2025年3月30日日曜日

「書評 『ドイツ=ロシアの世紀 1900-2022』」を掲載しました

「書評 『ドイツ=ロシアの世紀 1900-2022』」を掲載しました。

書評(pdfファイルです。クリックしてご参照ください)

目次:はじめに、最も重要な基本的な評価、書籍の構成、目次について、1 戦間期:1918-45年 (28年間):最終的には独ソ戦争で終わる期間、この時期を主導するヒトラーとスターリン、2 戦後東西ドイツの分断:1949-89年 (41年間)、3 その後1990-2025年 (36年間)、ドイツの再統一、独ロ間の接近、そしてロシアのウクライナ侵攻、おわりに 

上記の「最も重要な基本的な評価」は以下の通りです。

 第1に、20世紀はパックス・アメリカーナの時代という一般的に受け入れられている評価に対して、全く新しい視点である、ドイツとロシアの世紀という視点は、現代を理解する上できわめて重要である。ドイツとロシアは、20世紀の間、対立と協調を繰り返し、それが世界とヨーロッパに与えた影響は計り知れない。特にロシアのウクライナ侵略が続いている現在、その特徴を強調する意義はとても大きい。

 第2に、著者の視点が極めて明解で適切である。以下で示すように、ロシアのウクライナ侵攻に対する厳しい批判、ウクライナへのドイツの支援についての必要性については曖昧さがなく一貫している。いくつかの記述を示しておこう。

「遅くとも二〇二二年二月二四日以降、一九九〇~九一年の転換とそれに託された和解と平和的な二国間・多国間協力への期待は過去の遺物となった。」(下、295)

「必要なのは美辞麗句ではなく、むしろ必要なあらゆる戦争物資をふくめた喫緊の行動を伴う支援であり、それは理想的にはプーチンを軍事的に敗北させるか、少なくとも、最終的にはロシアと対等な立場で受け入れ可能な和平条件を交渉できる立場にウクライナを置くための戦場における支援である。」(下、297)

「この限りにおいて、現在、ドイツ=ロシアの世紀が終わりを迎えていることを示唆するものは多い」(下、302)。ただ、ここで厳密には、「ドイツ=ロシアの協調の歴史が」と言い換えたほうが適切なのではないだろうか。

ところで、ドイツ・ロシアの関係の諸問題は、アジアにおける日本とロシア、中国との関係を考える上でとても参考になる。その意味でも本書を多くの日本人の関心ある人々に薦めたいと思う。

「書評 唐鎌大輔『アフター・メルケル』」を掲載しました。

 「書評 唐鎌大輔『アフター・メルケル』」を掲載しました。

書評(pdfファイルです。クリックしてご参照ください)

目次:はじめに、1 『アフター・メルケル』の概要、2 第1章 メルケル時代の総括―4つの次元における整理、3 第2章 現在 ドイツ一強がもたらす「歪」、4 第3章 過去 「病人」は如何にして復活したか、5 第5章 補論 日本はドイツから何を学ぶべきなのか、おわりに

はじめに」は以下の通りです。

 今、ドイツを中心とするヨーロッパ諸国は、第2次世界大戦後の最大の変化のひとつを経験しつつある。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略は、ドイツを中心とするヨーロッパ諸国に劇的な政策転換を求めている。その動きは、ロシアとの関係を重視する、アメリカのトランプ政権の登場によって、さらに加速した。

 2025年3月18日に、ドイツ連邦議会(下院)は、巨額の財政出動に必要な基本法(憲法)の改正案を採決し、賛成多数で可決した。厳格な債務抑制から方針転換し、長期の国防費増強に道を開いた。 

 2025年2月23日にはドイツの総選挙が行われ、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が中心となる新たな政権が誕生する予定だが、そこで大きな争点となった移民問題についても大きな変化があった。ドイツ連邦議会(下院)は、選挙直前の1月29日、連邦政府に移民対策の厳格化を要求する決議案を賛成多数で可決した。最大野党であるキリスト教民主・社会同盟が提出し、「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持し、僅差で賛成多数となった。 

 このようにして、今世界がドイツに注目しているが、ドイツの最近の動向を包括的に検討し、注目されている唐鎌大輔『アフター・メルケル』(日本経済新聞出版)を改めて読み直してみたい。この著作は2021年12月刊行なので、今現実に起こっている変化を検討しているわけではないが、その萌芽をどのように捉えているかを中心に読んでみたい。

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2025年2月27日木曜日

私の研究チャンネルに、3つめの動画「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス」を作成・掲載しました。

私の研究チャンネルに、3つめの動画「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス、Corporate Governance in Japan and the United States in the Interwar Period」を作成・掲載しました。


その動画の説明欄に記載した内容は以下の通りです。
「 「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス」は、4つの章からなっています。
 1 戦間期アメリカのコーポレート・ガバナンス、2 戦間期日本のコーポレート・ガバナンス、3 戦間期日本の金融証券市場、4 まとめ
 なお、戦間期は、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間の時期を指します。
 1が明らかにしたように、戦間期アメリカでは、株式が広範囲に分散して所有され、株式の所有と経営が分離し、経営者が経営の実質的な支配権を獲得しているコーポレート・ガバナンスのあり方である経営者支配が、広く受け入れられ、アメリカ企業の発展に貢献しました。
 2においては、戦間期日本では、戦後に発展したメインバンク・システムとは異なって、企業においても銀行においても、市場中心型コーポレート・ガバナンスが支配的だったことを明らかにしました。特に後発の新興財閥をはじめとする有力企業では、その特徴が顕著でした。
 以上の意味で、戦間期日本とアメリカのコーポレート・ガバナンスは、基本的に共通の特徴を持っていました。
 戦後の日本では、第2次世界大戦の敗北による、金融・証券市場の解体という特殊な条件の下で、融資や株式の相互持ち合い、さらには役員の派遣などを通じて発展した、銀行を中核とした企業間の相互関係である、メインバンク・システムが支配的になりました。
 しかし、メインバンク・システムは、1980年代後半から90年代初頭におけるバブルの形成と崩壊をもたらして衰退し、その後、戦間期に発展した市場中心型コーポレート・ガバナンスが、再び幅広く受け入れられつつあります。」

2025年1月23日木曜日

「『日本経営史 第三版』を読む:コーポレート・ガバナンスと直接投資の発展史の視点から」を掲載しました。

 「『日本経営史 第三版』を読む:コーポレート・ガバナンスと直接投資の発展史の視点から」を、私のwebsiteに掲載しました。(2025.1.22)

書評(ここをクリックしてもご参照いただけます)

書評でのキーワード:市場経済、財閥、新興財閥、高度成長、バブル、失われた10年、コーポレート・ガバナンス(企業統治)、日本的経営、メインバンク・システム、「新型の日本的経営」、直接投資

書評の目次:はじめに、第1章 「第1章 日本型企業経営の起源」を中心に、第2章 明治維新から第二次世界大戦終了まで、第3章 高度成長期から現在まで

以下は書評の冒頭の一部です

「2023年5月に、『日本経営史〔第3版〕-江戸から令和へ・伝統と革新の系譜』が刊行された。『日本経営史』は、初版が1995年3月、新版が2007年10月に刊行され、今回が第3版になる。3つの版の著者が同じで、約30年間にわたって改訂が続けられた画期的な著作である。著者はいずれも各分野で優れた業績を挙げられた方々で、同書は日本の経営史研究の現在を示す重要な著作となっている。

私は、これまで、日本企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)と直接投資に焦点を合わせつつ、戦間期から現在にいたる、経済と企業の発展の歴史と課題について様々な研究を発表してきたが、この書評では、『日本経営史』の主な論点の成果と課題について、私のこれまでの研究を基礎にして検討したい。」

※なお、本書評には私の著書、研究論文なども掲載していますが、新保博彦の(YouTube)研究チャンネルでは、以下の「戦間期の日本経済:市場経済の発展と積極的な対外直接投資、The Japanese Economy in the Interwar Period」というYouTube動画も作成しています。


2月27日に、新たな動画戦間期日米のコーポレート・ガバナンス、Corporate Governance in Japan and the United States in the Interwar Period」を掲載しました。



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2024年10月18日金曜日

中国株の暴騰と急落、2024年9-10月










9月中旬から中国株の暴騰と急落が起こっている。上記6件の東証上場中国関連ETF(以下、中国関連ETFと呼ぶ)のデータを見てみよう。なお、注意しておきたいのは、上位4つは、NISA成長投資枠のETFである。表からわかるように、9月中・下旬に年初来最安値を付けた中国関連ETFは、10月上旬に最高値を付けた。「One ETF 南方 中国A株 CSI500」は、この短期間の内になんと最安値に対して57.7倍にも上昇した。中国を代表する企業を含む「(NEXT FUNDS) ChinaAMC・中国株式・上証50」ですら2.2倍である。

暴騰のきっかけは、「情報化が進展し市場環境が整備された現代で、中国株ETFの「狂乱相場」が起きたのはなぜか。中国当局が9月24日に発表した追加の景気刺激策を株式市場が好感したことは、ほんの小さなきっかけにすぎなかった。」(日経新聞、「まるでチューリップバブル 中国株ETF「狂乱相場」の真相、マーケットα、2024年10月13日 5:00」)
しかし、その後中国当局から追加の景気刺激策の具体的な内容は明らかにされず、10月18日(金)現在で、株式市場が急落しても、発表は無く、下落は続いている。
この暴騰と急落は、かなりの中国の人々の投資を一気に呼び起こし、そして結果として多くの資産を失わせたと推測される。インターネット上では、投資の失敗と生活の破綻を訴える人々の投稿が溢れている。

こうした事態に、世界でも中国投資に熱心なヘッジファンドである、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏は、以前ほど大胆ではないが、やはり中国投資に期待を寄せている。「中国政府の政策担当者が確約したものより「はるかに多くの」刺激策を実施すれば、このような市場刺激策の大波は世界第2位の経済大国にとって歴史的な転換点になると述べた。」(ブルームバーグ「中国は「必要なら何でもする」局面、2012年のECBに類似-ダリオ氏、Ye Xie」、2024年10月2日 11:05 JST)

私は、このブログで、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』などの主要な著作を取り上げて、彼の中国と対中国投資への傾倒を批判してきた。(そのひとつは、「レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(1)」)レイ・ダリオ氏には、残念ながら、今年度のノーベル経済学賞を受賞した、ダロン・アセモグル, ジェイムズ・A・ロビンソン両氏による、政治と経済の「収奪的制度」(extractive institutions)「包括的制度」(inclusive institutions)などの概念による、中国政治・経済の基本的な特徴:中国共産党による政治と経済への権威主義的(独裁的)支配への批判が欠けている。

現在の市場の混乱を収めるためには、まずは中国政府・共産党が、当面緊急の経済対策の具体案を提示することが求められるだろう。これが無ければ、政府への信頼と市場への期待は急速に失われるだろう。さらには、改めて詳しく検討しなければならない課題であるが、「エリートだけでなく社会の幅広い階層の人々に、安全な財産権とビジネス・チャンスが与えられている」「包括的経済制度」(アセモグル・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)、p.133、早川書房、Kindle 版)に向けて、一歩を踏み出さなければならないと思われる。

2024年9月29日日曜日

自民党総裁選(党員・党友票)に見る、都市と地方の対立

自民党総裁選挙は、石破茂氏の勝利となった。この結果について様々な評価があるが、私が特に注目したいのは、各都道府県別の党員・党友票の投票結果である。左は、毎日新聞がまとめた図である。

(https://mainichi.jp/articles/20240927/k00/00m/010/326000c、他社にも同様の図はあるが、画像の見やすい図を採用した)

この図から、高市氏が、東京・埼玉・千葉、大阪・京都・兵庫・奈良、愛知・三重、広島、福岡などの主な都市部全体で党員・党友票が一位になり、それに対して、石破氏は鳥取を始め濃い赤色のいわゆる地方で、一位を獲得していることがわかる。

経済成長を公約の中心に据えている高市氏と、地方創生を政策の核心のひとつとしている石破氏の主張の相違がここに反映していると思われる。

また、石破氏は、金融所得課税の強化も重要な政策としているが、すでに日経平均先物が大幅に下落しているように、週明けの市場が動揺することが予想される。

もちろん、各地域内の投票差はそれほど大きく無い場合もあるが、上記の違いは非常に重要な意味を持っている。自民党が今後どの地域の、どのような階層の利益を基盤に成長して行くかが問われているように思われる。

投票結果全般と、詳しい地方別の投票結果は、日本経済新聞「自民党新総裁に石破茂氏 1回目と決選投票の結果詳報、自民党総裁選2024 投開票速報、自民党総裁選2024、2024年9月27日 12:55 (2024年9月27日 19:00更新)」を参照。

*****

ところで、この選挙は、各メディアが具体的な数字を示した調査をためらっている中、各社に先駆けて発表した読売新聞「読売終盤情勢分析」(2024/09/25 05:00)の予想が特に注目された。

 この図から、選挙終盤で、小泉候補の後退、高市候補の急伸と、石破・高市候補の接戦が、具体的にあきらかになった。おそらく、この調査を下に、各議員は投票行動を決めたものと推測される。

党員・党友票の行方を全国で明らかにし、かつ国会議員票を予測するという難しい作業を行わず、コメンテーターによる、具体的な数字を示さない感想や、おしゃべりが少なくなかったことは、メディアの信頼を失わせる残念な結果である。

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2024年9月19日木曜日

細見美術館「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」

細見美術館で「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」が、2024年9月7日(土)から11月24日(日)まで、開催されているので、久しぶりに同美術館に出かけた。

細見美術館と言えば、2016年の「春画展」が、展示された作品の数と参加者の数で、予想をはるかに超えていたことを思い出す。私のブログでも詳しく紹介した。

今回の展覧会は、「「美しい春画」と銘打った本展覧会のコンセプトは、まさに『美的』な春画である。江戸時代、浮世絵師のみならず実に多くの絵師が春画を描いている。その品質にも幅があり、一部の出来のよくない春画が春画全体の評判を落としてきたことの要因に数えられるだろう。本展覧会では美的に優れた春画を精選した。」(樋口一貴)

今回特に注目されているのは、まず、「北斎の肉筆春画の傑作「肉筆浪千鳥」、日本の美術館で初公開!」である。全部で十二図あり、1810-19年に制作されている。どれも画面全体を使い、色彩と表情が豊かに描かれている。左の図は、図録p.56-7に掲載されている一図であるが、本ブログと美術館web siteでは、部分図である。

もうひとつ特に注目されているのが、日本の美術館で初公開となる、歌麿の大作2点である。

まず、「夏夜のたのしみ」。1801-06年に制作され、縦61.7cm、横105.3cmにもなる大きな掛け軸である。若い恋人達が夏の夜に戯れている場面である。もちろんこれも部分図である。

歌麿のもうひとつの作品が「階下の秘技」である。制作されたのは、「夏夜のたのしみ」と同じ年、縦54.8cm、横68.8cmとこれもまた大きい掛け軸である。やはり、この図も部分図である。

これらは、掛け軸なので、床の間に飾って、多くの人々が共に楽しんだのだろう。春画の描かれた場面が開放的であるのと同様に、鑑賞された場所も開放的なのだろう。春画は、“秘かに愉しむもの”ではなかった。

なお、以上の代表的な作品を含めて、展覧会では精選された美麗な春画67件が展示されている。


最後に、この展覧会の展覧会公式図録を紹介しておきたい。ページ数は212+xiiと、とても充実している。図録の写真は下の通りだが、画像からわかるように、閉じ方が、前回の「春画展」と同様に、糸綴じとなっていて、各図が完全に開かれた状態で見ることができるのが、とても良い。

目次は、以下の通り。公式図録で掲載されているのは、もちろん部分図ではないので、ぜひ図録で春画を楽しんでください。

鼎談 美しい春画を愉しむ 對龍山荘にて、ごあいさつ、「美しく、楽しい春画」(小林忠)

I 上方春画の世界、II 北斎・歌麿の競艶 「葛飾北斎<肉筆浪千鳥>ー世界から日本へー」(伊藤京子)、III 魅惑の浮世絵春画

「美しい春画」(樋口一貴)、「春画の見方、味わい方」(山本ゆかり)

作品解説、絵師解説、作品目録」