目次は以下の通り。
第I部 企業の対外事業活動 対外直接投資の研究
第II部 多国籍企業の政治経済学
第I部と第II部には、ハイマーの見解に大きな変化があるが、ここでは直接投資の理論を確立したと言われる第I部のみを取り上げたい。
直接投資そのものとそれについての理解は、先のリーマーについてのブログで示した通り、戦間期から一般的であった。しかし、これを理論的に説明しようという試みは戦後になって活発になった。
直接投資と支配
ハイマーは、直接投資について以下のように説明する。一企業をして外国の企業の支配に至らしめる「二つの大きい理由は次の通りである。
一、企業聞の競争を排除するために一国内だけでなく、多数国における企業を支配することが有利な場合がある。
二、企業の中には、特定の企業活動に優位性を持つものがあり、それらの企業は、対外事業活動を行うことによって、これら優位性を有利に利用することができる。」(28、上記書のページ数)
対外事業活動の原因としての優位性の保持
ハイマーが直接投資タイプIIと呼ぶ対外事業活動(International Operations)の原因として個々の企業の優位性が挙げられるが、それについては以下のように説明している。
「企業の優位性というのは、企業が他の企業より低コストで生産要素を手に入れることができるか、または、より効率的な生産関数に関する知識ないし支配を保持しているか、あるいは、その企業が流通面の能力において優れているか、生産物差別を持っているかのいずれかのことである。」(35-7)
先進国相互投資
ハイマーが以上のような理解に至った重要な背景は、当時直接投資全体が増大しただけではなく、日欧の経済的な復活にともない先進国間の相互投資が急増したことが挙げられる。
「投資の相互交流の存在は、私にとって印象的であり、前章に述べた対外事業活動の理論と何ら矛盾しないように思われる。しかし個別利潤率、すなわち特定企業の収益性ではなくて、利子率や一般的利潤率に依存する証券投資の理論によってそれを証明することは困難であろう。」(94)
ハイマーの理論の登場とともに、さまざまな理論が注目され活発な議論が展開された。まず、ダニングの折衷理論である。ダニングは、ハーマーより幅広い視点から、3つの優位で直接投資が行われると考えた。
第1は、企業が,外国の企業がもっていないか、あるいは少なくとも有利な条件で入手できない資産や権利をもっているか入手できる程度。そのような資産(assets)は所有特殊的優位とよばれる。「投資の相互交流の存在は、私にとって印象的であり、前章に述べた対外事業活動の理論と何ら矛盾しないように思われる。しかし個別利潤率、すなわち特定企業の収益性ではなくて、利子率や一般的利潤率に依存する証券投資の理論によってそれを証明することは困難であろう。」(94)
ハイマーの理論の登場とともに、さまざまな理論が注目され活発な議論が展開された。まず、ダニングの折衷理論である。ダニングは、ハーマーより幅広い視点から、3つの優位で直接投資が行われると考えた。
第2は、所有特殊的優位としての資産をもっている企業が、それらを内部化することにもっとも関心があるか、他国にある企業にこの権利を売却するかどうかである。第3は、企業が生産設備のどの部分を外国に立地するのが有利かを見いだす程度である。
第2の要因における優位は内部化優位、第3の要因における優位は立地特殊的優位とよばれる。
続いて内部化理論である。ハイマーの理論をひとつの土台にしながら、直接投資と貿易の直接的な相互関係を解明しようとしたのが内部化理論である。
A.M.ラグマンなどによって展開された内部化理論は、市場の不完全性、とりわけ過去・現在のR&Dから醸成された、ストックとフローの両構成要素をもつ中間生産物としての情報の市場の不完全性に注目する。このような条件に対して、企業は内部市場を創出することによって対応しようとするから、企業のグローパル化がすすむにつれて、企業内貿易をはじめとするさまざまな企業内取引が拡大してくると考えた。
多国籍企業は海外に投資をすると共に、本社との間で活発な取引を行う。貿易はそのひとつの形態であるが、その結果多国籍企業の企業内貿易が各国間の貿易に重要な影響を与えるようになった。
ところで、直接投資には、戦後になって政治的な独立を達成した発展途上国から厳しい批判が向けられた。多国籍企業による富の搾取という理由からである。その急先鋒に立ったのがUNCTADであった。しかし、その後、積極的に直接投資を受け入れ輸出志向工業化を達成したアジアNIESの発展によって、そのような批判は後退した。現在では、発展途上国は競って直接投資を受け入れ、一部の発展途上国は対外直接投資を推進している。UNCTADも今では以前の方針を180度転換し、直接投資の動向を詳しく示す『世界投資報告』を毎年刊行するようになった。
現在、世界では経済成長の停滞とともに、比較的短期的な結果がわかりやすい金融緩和に過剰な期待がかかり、各国間の緩和競争が繰り広げられている。
わが国でも同様であるが、「金融緩和・通貨安競争」には加わらず、国内での技術革新と構造改革の推進、そして外国への直接投資とわが国への直接投資の積極的な拡大によって、経済の発展をめざすことがいちだんと重要になっていると思われる。
その直接投資の役割にもっと関心を深めるためにも、ハイマーやその後の理論の展開を改めて学ぶことが求められている。
(右の図は、「通商白書2016、第Ⅱ部 世界の新たなフロンティアに挑戦する際の我が国の課題」から)
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