9月中旬から中国株の暴騰と急落が起こっている。上記6件の東証上場中国関連ETF(以下、中国関連ETFと呼ぶ)のデータを見てみよう。なお、注意しておきたいのは、上位4つは、NISA成長投資枠のETFである。表からわかるように、9月中・下旬に年初来最安値を付けた中国関連ETFは、10月上旬に最高値を付けた。「One ETF 南方 中国A株 CSI500」は、この短期間の内になんと最安値に対して57.7倍にも上昇した。中国を代表する企業を含む「(NEXT FUNDS) ChinaAMC・中国株式・上証50」ですら2.2倍である。
新保博彦のブログ
Hirohiko SHIMPO's Blog
2024年10月18日金曜日
中国株の暴騰と急落、2024年9-10月
2024年9月29日日曜日
自民党総裁選(党員・党友票)に見る、都市と地方の対立
自民党総裁選挙は、石破茂氏の勝利となった。この結果について様々な評価があるが、私が特に注目したいのは、各都道府県別の党員・党友票の投票結果である。左は、毎日新聞がまとめた図である。
(https://mainichi.jp/articles/20240927/k00/00m/010/326000c、他社にも同様の図はあるが、画像の見やすい図を採用した)
この図から、高市氏が、東京・埼玉・千葉、大阪・京都・兵庫・奈良、愛知・三重、広島、福岡などの主な都市部全体で党員・党友票が一位になり、それに対して、石破氏は鳥取を始め濃い赤色のいわゆる地方で、一位を獲得していることがわかる。
経済成長を公約の中心に据えている高市氏と、地方創生を政策の核心のひとつとしている石破氏の主張の相違がここに反映していると思われる。
また、石破氏は、金融所得課税の強化も重要な政策としているが、すでに日経平均先物が大幅に下落しているように、週明けの市場が動揺することが予想される。
もちろん、各地域内の投票差はそれほど大きく無い場合もあるが、上記の違いは非常に重要な意味を持っている。自民党が今後どの地域の、どのような階層の利益を基盤に成長して行くかが問われているように思われる。
投票結果全般と、詳しい地方別の投票結果は、日本経済新聞「自民党新総裁に石破茂氏 1回目と決選投票の結果詳報、自民党総裁選2024 投開票速報、自民党総裁選2024、2024年9月27日 12:55 (2024年9月27日 19:00更新)」を参照。
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ところで、この選挙は、各メディアが具体的な数字を示した調査をためらっている中、各社に先駆けて発表した読売新聞「読売終盤情勢分析」(2024/09/25 05:00)の予想が特に注目された。この図から、選挙終盤で、小泉候補の後退、高市候補の急伸と、石破・高市候補の接戦が、具体的にあきらかになった。おそらく、この調査を下に、各議員は投票行動を決めたものと推測される。
党員・党友票の行方を全国で明らかにし、かつ国会議員票を予測するという難しい作業を行わず、コメンテーターによる、具体的な数字を示さない感想や、おしゃべりが少なくなかったことは、メディアの信頼を失わせる残念な結果である。
(ブログのTOP、ブログの目次、新保博彦のホームページ、新保博彦の(YouTube)チャンネル)
2024年9月19日木曜日
細見美術館「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」
細見美術館で「美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-」が、2024年9月7日(土)から11月24日(日)まで、開催されているので、久しぶりに同美術館に出かけた。
細見美術館と言えば、2016年の「春画展」が、展示された作品の数と参加者の数で、予想をはるかに超えていたことを思い出す。私のブログでも詳しく紹介した。
今回の展覧会は、「「美しい春画」と銘打った本展覧会のコンセプトは、まさに『美的』な春画である。江戸時代、浮世絵師のみならず実に多くの絵師が春画を描いている。その品質にも幅があり、一部の出来のよくない春画が春画全体の評判を落としてきたことの要因に数えられるだろう。本展覧会では美的に優れた春画を精選した。」(樋口一貴)今回特に注目されているのは、まず、「北斎の肉筆春画の傑作「肉筆浪千鳥」、日本の美術館で初公開!」である。全部で十二図あり、1810-19年に制作されている。どれも画面全体を使い、色彩と表情が豊かに描かれている。左の図は、図録p.56-7に掲載されている一図であるが、本ブログと美術館web siteでは、部分図である。
もうひとつ特に注目されているのが、日本の美術館で初公開となる、歌麿の大作2点である。まず、「夏夜のたのしみ」。1801-06年に制作され、縦61.7cm、横105.3cmにもなる大きな掛け軸である。若い恋人達が夏の夜に戯れている場面である。もちろんこれも部分図である。
歌麿のもうひとつの作品が「階下の秘技」である。制作されたのは、「夏夜のたのしみ」と同じ年、縦54.8cm、横68.8cmとこれもまた大きい掛け軸である。やはり、この図も部分図である。なお、以上の代表的な作品を含めて、展覧会では精選された美麗な春画67件が展示されている。
最後に、この展覧会の展覧会公式図録を紹介しておきたい。ページ数は212+xiiと、とても充実している。図録の写真は下の通りだが、画像からわかるように、閉じ方が、前回の「春画展」と同様に、糸綴じとなっていて、各図が完全に開かれた状態で見ることができるのが、とても良い。
目次は、以下の通り。公式図録で掲載されているのは、もちろん部分図ではないので、ぜひ図録で春画を楽しんでください。
鼎談 美しい春画を愉しむ 對龍山荘にて、ごあいさつ、「美しく、楽しい春画」(小林忠)
I 上方春画の世界、II 北斎・歌麿の競艶 「葛飾北斎<肉筆浪千鳥>ー世界から日本へー」(伊藤京子)、III 魅惑の浮世絵春画
「美しい春画」(樋口一貴)、「春画の見方、味わい方」(山本ゆかり)
作品解説、絵師解説、作品目録」
2024年7月9日火曜日
伊藤若冲の「釈迦十六羅漢図」がデジタル復元されました
伊藤若冲の「釈迦十六羅漢図」がデジタル復元されました。
私のブログ「未発見の大作 伊藤若冲「十六羅漢図」が紹介していた同図が、NHKによれば、「昨年専門家チームが結成され、このほどデジタル復元が完成した。」7月14日(日) 午前9:00〜午前9:45の日曜美術館で紹介されます。ぜひご覧ください。
以下は、私が大阪府立図書館でコピーしたもの(白黒)
2024年4月4日木曜日
レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(3)
この著作は、2023年09月に日本語版が刊行されたが、原語版は2021年11月30日の出版となっている。執筆されているのは、まさに世界で新型コロナ感染症がなお拡大している時期である。中国は未だに全感染者数の実態も公表していないが、各国と同様大きな被害が出ていたことは疑いない。
そして、2022年12月7日に、中国は「ゼロコロナ」政策を、突然理由も明確にしないまま大幅に緩和した。「ゼロコロナ」政策の時期に、中国経済は深刻な打撃を受けたが、その影響があまりにも大きく、政策の大転換後も経済の回復には至っていない。
さらに、今中国で不動産バブルの崩壊が起こりつつある。これまで中国を牽引してきた不動産企業は深刻な経営危機に陥り、この危機が不動産企業に融資していた金融機関に波及し、不動産バブルの崩壊から幅広い金融危機に陥ることが危惧されている。コロナ危機は、中国とその経済の大きな転換点になっているのである。クルーグマンが「中国経済は日本のバブル崩壊よりもひどい状態になる」と指摘しているのは周知の通りである。(PAUL KRUGMAN, China’s Economy Is in Serious Trouble, The New York Times, Jan. 18, 2024.)
これに対して、中国共産党と政府は、1) 経済的な危機に対して適切な対応を提示できていないだけでなく、2) 経済と政治に対して徹底した管理と支配の政策を次々と打ち出している。こうしたことを背景に、自由な企業活動が困難になりつつある中国を脱出する企業は多く、グローバルなサプライチェーンは再編成を迫られている。
こうして、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則』の、中国がアメリカに迫り、新たな帝国となるという楽観的な結論は、妥当かどうか疑わしくなっていると私には思われる。
これに対して、レイ・ダリオ氏は、In China: The 100-Year Storm on the Horizon and How the Five Big Forces Are Playing Out (中国:中国での100年に一度の暴風雨と5つの大きな力の行方)と題する論評を発表した。(https://www.linkedin.com/pulse/china-100-year-storm-horizon-how-five-big-forces-playing-ray-dalio-wysbc/)氏は、中国の現状を次のようにまとめている。「1. 巨額の債務と経済問題があり、経済活動、物価、心理を落ち込ませている。2. 国内の貧富の格差と、その結果として生じる富や価値観をめぐる対立が激化しており、恐怖を誘発している。3. 中国と米国の大国間の対立は大きな悪影響を及ぼしている。4. 気候および気候関連の問題は大きく、脅威であり、最優先事項である。5. 技術開発は常に重要な決定要因であり、技術戦争に勝った者が経済、地政学、軍事戦争に勝つことはよく知られているが、これが今ほど真実になったことはなく、中国と米国がリーダーであり、大きな敵対国である。」
以上の通り、レイ・ダリオ氏の見解は大きくは変わってはいないようである。
氏は最後に次のように述べている。「私は中国の高品質な資産が非常に魅力的な価格だと感じており、そこへの投資は非常にうまくいっている。また、私は中国の人々と文化に大きな愛情と敬意を抱いている。」レイ・ダリオ氏のヘッジ・ファンドは、おそらく中国への投資で巨額の利益を得ており、そのことを背景に氏は中国への関心を深め、中国の歴史を研究し、中国への期待を膨らませたものと思われる。
ちなみに、Sovereign Wealth Fund Institute (SWFI) は、Top 100 Hedge Fund Manager Managers by Managed AUMを発表しているが、レイ・ダリオ氏のBridgewater Associates, LPを第1位と評価している。(https://www.swfinstitute.org/fund-manager-rankings/hedge-fund-manager)
しかし、Bloombergは、「創業者レイ・ダリオ氏が1年半前に経営権を譲り渡し、世代交代が行われた世界最大のヘッジファンド運営会社ブリッジウォーター・アソシエーツは、過去数年の低調なリターンを巡る投資家の不満に直面している。」と指摘している。(ブリッジウォーター、顧客の不満に応えられるか-事業好転の試金石に、Katherine Burton、2024年4月2日 8:41 JST)
この低調なリターンがどのような理由によるものかは不明で、Bloombergでも具体的な指摘は無いが、レイ・ダリオ氏が創設し、後継者が受け継いだ戦略が影響を与えた可能性は十分に考えられるだろう。
レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(2)
前回のブログに続いて、大帝国の相対的ポジションの図を説明する要因を取り上げたい。レイ・ダリオ氏は、まず3つのビッグ・サイクルがあると言う。1. 債務と資本市場の長期サイクル、2. 内部秩序と内部混乱のサイクル、3. 外部秩序と外部混乱のサイクル。
そして、富と権力を決める8つの決定要因について、「 1)教育、2)競争力、3)イノベーションとテクノロジー、4)経済生産高、5)世界貿易におけるシェア、6)軍事力の強さ、7)金融センターとしての強さ、そして8)準備通貨の地位の8つである。」(p.49)を挙げている。これらの8つの要因は、「付記」 (p.556-)に掲載されている「各国の国力・スコアの主要決定要因」と題する表の、外部秩序の8項目と対応している。
さらに、「各国の国力・スコアの主要決定要因」では、冒頭に、経済/金融の状況として、債務負担、期待成長率、内部秩序として、富/機会/価値観の格差、内部対立のそれぞれ2項目が挙げられる。次に、上記の8要因を補完する、補完的決定要因として、地質、資源配分の効率性、社会インフラと投資、国民性/礼節/意志力、ガバナンス/法の支配、天災の6つを挙げている。以上で18項目となる。
ところで、「世界の主要決定要因」(p.536-)に掲載されている、「主要国の現状」と題する表は、同じ18項目ではあるが、項目はやや異なり、まず最初に、債務負担 (経済のビッグ・サイクル)、期待成長率(経済のビッグ・サイクル)、内部対立(内部秩序。数値が低いほど悪い)の3項目が挙げられ、その後は特に区分は無く15項目、合計18項目となっている。両表に項目の表現に違いはあるが、内容的には変わらない。
レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(1)
同書のPart Iでは、単純化した典型的な帝国の興亡を解説。Part IIでは、過去500年間に準備通貨国となったオランダ、イギリス、アメリカについて深く掘り下げ、さらに米中対立についても1章を割く。Part IIIでは、これらすべてが将来にどういう意味を持つかを論じている。
以上の検討を踏まえた、大帝国の相対的ポジションの図が以下の通りである。次のブログで詳しく紹介する18の要因から各国の地位が決められている。1600年以前の中国はともかく、その後のオランダ、イギリス、アメリカの地位については、特に新しい結論ではない。
注目すべきは、第1に、これらの結論を独自に集計した独自の数量的なモデルにもとづいて計算したことである。第2に、アメリカの地位に迫っている中国についての評価である。この点も次のブログで検討したい。