2021年10月20日水曜日

李大根著『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』が刊行

 李大根著、金光英実訳、黒田勝弘監訳『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』(文藝春秋、2021年)が刊行された。日本語版でも本文が485ページに及ぶ大著である。本書は、帰属財産についての本格的な研究を通して、具体的で歴史的な事実に基づく 、韓国・朝鮮近代史の包括的な研究となっている。

李大根氏については、奥付に紹介がある。「1939年、韓国・慶尚南道陜川生まれ.1964年、ソウル大学商学部卒業、1980年、成均館大学経済学部教授。落星台経済研究所創立に参加。」

目次は以下の通りである。

李大根氏(文春オンライン)
李大根氏(文春オンライン)
監訳者によるまえがき、序文、第一章 なぜ帰属財産なのか、第二章 日本資金の流入過程、第三章 帰属財産の形成過程 (I): SOC建設、第四章 帰属財産の形成過程 (II): 産業施設、第五章 帰属財産の管理 (I): 米軍政時代、第六章 帰属財産の管理 (II): 韓国政府時代、第七章 解放後の韓国経済の展開と帰属財産、参考文献

李大根氏によれば、「帰属財産とは何か。一九四五年八月の解放当時、韓国で暮らしていた日本人が帰国の際に残していった財産について、新たに登場した米軍政がその財産権を米軍政に「帰属される」(vested)という意味で付けられた名称である。よって「帰属財産」(vested property)という名称は、米軍政による新造語といえる。その本質はあくまでも解放当時まで韓国にいた日本(人)の財産である。驚くべきことに、この帰属財産の資産価値は、当時の朝鮮の国富の八○〜八五%にも及んだ。」(30、本書ページ数、以下同じ)

帰属財産を、以上のように定義し、各章はその内容を詳しく明らかにしている。第三章 帰属財産の形成過程 (I): SOC建設は、鉄道、道路、港湾、山林緑化事業を取り上げるが、特に鉄道では、営業線路6,362km、従業員数10万人を超える鉄道が敷設されたことが明らかにされている。

第四章 帰属財産の形成過程 (II): 産業施設は、電気業、鉱業、製造業を詳細に検討している。電気業では、アメリカのTVAのフーバーダムに匹敵する水豊発電所(左の写真:Wikipedia)が建設された。また、全期間を通して、主要産業で最も設立会社数が多かったのは工業であり、そのうちの多くが第四期(一九三七〜四五年)に集中していた。第四期は「本格的な重化学工業化」の時期であった。

第七章 解放後の韓国経済の展開と帰属財産では、本書の重要な問題提起が整理されている。ウォーラーステインの世界システム論は、多くの植民地でモノカルチャー経済を発展させたことを明らかにしたが、これと対比しつつ、李大根氏は朝鮮が、「植民地経済の均衡的発展のために鉱工業を中心とした産業構造の高度化を行った点で、どの国の植民地支配とも完全に区別される特殊な工業化を経たのである。」(449-50)との結論を導き出している。

本書は大著ではあるが、わかりやすく書かれているので、多くの方々にぜひとも読んでいただきたい韓国・朝鮮近代史の貴重な研究である。

なお、私のさらに詳しい書評は以下に掲載しています。書評 李大根『帰属財産研究 韓国に埋もれた「日本資産」の真実』」2021年の論文

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