それとともに、速水氏は『日本帝国死因統計』等の文献と、超過死亡概念を用いて、前回のブログで紹介した『流行性感冒 「スペイン風邪」大流行の記録』の死亡者数を、見直そうとされている。
目次は以下の通りである。
序章 “忘れられた”史上最悪のインフルエンザ
第1章 スペイン・インフルエンザとウイルス、第2章 インフルエンザ発⽣―⼀九⼀⼋(⼤正七)年春―夏、第3章 変異した新型ウイルスの襲来―⼀九⼀⼋(⼤正七)年⼋⽉末以後、
第4章 前流⾏―⼤正七(⼀九⼀⼋)年秋―⼤正⼋(⼀九⼀九)年春、第5章 後流⾏――⼤正⼋(⼀九⼀九)年暮―⼤正九(⼀九⼆〇)年春
本文中に掲載された新聞の一例、p.103 |
終章 総括・対策・教訓
あとがき、資料 1 五味淵伊次郎の⾒聞記、資料 2 軍艦「⽮矧」の⽇誌、新聞⼀覧、図表⼀覧
まず、このブログでは、速水氏の理論を詳細に展開している第6章を紹介しよう。速水氏が採用した方法は次の通りである。「有効な方法とは、「超過死亡(excess death)」概念の適用である。ここでいう超過死亡とは、ある感染症が流行した年の死亡者数を求めるに際し、その病気やそれに関連すると思われる病因による平常年の死亡水準を求め、流行年との差をもってその感染症の死亡者数とする考え方である。」(237、以下数字は本書ページ数)この方法を用いた統計は、『日本帝国死因統計』で、そこでの流行性感冒、肺結核等8項目が病因の範囲とされた。
図6-1 月別インフルエンザ死亡者数 |
図6-3 年齢別インフルエンザ死亡率 |
この図によれば、死亡率が高い山は2つある。ひとつは5歳までの乳幼児で、もうひとつは25歳から34歳までの生産の担い手である。現在流行しているコロナ・ウイルスでの高齢者に死亡者が多いという特徴とは異なっている。
図6-7-3 府県別インフルエンザ死亡率 |
以上を、全期間としてまとめたのが、図6-7-3 府県別インフルエンザ死亡率(全期間)である。図で9%以上となっているのが、青森県、兵庫県、大阪府、香川県、徳島県である。大阪府・兵庫県と四国2県が大きな中心地となっている。
以上の分析を詳しく行った上で、速水氏は、「「前流行」の猖獗した県では住民の多くが免疫抗体を持ったので、「後流行」では比較的被害を受けずに済んだこと、逆に、「前流行」では、多くの死亡者を出すほど猖獗しなかった県では、抗体を持った者が少なく、「後流行」で多くの死亡者を出したことを物語っている。そうすると、「前流行」と「後流行」は同一のウイルスによってもたらされた可能性が強いと言えるのではなかろうか。」(260-1)という、もうひとつの重要な結論を導き出されている。
以上で、主に第6章を紹介したが、次回のブログでは、スペイン・インフルエンザの世界的な影響、各国の対応策と日本に関する速水氏の見解などについて検討したい。
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