2018年6月21日木曜日

木村光彦『日本統治下の朝鮮』を読む(1)

日本統治下朝鮮の経済についての画期的な著作が刊行された。木村光彦『日本統治下の朝鮮 統計と実証研究は何を語るか』、中公新書、2018年4月25日発行である。この著作の書評を、私のWebsiteにやや長文で掲載したが、以下はその要約である。
 掲載した書評の完全版は、ここをクリックしていただいても読めます。

木村氏の著作のねらいは、「まえがき」の次の一節に簡潔明瞭に要約されている。「本書ではそのような[共産主義思想](この[ ]は新保による補足を示す)イデオロギーを排し、実証主義に徹した朝鮮論を提示したい。論点は経済にしぼる。幸い、近年、この分野の研究は長足の進歩をとげ、かつての見解を一変させる議論も登場している。それは、統計データの整備・分析の進展によるところが大きい」(iv、数字はページ数、以下同じ)

目次は以下の通りである。
まえがき
序章 韓国併合時―一九一〇年代初期の状態とは
第1章 日本の統治政策―財政の視点から
第2章 近代産業の発展―非農業への急速な移行
第3章 「貧困化」説の検証
第4章 戦時経済の急展開―日中戦争から帝国崩壊まで
第5章 北朝鮮・韓国への継承―帝国の遺産
終章 朝鮮統治から日本は何を得たのか

野口遵(Wikipediaより)
以下では重要な章を、2回のブログに分けて詳しく紹介したい。
第2章は、「1 農業生産の増加―貨幣経済の進展」から始まり、最も重要な箇所のひとつである「2 鉱工業の高成長―未開発からの勃興」に進む。
この節で最も注目されるのは、近代産業発展の担い手となった、様々な分野の日本企業、なかでも野口遵と日本窒素の活動の紹介である。 それは内地にも見られなかった大規模な事業で、以下の節で詳説されているように、朝鮮半島の経済を一気に世界的なレベルに高めた。
日本窒素の子会社朝鮮窒素(Wikipediaより)

次節に以下の様な適切な記述がある。「比較経済史の観点からみると、工業化の進展は、欧米の植民地にはない特異なものであった。とくに、本国にも存在しない巨大水力発電所やそれに依拠する大規模工場群の建設は、日本の朝鮮統治と欧米の植民地統治の違いを際立たせる。」(85)「野口遵による大規模電源開発と化学工業」「世界的化学コンビナートの出現」「野口のさらなる事業展開」(73-78)、さらに第4章「電源開発―水豊ダム」(127-8)をぜひ参照していただきたい。

ところで私は、私の著作Japanese Companies in East Asia: History and Prospects: Expanded and Revised Second Editionで、日本窒素などの新興財閥の企業形態が、金融市場に基盤を置く市場中心型コーポレート・ガバナンスの企業であったこと、その特徴を持つ企業は、市場の幅広い株主から資金を調達し、利益の多くを株主に還元する企業だったことを明らかにした。この企業形態は、社会主義国では大部分を占め、発展途上国では支配的な企業形態である国有企業とは全く異なっていた。

第2章にはもうひとつ注目すべき節がある。「3 驚異的な発展と朝鮮人の参画」である。「ここでとりわけ強調すべきは、産業発展に被統治者の朝鮮人が広く関与したことである。・・・。驚異的な発展は、統治側・被統治側の双方の力が結合して起こったのである。」(85)
この点について詳しくはエッカートの『日本帝国の申し子』を参照していただき、さらに多数の朝鮮人企業について詳しくは私の著作を参照していただきたい。

すでにみたような急速な経済発展があれば、全体としてみれば、朝鮮人の賃金も上昇し、生活水準も改善すると予想される。木村氏は、第3章で、小作農の増加、食料消費量と身長の変化から、それを捉えようとした。

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