプライム・ローンが急速に普及した。サブプライム・ローンは、借り手は信用力が低いため高金利であったが、アメリカ政府が融資基準を緩和したため利用者が急速に増加した。
しかし、長く上昇し続けていた地価の下落とともに、住宅ローン債務者は担保価値上昇によって返済を見込んでいたが、そのもくろみが崩れ、返済が困難になる人々が続出し、金融機関などが次々に損失が生まれ始めた。「サブプライム証券化商品を他社に追いつき追い越す絶好の機会とみなし」 て、関連する事業を拡張していたリーマン・ブラザーズは、巨額の損失を計上し破綻した。
リーマン・ショックと現在
日本経済新聞 Deep Insights 「マネーの川は急変する」(2022年1月11日)は、次のような図を掲げて、現在とリーマン・ショック直前の2007年1月を比較した。 株価の上昇率は1.5倍、ジャンク債の発行本数は1.22倍、SPAC(特別買収目的会社、それ自体は特定の事業を持たずに、未公開企業を買収することのみを目的とした会社)のバブル など、「マネーの川は急変する」条件が揃いつつあるという評価も可能である。こうした環境の下で、改めて、アリバーが加筆した、リーマン・ショックに至る金融危機の歴史を明らかにした、キンドルバーガー『熱狂、恐慌、崩壊 (原著第6版) 金融危機の歴史』を読み直す意義があるだろう。