また、これら著作は、実際の投資に役立つだけではなく、経済と市場の仕組み、現代の経済史などを理解するためにもとても役に立つ。ぜひお薦めしたい本である。
まず、バートン・マルキールの『ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第10版』(A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing)である。もうひとつはチャールズ・エリスの『敗者のゲーム 原著第6版』である。この2冊の著者は、経歴が違っているので、基本的な主張は共通しているが、取り上げている材料や叙述のスタイルが違う。その点の比較も興味深い。
マルキールは、1932年生まれ、現在はプリンストン大学教授、大統領経済諮問委員会委員、アメリカン証券取引所理事等を歴任、世界的な投信会社パンガード・グループなどの社外重役としても活躍している。一方、工リスは1937年生まれ、1972年グリニッジ・アソシエイツを設立。以後、30年にわたり代表パートナーとなり、2001年6月代表パートナーを退任。現在、ホワイトヘッド財団理事長である。
まず、マルキールは冒頭で、タイトルにあるランダム・ウォークとは、「「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。」(19)と説明する。
第1部「株式と価値」の第2章から第4章は、チューリップ・バブルから始まる歴史的な検討である。とても興味深い章で、『敗者のゲーム』には無い章である。是非とも読んでいただきたいが、このブログではスペースが限られているので、別の機会に取り上げたい。
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右の図は、表2 株式投信上位20ファンドのその後の成績と、表3 90年代の花型ファンドの凋落状況、(231-2)を結合したものである。どの場合も最初の10年は、上位20ファンド平均が上回るが、その後S&P500平均が上位20ファンドを上回る。投資信託の設定数は非常に多いので、多くのファンドがS&P500平均を下回っていることが推測される。
厳密にこの図を見れば、上位20ファンドは十分健闘していると言える。ただし、著者も言っているように、それを個人投資家が見つけ出すのは至難の業ではある。
第3部「新しい投資テクノロジー」では、現代のポートフォリオ理論が検討される。この部分も研究者マルキールらしい章である。「行動ファイナンス学派によれば、市場株価は実にあやふやなもので、株価が過剰反応することは例外的なことではなく、むしろいつもそうなのだ。その上、投資家は合理的に期待される行動から規則正しいパターンで逸脱し、非合理的な売買の聞には強い相関関係があると言うのだ。」このような主張に対して、著者は、「そういった非合理的な行動がもたらす株価形成上の歪みは、必ず合理的な投資家の裁定行為(アーピトラージ)によって矯正される」(293-4)と批判する.。
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表では、3つの時代で、普通株(S&P500)は、最もリターンが大きいが、2000年代の第Ⅳ期では、債券(高格付け,長期社債)を下回っている。また、第Ⅱ期では、普通株のリターンは物価上昇を下回っていることがわかる。(381)この事実から、著者は長期的な投資方針を立てることが必要だと主張している。
これらの検討を踏まえて、著者は本書を以下のような明解な結論で締めくくる。
「さて、ウォール街をどのように歩き出せばいいのか。それには、大別すると三通りの歩き方がある。私はそれを次のように呼ぶことにしたい。第一のアプローチは思考停止型の人の歩き方(No-Brainer Step)である。第二のアプローチは手作り型の人の歩き方(Do-It-Yourself Step)である。そして、最後のアプローチは専門家任せの歩き方(Substitute Player Step)である。
第一のアプローチをとる場合は、様々な資産クラスと同じ動きをするように設計された、いろいろなタイプのインデックス・ファンドを買うだけでいいのだ。」(432)
「どうしても自分で有望銘柄を探したいという人には(第2のアプローチの場合)、ポートフォリオの中心部分はインデックス・ファンドで運用し、残りを個別銘柄に賭けるという混合スタイルを強く勧めたい。」(454)
ところで、訳者の井手正介氏は、この本を推奨しつつ、日本の金融市場と企業の活動を踏まえて、「効率性の低い市場においても、インデックス・ファンドのメリットは大きいのだ。市場平均をそっくり持つ代わりに、パフェットにあやかってROEが高いのに低い評価しか得ていない「割安優良銘柄」、すなわち「バリュー株」を選んで、そのインデックス・ファンドを作ればいい。」(481)と提案されている。
日本の市場にあわせた非常に興味深い提案ではあるが、20%という比較的数が少ない株式が、高ROE、低PERと言う特徴に対して適切な評価を得ることができるかどうか、今後も検証していく必要があるだろう。このようなファンドが生まれ、市場での評価が高くなり、企業へのフィードバックが強くなり、企業活動の改善が図れればなお良いだろう。
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