2022年8月5日金曜日

『北斎クローズアップ』全4冊、「I 伝説と古典を描く」

YouTubeチャンネルを開設しました。新保博彦のチャンネルです。以下の内容を含む「北斎の須佐之男命厄神退治之図と晩年の大作群」を作成しました。(2023.5.22)

東京美術から永田生慈監修・著北斎クローズアップ」全4冊が刊行されている。北斎の重要な作品群をテーマごとに、鮮明な画像で大きなサイズ(A4)の版で印刷されている貴重な画集である。全4冊を順に紹介したい。まずは「伝説と古典を描く」と題する第1巻である。第1巻には、晩年の貴重な、疫病と闘うというこれまでに無い意図を持った作品が、多数収録されていて興味深い。本ブログでは、私が特に注目した4つの作品を5つの画像で紹介したい。

一つ目は、「朱鍾馗(しゅしょうき)図」、絹本一幅、一八四六年、メトロポリタン美術館。(左は部分図)。
北斎八十七歳の制作である。鍾馗は中国で広く信仰された厄除けの神。鍾馗を朱描きにしているのは、「男児の疱瘡除けに効果のある色とされた」(本書p.8)からだという。同書p.6-7には、34-5歳頃の鍾馗図も掲載されている。
鍾馗の表情は、その朱色とともに、見るものに強烈に迫ってくる。


二つ目と三つ目の図は、「須佐之男命厄神退治図」、板額一面、一八四五年、牛島神社旧蔵(焼失)、(注意:この図は左図、次が右図)
この図は、「須佐之男命が厄神たちに、病や凶事を起こさぬよう誓約書をとっている図である。」(26)
この図は、私のブログの「北斎晩年最大の傑作、須佐之男命厄神退治之図 No.1」でも紹介したように、関東大震災で焼失したが、凸版印刷が墨田区の復元プロジェクトに参加し、当時の彩色された絵馬を原寸大で推定復元した。上記ブログの復元版(カラー画像)と比較参照していただきたい。
本書ほど拡大してみると、中央やや右上の白い装束を着た「須佐之男命」が、朱色と思われる服をまとい、腕には疱瘡の痕が見える疱瘡神、紫と思われる衣をまとった梅毒の厄神、風邪をはやらせる疫病神の風邪の神などと闘おうとしているのがわかる。
この時代に流行した病と闘いは、一つ目の作品と同様だが、北斎晩年の重要なテーマとなっている。

参考のため、3つの神の部分を切り取った、カラーの図を順に示してみた。白黒の図ではどれになるかおわかりいただけるでしょうか。


四つ目の作品は、「龍図」と「虎図」である。この二つの作品は、ともに紙本一幅で、一八四九年に制作され、龍図はフランスのギメ東洋美術館に、虎図は太田記念美術館が所蔵していたが、二〇〇六年に対幅であることが判明した。
龍と虎の視線が見事に相対しているので、対幅であることがよくわかる。龍と虎は並び立つ二大強者。天上から姿を現した龍は墨一色で描かれ、対照的に雨中の虎は色彩豊かに描かれている。


以上は第1部「信仰と伝説」での作品、最後に紹介するのは、第2部「孤児・物語」の作品、「雪中張飛図」(絹本一幅、一八四三年)である。
北斎最晩年の武人図。雪中とされているように、一面に粉雪が降っている中で、槍を抜いた武将が天空を見つめている。
ここまで紹介した作品の中でも、最も色彩が豊かで、緻密に描かれている作品のひとつのように思われる。左が詳細図であるが、傘の内部をはじめ、各部分が丁寧に描かれているのがわかる。

本書には、合計75作品とともに、特別付録:読本挿絵の世界、特別付録解説:北斎の読本挿絵と掲載作品の書誌、総論:北斎の閲歴と芸術[壱]も掲載されている。
なお、私のブログで関連する内容は、「疫病と闘い続ける北斎」にもある。あわせてご参照ください。


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