2013年10月17日木曜日

日本の工芸:七宝、並河靖之、Shippo, Yasuyuki Namikawa

スコット南極探検隊の映像記録を残し、世界を旅し日本をことのほか愛し、この世の楽園と讃えた、ハーバート・G・ポンティングの『英国人写真家の見た明治日本』 は次のように述べている。
七宝焼の技術は、歴史が新しいわけではないが、その技術をこの国でも他のどこの国でも達し得なかった最高の水準にまで高めたのは、京都で現在活躍している何人かの代表的工芸家の力である。」(講談社学術文庫, p.94) という言葉で、並河靖之氏などを紹介している。


その並河靖之の作品を紹介しているのが、七宝:色と細密の世界 (INAX BOOKLET)である。この書には、並河靖之の作品を始め、多数の七宝が、大きな写真で紹介され、そのすばらしさがよくわかる。
並河靖之は、1845年、武蔵国川越藩の家臣・高岡九郎左衛門の三男として京都柳馬場御池に生まれた。1875年、京都博覧会に初めて出品し有功銅賞を得たのを皮切りに、ほぼ毎年行われる内外の博覧会に旺盛に出品し、多くの賞を得てている。帝室技芸員となった1896年前後の最盛期には、40-50人の職人をかかえていたという。(上記書、畑智子、p.16)



いくつかの代表的な作品を紹介しておこう。右は、「蝶桜文平皿」(上記書、p.17)、並河靖之の作品としては珍しい大皿であるという。

中央で乱舞する色彩豊かな一群の蝶、大皿の周辺を取り巻く満開の花々、そして皿全体を彩る深い緑の背景、それらが一体となっている。上記書に掲載されている写真は、さらに鮮明で美しい。
また、清水三年坂美術館に所蔵されているので、ぜひ現物をご覧いただきたい。




そして、並河靖之の作品を最もよく特徴づける花瓶のひとつが左の「蝶文瓢形花瓶」(上記書、p.30)である。同形の花瓶が1893年のシカゴ万国博覧会に出品され、銅牌を受賞した。
これもまた、『七宝:色と細密の世界』を見ると、その黒の輝きが一段とよく理解できる。また、描かれている蝶の多彩な色使いも見事で、黒の背景とのコントラストがとてもすばらしい。

ところで、上記書の残念なところは、並河作品のひとつの到達点となる「四季花鳥図花瓶」の詳細な写真が無いことである。それは、1900年のパリ万国博覧会のために制作されたもので、やはり黒地に桜と青紅葉が咲き誇っている。

これが宮内庁三の丸尚蔵館に所蔵されているからだろうか。宮内庁は、やや大きな画像で、黒地四季花鳥図花瓶」として紹介している。Googleの画像検索でも、すばらしい画像を紹介しているサイトは少ない。ぜひ、多くの人々が見ることができる展覧会を開催してほしいと思う。

並河靖之をはじめとする工芸家によって制作された七宝は、近代日本の重要な輸出品であった。その技術の高さは、当時の日本のものづくりの水準の高さを余すところなく示している。工芸作品に表された日本の技術は、しだいにより幅広い製造業に拡がり生かされていくことになる。これらの作品は、実は日本の近代化を考える上でも重要な作品群だと思われる。





(11月5日追記)
本日の日本経済新聞夕刊によれば、11月9日から翌年1月13日まで、京都国立近代美術館で、「皇室の名品」と題された展覧会が開かれ、「黒地四季花鳥図花瓶」(「七宝四季花鳥図花瓶」)が見られることになったことがわかった。

右の画像は、上記ウェブサイトに掲載されたものである。やや不鮮明な箇所はあるが、すばらしさの一端は見ることができる。

(2014年6月5日の追記)
三井記念美術館「超絶技巧 明治工芸の粋」で並河靖之の作品が見られる。

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