2018年9月20日木曜日

"Leonardo Da Vinci: The Complete Paintings and Drawings"を紹介します

『岩窟の聖母』ロンドン版、部分
Frank Zoellner and Johannes Nathan, Leonardo Da Vinci: The Complete Paintings and Drawings, Taschen, 2011を紹介します。
これは2巻から成り、箱に入っている。Volume I The Complete Paintings, p.252, Volume II The Graphic Work, p.699.

この膨大なページ数から成る、印刷のきわめて鮮明な本を、2011年8月に購入していたが、なんと当時は2208円、特別な安さだった。現在は5071円。どうしてこのような値段で制作できるのか、全世界で販売できるからだろうか。本当に不思議であり、喜びである。最近改訂版も出ているようである。

そして、この本のもうひとつの重要な特徴は、主要な作品が画像が大きく拡大されていることである。ここまで精細に紹介されると、絵から受ける印象が全く異なって見える。以下では、すべて部分図を掲載した。一部の画像は2ページにわたっているので、肝心の部分に筋が入ってしまっているのは残念である。
本ブログでは、Volume Iを、私の特に好きな絵を中心に紹介します。

『岩窟の聖母』ロンドン版、部分
『岩窟の聖母』第1作がルーブル美術館に(1483-86年制作)、第2作がロンドン・ナショナル・ギャラリー(1506年以前)にある。後者も最近ではレオナルド自身による作品とみなされるようになっている。

本ブログでは、聖母マリア(最上段左)と天使(右)の両方ともロンドン版を掲載した。ともにロンドン版の方が、光が強く当たり、表情が鮮明で美しい。ダ・ヴィンチを代表する女性像である。

この2つの作品の違いについて、裾分一弘氏は『もっと知りたいレオナルド・ダ・ヴィンチ』で4点を挙げている。そのうちのひとつが、「マリアの顔に当たっている光の具合が微妙に異なり、ロンドンの作品のほうが、陰影が濃くなっている。」である。(p.30)

『聖アンナと聖母子』ロンドン版、部分
『聖アンナと聖母子』、やはりルーブル美術館(1510年頃)とロンドン・ナショナル・ギャラリー(1498-99年頃)の両方にある。『聖アンナと聖母子』の場合は、ロンドン版がかなり早い段階のものだとされているし、絵からわかるようにかなり未完成である。

ルーブル美術館版は独特な構図で完成された作品である。ロンドン版の聖母マリアの表情が聖アンナに比較して微笑みがずっと優しく、ルーブル版は表情がとても抑制的に見える。

『聖アンナと聖母子』ルーブル版、部分
やはり裾分一弘氏は4点の違いを挙げている。「ルーヴルのアンナがあくまでも穏やかさをたたえているのに比ぺ、ロンドンの作品ではその目が印象的だ」「ロンドンの作品でかすか微笑みを浮かべているのに対して.ルーヴルの作品では憂いが強調されているようである」(p.70)

この2枚の代表作のそれぞれの2つの作品が、どうしてこれほどまでに違うのか、とても興味深いが、考え込んでしまう。

『洗礼者ヨハネ』、ダ・ヴィンチの遺作だと言われる。ダ・ヴィンチが、『モナ・リザ』と『聖アンナと聖母子』とともに最後まで持っていた作品である。

背景はこれまでしばしば登場した遠近法で描かれた自然ではなく黒一色で、洗礼者ヨハネのみが描かれている。その独特な微笑みとともに、人差し指が天に向けて指し示しているが、それが何を意味するかを私達に問いかけているようにみえる。
『洗礼者ヨハネ』、部分

いうまでもなくLeonardo Da Vinci: The Complete Paintings and Drawingsには、これ以外にも多数の作品が掲載されている。ぜひ実際に手にとってご覧いただきたいと思う。何度も読み返す内に、最新版の5071円でも、改めてその安さに驚くのではないだろうか。

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