2022年8月24日水曜日

『北斎クローズアップ』全4冊、「II 生きるものへのまなざし」

YouTubeチャンネルを開設しました。新保博彦のチャンネルです。以下の内容を含む「北斎の須佐之男命厄神退治之図と晩年の大作群」を作成しました。(2023.5.22)

前回に引き続き、『北斎クローズアップ』全4冊、「II 生きるものへのまなざし」を紹介したい。IIは、魚介、禽鳥、昆虫、動物、草花、などあらゆる生き物を描き尽くしたいという北斎の強い意志と多彩な技術が詰まった作品群である。このブログでは4つの作品に注目した。

最初の作品は、「蟹尽くし図」(絹本一面、フリーア美術館)。

「百匹以上もの大小さまざまな蟹が、水草の上を蟹(かい)行している。」(11、本書でのページ数、以下同じ)これだけの蟹が描き分けられているのに驚くが、砂浜、水中などの背景はほとんど描かれていない。

この図を見ると、伊藤若冲の貝甲図を思い出すが、北斎の図の方が背景がさらに抽象的である。

次に、「鯉亀図」(紙本一幅、一八一三年、埼玉県立歴史と民俗の博物館)右上が全図、その他は部分図。
「ゆったりと泳ぐ二尾の鯉の脇には、やはり二匹の亀が愛嬌たっぷりに描かれている。」(16)
こちらをじっと見つめる鯉の目、北斎の作品にはよく出てくる眼差しである。
やはりここで注目したいのは、水。水草の描き方は「蟹尽くし図」とよく似ているが、水の流れは全く非現実的で、鯉や亀の動きとも対応していない。

流水に鴨図」(絹本一幅、一八四七年、大英博物館)
「縦長の画面全体を流水とし、番(つがい)の鴨を描いている。」雌はうっすらと描かれているだけだが、「雄は、西洋画にも通じる濃彩で、群青を用いるなどして羽毛の微妙な光沢を表わし」(31)ている。部分図でその緻密な描き方がよくわかる。
そして、やはり注目は水の流れ、鴨が実際に泳いでいる場所とは異なって急である。北斎は水の流れを自在に操っている。

最後に「桜に鷲図」(絹本一幅、一八四三年、氏家浮世絵コレクション)「流水に鴨図」と同様、北斎晩年の肉筆画。
「湧き水の落ちる岩場に、凜々しい鷲が羽を休め、その背後には山桜が咲き誇っている。」 先の鯉同様に眼光鋭い鷲と、上に伸びた枝に沿って微妙な濃淡を付けて咲く山桜が、対照的に描かれている。
ところで、同じ年に描かれている「雪中鷲図」(紙本彩色、摘水軒記念文化振興財団、本書には無い)は、描かれている季節は異なるが、鷲と全体の構図は、とてもよく似ている。連作になっているのだろうか。

本書には、以上の4つを含め79の作品が掲載されている。その他に、[特別付録]『肉筆画帖』、[特別付録解説]『肉筆画帖』制作事情と作品解説、[総論]北斎の閲歴と芸術[弐]が納められている。
『北斎クローズアップ』全4冊、「I 伝説と古典を描く」とともに、ぜひご参照ください。


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