まず、書籍が簡潔にまとめたフィッシュの略歴である。
「1888-1991年。ニューヨークのオランダ系WASP(通称ニッカーボッカー)の名門に生まれる。祖父はグラント大統領政権で国務長官をつとめ、父は下院議員に選出された政治家一家。ハーバード大学卒業後、1914年、ニューヨーク州議会議員となる。第1次大戦では黒人部隊を指揮して戦う。帰還後の20年、下院議員に選出(~ 45年)。共和党の重鎮として、また伝統的な非干渉主義の立場から第2次大戦への参戦に反対するも、対日最後通牒(ハル・ノート)の存在を隠して対日参戦を訴えたルーズベルトに同調する議会演説を行なう。後にこれを深く後悔、戦後は一貫してルーズベルトの、ニューディール政策に代表される議会を軽視した国内政治手法とスターリンに宥和的な外交を批判し、大統領の開戦責任を追及した。」(表紙)
本書では、ルーズベルトによる経済への国家介入を拡大するニューディール政策が実際には効果が無かったことが示され、またその経済政策と一体である共産主義ソ連への宥和政策が厳しく批判され、これらの政策がアメリカの伝統である経済活動の自由を脅かし、外交での不干渉主義に反することが明解に主張される。彼の主張は、アメリカの伝統的な政策を最も明解に受け継いでいるだけでなく、現在改めて見直されている内容であることがわかる。
そして、日米間についての彼の主張は、第15章のタイトルにつきる。「アメリカ参戦までの道のり:隠された対日最後通牒、国民も議会も、日本に「最後通牒」(ハル・ノート)が発せられていることを知らなかった。」周知のように、ハル・ノートは日本にとって非常に過酷な条件でとうてい受け入れることはできなかった。
(一)日米英「ソ」蘭支泰国間ノ相互不可侵条約締結、(二)日米英蘭支泰国間ノ仏印不可侵並ニ仏印ニ於ケル経済上ノ均等待遇ニ対スル協定取極、(三)支那及全仏印ヨリノ日本軍ノ全面撤兵、(四)日米両国ニ於テ支那ニ於ケル蒋政権以外ノ政権ヲ支持セサル確約、(五)支那ニ於ケル治外法権及租界ノ撤廃、(六)最恵国待遇ヲ基礎トスル日米間互恵通商条約締結、(七)日米相互凍結令解除、(八)円「ドル」為替安定、(九)日米両国カ第三国トノ間ニ締結セル如何ナル協定モ本件協定及太平洋平和維持ノ目的ニ反スルモノト解セラレサルヘキコトヲ約ス(三国協定骨抜キ案)
なお、この文書の画像版の一部は右上参照(原文はdjvuファイル)
ところで、フィッシュの日本についての評価を見ておこう。
「日本はわが国との戦いを避けるためには、ほとんど何でもするというような外交姿勢をとっていた。・・・近衛(文麿)首相は和平を希求していた。ワシントンへでもホノルルへでも出かけて行ってFDRと直接交渉することを望んでいた。わが国の要求に妥協し、戦いを避けるための暫定協定を結びたいと考えていた。しかしルーズベルトは近衛との会見を拒否し続けた。日本に戦争を仕掛けさせたかったのである。そうすることで対独戦争を可能にしたかった。」(p.208)
「日本は小さな国である。人口は八千万ほどで、その国土はカリフォルニア州にも満たない大ききである。日本は天然資源が乏しく、その上、つねにソビエトの脅威に晒されていた。天皇は道義心にあふれていた(a man of honor)。そして平和を希求していた。」(p.209)
経済活動の自由を擁護し、反共産主義の立場に立つフィッシュは、アメリカと同様の共産主義の脅威に晒されていた日本の立場を良く理解していたのである。彼はソ連だけではなく、中国における共産党の脅威も的確に把握し、国共合作に対しても厳しく批判していた。
フィッシュの主張を補強するとして、フィッシュが紹介した重要な文献を挙げてみる。
「ロパート・A・セオボールド(Theobald, Robert A.)海軍准将(退役)はその著書『真珠湾最後の秘密(The final Secret of Pearl Harbor)』(日本語訳:真珠湾の審判)の中で真珠湾攻撃について詳述しているが、彼は戦争を始めたのはFDRであると明言している。真珠湾を無防備のままにしたこと。二人の真珠湾の司令官に解読された日本の暗号に基づいた真珠湾攻撃の可能性を知らせなかったこと。FDRは日本の暗号文書の中に真珠湾におけるアメリカ艦隊の配置情報があると知っていたこと。日本を挑発した最後通牒(ハル・ノート)に対する日本の回答内容を知っていたこと。そうしたことを総合的に判断すればFDRの責任は明白である。」(p.229)
我が国では、今なお第2次世界大戦の責任を我が国とその指導部にのみ求めようとする見解が根強い。戦後70年の今年は、そのような一面的な見解を見直す重要な契機になることを期待したい。そのために本書は欠かせない書籍である。
<関連する私のブログ>
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