まず、ウェデマイヤー(Albert C. Wedemeyer)将軍の略歴は、同書に依れば以下の通りである。
「1897年米国ネプラスカ州生まれ。1919年ウェスト・ポイント陸軍士官学校卒業。36年陸軍大学卒業。独陸大留学後参謀本部勤務、連合軍東南アジア副司令官、中国戦線米軍総司令官兼蒋介石付参謀長を歴任して51年退役。53年予備役名簿で陸軍大将に進級。89年12月没。」(奥付)
ウェデマイヤー将軍は、「第1章 第二次大戦前奏曲」でこのように述べている。「ルーズベルトは、ドイツに対米宣戦させようとした極端な挑発行動も失敗し、アメリカ国民の大多数の参戦反対の決意も固く、アメリカ議会で宣戦布告の同意が得られる見通しもなかったので、彼は目を太平洋に転じた。・・・。アメリカは、日本が面白をつぶさない限り現に保持している地点から撤退できない、という妥協の余地のまったくない提案を日本側におしつけた。」(上、p.40)これが第2次世界大戦の引き金になったという。すでに紹介したハミルトン・フィッシュと同じ見解であり、同じ事実認識であった。
この点については、第二十七章「第二次大戦に勝者なし(二)」で再び詳細に説明している。
そして、彼は日本の真珠湾攻撃を誘導したルーズベルト大統領に対して、次のように批判している。「最後に、連合国側の過失のうちの最大のものは、同盟国であるソ連の戦後に対する意図を正しく判断できなかったことである。ルーズベルト大統領は、一九四四年三月八日、こう述べている。「余としては、ソ連はまったく友好的であると考える。ソ連はヨーロッパの残りの地域を全部むさぼり取ろうとはしていない。ソ連は他国を支配するような考えは少しも持っていない。」」(下、p.372)戦後すぐのソ連、そして現在のロシアを見れば、ただちに明らかになるが、何という根拠の無い主張だろうか。そのように考えるようになったのは、「「ルーズベルトは、第四期の大統領任期なかばにもうろくする以前でさえも、陰謀家どもや共産主義に対しては腰ぬけのインテリたちにとりかこまれていた。」(下、p.273)からだと言う。
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「私は、マーシャル将軍が中国に対する彼の基本的な過失、つまり、国民政府と共産主義者は勢力争いする二つの党派にすぎないという考え方と、蒋介石に共産主義者との妥協を強要するため、一九四六年から四七年にかげて、中国に対する武器、弾薬の補給を全面的に禁止した過失、の二点を認めるならば、いまでも将軍をこの時代の偉大な人物のひとりとして尊敬する。しかし将軍は、国民政府に対し共産主義者への譲歩を強要するという、まちがった対中国政策を決して改めなかった。」(下、p.283)
ルーズベルトがソ連との同盟を最重要視したのと同様に、マーシャル将軍は中国国民党に共産党との妥協を強要し、結果として、共産主義の支配が中国から全アジアに拡大し、大規模な東西冷戦と朝鮮戦争のような本格的な戦争を生み出したのである。このように、ウェデマイヤー将軍の批判は、ルーズベルト体制全体に及んでいる。
一方で、彼は上記の通り、ドイツで学んだ時期があったが、ドイツに対しての批判は抑制的である。「ドイツがもっとも侵略的な国家で、たび重なる平和の破壊者であるという世間の想像は誤っている、ということを確かめるには、たいして歴史を研究する必要はない。地図を一見すれば、イギリスやフランスが平和愛好国であったかどうかはすぐわかることだ。もし英仏が平和的であったならば、どうして地球上のあんなに広大な地域を統治することができるようになったか、ひとつ彼らにたずねてみようではないか。」(上、p.48)
フィッシュは政治家として伝統的なアメリカの価値観から、ウェデマイヤー将軍は職業軍人としてルーズベルト体制を厳しく批判した。戦後70年経ち、フィッシュやウェデマイヤー将軍のような見解が、改めて広く紹介され、第二次世界大戦が何であったのかを詳しく検討し直す必要があるだろう。
なお、ウェデマイヤー将軍が、終戦時に、中国大陸にいた三百九十万の日本軍将兵と在留邦人の早期内地送還について、大いに尽力されたことについては付記しておく必要がある。
この著作には、研究文献としては必須の詳しい索引が付いている。できれば、高齢化社会に適応できるように、本のサイズを大きくすることや、電子版(原書にはKindle版がある)を出す等が今後試みられることを期待したい。
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