9月中旬から中国株の暴騰と急落が起こっている。上記6件の東証上場中国関連ETF(以下、中国関連ETFと呼ぶ)のデータを見てみよう。なお、注意しておきたいのは、上位4つは、NISA成長投資枠のETFである。表からわかるように、9月中・下旬に年初来最安値を付けた中国関連ETFは、10月上旬に最高値を付けた。「One ETF 南方 中国A株 CSI500」は、この短期間の内になんと最安値に対して57.7倍にも上昇した。中国を代表する企業を含む「(NEXT FUNDS) ChinaAMC・中国株式・上証50」ですら2.2倍である。
暴騰のきっかけは、「情報化が進展し市場環境が整備された現代で、中国株ETFの「狂乱相場」が起きたのはなぜか。中国当局が9月24日に発表した追加の景気刺激策を株式市場が好感したことは、ほんの小さなきっかけにすぎなかった。」(日経新聞、「まるでチューリップバブル 中国株ETF「狂乱相場」の真相、マーケットα、2024年10月13日 5:00」)
しかし、その後中国当局から追加の景気刺激策の具体的な内容は明らかにされず、10月18日(金)現在で、株式市場が急落しても、発表は無く、下落は続いている。
この暴騰と急落は、かなりの中国の人々の投資を一気に呼び起こし、そして結果として多くの資産を失わせたと推測される。インターネット上では、投資の失敗と生活の破綻を訴える人々の投稿が溢れている。
こうした事態に、世界でも中国投資に熱心なヘッジファンドである、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏は、以前ほど大胆ではないが、やはり中国投資に期待を寄せている。「中国政府の政策担当者が確約したものより「はるかに多くの」刺激策を実施すれば、このような市場刺激策の大波は世界第2位の経済大国にとって歴史的な転換点になると述べた。」(ブルームバーグ「中国は「必要なら何でもする」局面、2012年のECBに類似-ダリオ氏、Ye Xie」、2024年10月2日 11:05 JST)
私は、このブログで、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』などの主要な著作を取り上げて、彼の中国と対中国投資への傾倒を批判してきた。(そのひとつは、「レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(1)」)レイ・ダリオ氏には、残念ながら、今年度のノーベル経済学賞を受賞した、ダロン・アセモグル, ジェイムズ・A・ロビンソン両氏による、政治と経済の「収奪的制度」(extractive institutions)と「包括的制度」(inclusive institutions)などの概念による、中国政治・経済の基本的な特徴:中国共産党による政治と経済への権威主義的(独裁的)支配への批判が欠けている。
現在の市場の混乱を収めるためには、まずは中国政府・共産党が、当面緊急の経済対策の具体案を提示することが求められるだろう。これが無ければ、政府への信頼と市場への期待は急速に失われるだろう。さらには、改めて詳しく検討しなければならない課題であるが、「エリートだけでなく社会の幅広い階層の人々に、安全な財産権とビジネス・チャンスが与えられている」「包括的経済制度」(アセモグル・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)、p.133、早川書房、Kindle 版)に向けて、一歩を踏み出さなければならないと思われる。