本書は、スペイン・インフルエンザについての最も詳細な著作であるとの評価が高く、本文が435ページ、参考文献と索引が付く大著である。
目次は以下の通りである。
第1部 スパニッシュ・インフルエンザ序論、第1章 ⼤いなる影
第2部 スパニッシュ・インフルエンザ第⼀波――1918年春・夏、第2章 インフルエンザウイルスの進撃、第3章 3か所同時感染爆発──アフリカ、ヨーロッパ、そしてアメリカ
第3部 第⼆波および第三波、第4章 注⽬しはじめたアメリカ、第5章 スパニッシュ・インフルエンザ、合衆国全⼟を席巻、第6章 フィラデルフィア、第7章 サンフランシスコ、第8章 洋上のインフルエンザ──フランス航路、第9章 ⽶軍ヨーロッパ遠征軍とインフルエンザ、第10章 パリ講和会議とインフルエンザ
第4部 測定、研究、結論、そして混乱、第11章 統計、定義、憶測、第12章 サモアとアラスカ、第13章 研究、フラストレーション、ウイルスの分離、第14章 1918年のインフルエンザのゆくえ、
第5部 結び、第15章 ⼈の記憶というもの──その奇妙さについて
まず、第11章 統計、定義、憶測の付録として掲載されている統計から紹介したい。上記書は、大部分が様々な資料からの詳細な個々の事実の記述であるので、これらの統計から、当時のアメリカでの実情についての概観を得たい。
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2年にわたってアメリカを襲ったスペイン・インフルエンザは、1918年の9-12月の死亡者が、全登録州で人口1000人あたり4.8人と最も多く、1919年にはしだいに少なくなった。地域別に見ると、時期的な傾向は変わらないが、ペンシルバニア州(北東部、最大の都市フィラルデルフィア)の死亡率が、1918年の9-12月に7.3とかなり高い。
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超過死亡者と言う方法は、前回のブログで紹介した速水氏の『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』でも採用された方法で、死亡者を過大に評価する可能性を排除し、より正確な実態を把握できる。
なお、p.409の注は、「パンデミックによる「超過死亡」(Excess Mortality) パンデミックがあったときの(インフルエンザ以外の死因を含めたすべての)ある期間内の死亡者数のうち、パンデミックがなかったと想定した場合にくらべての死亡者数の増加分をいう。」と説明している。
表1と比べ調査された期間は短いが、表1と同様に1918年9月から12月で、人口10万人あたりの数に換算した超過死亡者数が合計で440人と最も多く、翌年前半には89人まで低下した。地域的な違いについては、表1と同様である。
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まず、死亡者の実数は1918ー19年の合計のみ掲載した。また、表には特に注目すべき年齢層のみ示したが、1歳未満を中心とする5歳未満合計と、25-29歳を中心とするその前後の層の死亡者が非常に多いという特徴が明らかになる。
次回のブログで紹介するが、アラスカなどでは、多くの若い成人層が亡くなって孤児が増えたという悲惨な結果も生まれた。また、多数の若い成人層の死亡は、おそらく経済活動にも深刻な影響を与えたであろう。
以上3つの表から得られた特徴は、日本でも同様で、スペイン・インフルエンザが同じような影響を各国に及ぼしていることがわかる。
なお、アメリカの死亡率は、日本とドイツを除く先進工業国とほぼ同じ水準である。世界の死者数が約5000万人、最大で1億人で、インドをはじめとする発展途上国が著しく多かったことも、あわせて念頭に置いておいていただきたい。
次回のブログでは、『史上最悪のインフルエンザ』の他の興味深い章について紹介したい。
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