2016年2月16日火曜日

投資の2つのバイブル(1): ウォール街のランダム・ウォーカー、A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing

立春のここ数日気温が乱高下するように、日本の株式市場が乱高下している。こうした時にこそ、改めて投資についての基本的な著作を読むのが良いように思われる。このブログでは、投資のバイブルとしての評価が高い2つの著書を、できるだけそれぞれに沿って紹介したい。ただし、両書とも、論点は多岐にわたり、取り上げている資料も豊富なので、ここでは最も核心的な部分のみが取り上げられていると理解していただきたい。
また、これら著作は、実際の投資に役立つだけではなく、経済と市場の仕組み、現代の経済史などを理解するためにもとても役に立つ。ぜひお薦めしたい本である。

まず、バートン・マルキールの『ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第10版』(A Random Walk Down Wall Street: The Time-Tested Strategy for Successful Investing)である。もうひとつはチャールズ・エリスの『敗者のゲーム 原著第6版』である。この2冊の著者は、経歴が違っているので、基本的な主張は共通しているが、取り上げている材料や叙述のスタイルが違う。その点の比較も興味深い。
マルキールは、1932年生まれ、現在はプリンストン大学教授、大統領経済諮問委員会委員、アメリカン証券取引所理事等を歴任、世界的な投信会社パンガード・グループなどの社外重役としても活躍している。一方、工リスは1937年生まれ、1972年グリニッジ・アソシエイツを設立。以後、30年にわたり代表パートナーとなり、2001年6月代表パートナーを退任。現在、ホワイトヘッド財団理事長である。

まず、マルキールは冒頭で、タイトルにあるランダム・ウォークとは、「「物事の過去の動きからは、将来の動きや方向性を予測することは不可能である」ということを意味する言葉である。」(19)と説明する。
第1部「株式と価値」の第2章から第4章は、チューリップ・バブルから始まる歴史的な検討である。とても興味深い章で、『敗者のゲーム』には無い章である。是非とも読んでいただきたいが、このブログではスペースが限られているので、別の機会に取り上げたい。

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第2部「プロの投資家の成績表」の最後の章で、投資信託の実績が歴史的に検証される。
右の図は、表2 株式投信上位20ファンドのその後の成績と、表3 90年代の花型ファンドの凋落状況、(231-2)を結合したものである。どの場合も最初の10年は、上位20ファンド平均が上回るが、その後S&P500平均が上位20ファンドを上回る。投資信託の設定数は非常に多いので、多くのファンドがS&P500平均を下回っていることが推測される。
厳密にこの図を見れば、上位20ファンドは十分健闘していると言える。ただし、著者も言っているように、それを個人投資家が見つけ出すのは至難の業ではある。

第3部「新しい投資テクノロジー」では、現代のポートフォリオ理論が検討される。この部分も研究者マルキールらしい章である。
「行動ファイナンス学派によれば、市場株価は実にあやふやなもので、株価が過剰反応することは例外的なことではなく、むしろいつもそうなのだ。その上、投資家は合理的に期待される行動から規則正しいパターンで逸脱し、非合理的な売買の聞には強い相関関係があると言うのだ。」このような主張に対して、著者は、「そういった非合理的な行動がもたらす株価形成上の歪みは、必ず合理的な投資家の裁定行為(アーピトラージ)によって矯正される」(293-4)と批判する.。

これらの批判を踏まえて著者は、市場の「効率性」を説明する。「それは何も「市場は常に正しい」ということではないのだ。私や他の効率市場論者の多くは、市場の効率性を論ずる時に主として次の二つの基準を重視している。第一は、市場が新しい投資情報をどの程度速やかに、かつ適切に織り込むかである。この点に関して市場は驚くほど迅速で、かつおおむね正しい。・・・第二の、より重要な基準は、金融市場全体について当てはまることだが、より大きなリスクをとらない限り、平均以上のリターンを得ることができない場合に、市場は効率的と言うのだ。」(333-4)

図はクリックすると拡大できます
第4部「ウォール街の歩き方」ではまず、4つの時代区分で見たアメリカの株と債券のリターンが比較される。この部分も第1部と同様の、詳細な歴史的な分析である。
表では、3つの時代で、普通株(S&P500)は、最もリターンが大きいが、2000年代の第Ⅳ期では、債券(高格付け,長期社債)を下回っている。また、第Ⅱ期では、普通株のリターンは物価上昇を下回っていることがわかる。(381)この事実から、著者は長期的な投資方針を立てることが必要だと主張している。

これらの検討を踏まえて、著者は本書を以下のような明解な結論で締めくくる。
「さて、ウォール街をどのように歩き出せばいいのか。それには、大別すると三通りの歩き方がある。私はそれを次のように呼ぶことにしたい。第一のアプローチは思考停止型の人の歩き方(No-Brainer Step)である。第二のアプローチは手作り型の人の歩き方(Do-It-Yourself Step)である。そして、最後のアプローチは専門家任せの歩き方(Substitute Player Step)である。
第一のアプローチをとる場合は、様々な資産クラスと同じ動きをするように設計された、いろいろなタイプのインデックス・ファンドを買うだけでいいのだ。」(432)
「どうしても自分で有望銘柄を探したいという人には(第2のアプローチの場合)、ポートフォリオの中心部分はインデックス・ファンドで運用し、残りを個別銘柄に賭けるという混合スタイルを強く勧めたい。」(454)

ところで、訳者の井手正介氏は、この本を推奨しつつ、日本の金融市場と企業の活動を踏まえて、「効率性の低い市場においても、インデックス・ファンドのメリットは大きいのだ。市場平均をそっくり持つ代わりに、パフェットにあやかってROEが高いのに低い評価しか得ていない「割安優良銘柄」、すなわち「バリュー株」を選んで、そのインデックス・ファンドを作ればいい。」(481)と提案されている。
日本の市場にあわせた非常に興味深い提案ではあるが、20%という比較的数が少ない株式が、高ROE、低PERと言う特徴に対して適切な評価を得ることができるかどうか、今後も検証していく必要があるだろう。このようなファンドが生まれ、市場での評価が高くなり、企業へのフィードバックが強くなり、企業活動の改善が図れればなお良いだろう。

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