2018年1月20日土曜日

入江泰吉『私の大和路』(1)秋冬紀行

入江泰吉氏には多くの写真集があるが、安くて写真と解説が満載の『私の大和路』秋冬紀行と春夏紀行(小学館文庫)を、秋冬紀行から紹介したい。文庫本で出版年次も古いが、旅行に持ち運べるので、大きなサイズの写真集に劣らず楽しめる。もちろん、写真が小さく、ページをわたる場合があるのはやむを得ない。

目次は、秋色大和、回想の大和路、仏像礼賛、あいまいさの美学(重森弘滝)、大和路冬景、撮影前の長い助走(入江泰吉のノートより)である。

まず、現在の季節=冬にあわせて、『秋冬紀行』からふさわしい作品を紹介しよう。

室生寺である。森の中に溶け込むように、屋外に立つ五重塔としては我が国で最も小さい。奈良時代後期に建てられた、法隆寺五重塔に次ぐ古い塔である。

雪が降り積もる時期だけではなく、しゃくなげが咲き誇る室生寺も美しい。
冬の写真をもうひとつ。「若草山の山焼きがいつのころからはじまったのか定かではない。しかし、江戸の中期には、すでに奈良の年中行事として定着していたものらしい」(152)

今年(2018)年は、1月27日の予定である。若草山はふだんはとてもおとなしく目立たないが、この日は全山がまっ赤に燃えさかり、壮観である。
今年も雨や雪が降らないことを祈りたい。
秋冬紀行』には、特に季節とは結びつかない、「仏像礼賛」という章がある。左は東大寺法華堂月光菩薩像である。
法華堂は「東大寺建築のなかで最も古く、寺伝では東大寺創建以前にあった金鍾寺(きんしょうじ)の遺構とされる。」 日光・月光菩薩像は、現在東大寺ミュージアムに移されている。

東大寺法華堂には、次に紹介する『春夏紀行』に掲載されている四天王像が取り巻いている中央に、日光・月光菩薩像が本尊の両隣に置かれていたと推測されている。

じっと目を閉じて静かに祈りを捧げる日光・月光菩薩像を見ると、心が自然と落ち着く。私には、日光・月光菩薩像は奈良の仏像の中で特別の存在である。
『秋冬紀行』の秋を代表する作品のひとつが、右の「長谷寺錦繍」である。

入江氏はこう書いている。「秋たけなわの長谷寺の舞台に立っていると、谷をへだてたふところの塔のあたりに靄がたちこめてきて、三層の塔影がくっきりと描きだされた。」(42)
本堂から、紅葉している境内全体と戦後に建てられた五重の塔を見ているのだろう。
最後にもうひとつ、秋の春日大社である。年が明ける時期には、春日大社は多くの参拝客と店舗が建ち並び、歩くのも大変である。
写真の様な秋の一日に、奈良の中心部から少し離れた春日大社のやや長い参道を、鹿を見ながらゆっくりと歩くと秋を満喫できる。

奈良中心部だけではなく、薬師寺や室生寺・長谷寺まで足を伸ばせば、様々な仏像に出会える。また、どの季節もそれぞれ美しい。最近ではおしゃれな店もたくさんできた。

入江泰吉氏の『私の大和路』は、大和路の寺社と街の長い歴史と自然の様々な表情を多彩に伝えてくれる、おすすめのガイドブックである。

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