2025年4月29日火曜日

書評『決定版 日中戦争』 を掲載しました

 書評『決定版 日中戦争』 を掲載しました。(2025.4.29)

書評(pdfファイルです。クリックしてご参照ください)

書評の「目次」

はじめに、1 第一章 日中戦争への道程:戸部良一、2 第二章 日中戦争の発端:戸部良一、3 第三章 上海戦と南京事件:庄司潤一郎、4 第六章 「傀儡」政権とは何か―汪精衛政権を中心に:川島真、5 第八章 日中戦争と日米交渉―事変の「解決」とは?:波多野澄雄(第七章も一部含む)、まとめ:本書の貢献と課題について

書評の「はじめに」

 2006年から始まった日中歴史共同研究は、2010年に報告書が発表され、その役割を終えた。8年後の2018年に、共同研究の委員として参加していた、波多野澄雄、庄司潤一郎両氏らを中心に執筆されたのが、波多野澄雄、戸部良一、松元崇、庄司潤一郎、川島真共著『決定版 日中戦争』(新潮新書、2018/11/20)である。

 本書は決定版と名付けられているとおり、日中戦争に関する様々な基本的な問題を整理し、執筆者を中心とする研究者の基本的な見解がわかりやすく整理され、多くの人々が『決定版 日中戦争』を通して、日中戦争を学ぶことができるようになっている。

 私は、戦間期国際経済史、企業発展史を研究してきた立場から、この著作の意義と、あわせて検討を期待した課題を提起しながら、書評を試みたい。なお、この著作は新書ながら歴史的な事件の記述と評価が詳しく記述されおり、この書評はかなり本文を引用したため長くなっていることをご了解いただきたい。


2025年4月14日月曜日

「書評 レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』」を掲載しました

 「書評 レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』」を掲載しました。(2025.4.14)

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書評の目次:はじめに、1. キーワードあるいは様々な決定要因、2. 18の決定要因の説明、3. 戦後中国の歴史と現在:第12章 中国と人民元のビッグ・サイクル、4. 米中日の比較について、5. 「国力スコアの主要決定要因」に欠けているいくつかの要因

上記書評の冒頭:

世界の代表的なヘッジ・ファンドの創業者であるレイ・ダリオ が、『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』(斎藤 聖美訳、日本経済新聞出版)という壮大な歴史的著作を公刊した。原著は、“Principles for Dealing with The Changing World Order Why Nations Succeed and Fail”, Avid Reader Press/ Simon & Schuster, 2021/11/30である。

 この著作については、私のブログ(https://hshimpo.blogspot.com/)ですでに書評を掲載したが、内容が短すぎてわかりにくいので、改めてより詳しい内容に書き直して、websiteとblogに掲載する。同書は、日本語版の総ページ数は556ページと長大なので、本書評は、最も核心的な主張と、特に中国に関する記述について検討したい。

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2025年3月30日日曜日

「書評 『ドイツ=ロシアの世紀 1900-2022』」を掲載しました

「書評 『ドイツ=ロシアの世紀 1900-2022』」を掲載しました。

書評(pdfファイルです。クリックしてご参照ください)

書評の目次:はじめに、最も重要な基本的な評価、書籍の構成、目次について、1 戦間期:1918-45年 (28年間):最終的には独ソ戦争で終わる期間、この時期を主導するヒトラーとスターリン、2 戦後東西ドイツの分断:1949-89年 (41年間)、3 その後1990-2025年 (36年間)、ドイツの再統一、独ロ間の接近、そしてロシアのウクライナ侵攻、おわりに 

上記の「最も重要な基本的な評価」は以下の通りです。

 第1に、20世紀はパックス・アメリカーナの時代という一般的に受け入れられている評価に対して、全く新しい視点である、ドイツとロシアの世紀という視点は、現代を理解する上できわめて重要である。ドイツとロシアは、20世紀の間、対立と協調を繰り返し、それが世界とヨーロッパに与えた影響は計り知れない。特にロシアのウクライナ侵略が続いている現在、その特徴を強調する意義はとても大きい。

 第2に、著者の視点が極めて明解で適切である。以下で示すように、ロシアのウクライナ侵攻に対する厳しい批判、ウクライナへのドイツの支援についての必要性については曖昧さがなく一貫している。いくつかの記述を示しておこう。

「遅くとも二〇二二年二月二四日以降、一九九〇~九一年の転換とそれに託された和解と平和的な二国間・多国間協力への期待は過去の遺物となった。」(下、295)

「必要なのは美辞麗句ではなく、むしろ必要なあらゆる戦争物資をふくめた喫緊の行動を伴う支援であり、それは理想的にはプーチンを軍事的に敗北させるか、少なくとも、最終的にはロシアと対等な立場で受け入れ可能な和平条件を交渉できる立場にウクライナを置くための戦場における支援である。」(下、297)

「この限りにおいて、現在、ドイツ=ロシアの世紀が終わりを迎えていることを示唆するものは多い」(下、302)。ただ、ここで厳密には、「ドイツ=ロシアの協調の歴史が」と言い換えたほうが適切なのではないだろうか。

ところで、ドイツ・ロシアの関係の諸問題は、アジアにおける日本とロシア、中国との関係を考える上でとても参考になる。その意味でも本書を多くの日本人の関心ある人々に薦めたいと思う。

「書評 唐鎌大輔『アフター・メルケル』」を掲載しました。

 「書評 唐鎌大輔『アフター・メルケル』」を掲載しました。

書評(pdfファイルです。クリックしてご参照ください)

書評の目次:はじめに、1 『アフター・メルケル』の概要、2 第1章 メルケル時代の総括―4つの次元における整理、3 第2章 現在 ドイツ一強がもたらす「歪」、4 第3章 過去 「病人」は如何にして復活したか、5 第5章 補論 日本はドイツから何を学ぶべきなのか、おわりに

はじめに」は以下の通りです。

 今、ドイツを中心とするヨーロッパ諸国は、第2次世界大戦後の最大の変化のひとつを経験しつつある。2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵略は、ドイツを中心とするヨーロッパ諸国に劇的な政策転換を求めている。その動きは、ロシアとの関係を重視する、アメリカのトランプ政権の登場によって、さらに加速した。

 2025年3月18日に、ドイツ連邦議会(下院)は、巨額の財政出動に必要な基本法(憲法)の改正案を採決し、賛成多数で可決した。厳格な債務抑制から方針転換し、長期の国防費増強に道を開いた。 

 2025年2月23日にはドイツの総選挙が行われ、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が中心となる新たな政権が誕生する予定だが、そこで大きな争点となった移民問題についても大きな変化があった。ドイツ連邦議会(下院)は、選挙直前の1月29日、連邦政府に移民対策の厳格化を要求する決議案を賛成多数で可決した。最大野党であるキリスト教民主・社会同盟が提出し、「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持し、僅差で賛成多数となった。 

 このようにして、今世界がドイツに注目しているが、ドイツの最近の動向を包括的に検討し、注目されている唐鎌大輔『アフター・メルケル』(日本経済新聞出版)を改めて読み直してみたい。この著作は2021年12月刊行なので、今現実に起こっている変化を検討しているわけではないが、その萌芽をどのように捉えているかを中心に読んでみたい。

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2025年2月27日木曜日

私の研究チャンネルに、3つめの動画「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス」を作成・掲載しました。

私の研究チャンネルに、3つめの動画「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス、Corporate Governance in Japan and the United States in the Interwar Period」を作成・掲載しました。


その動画の説明欄に記載した内容は以下の通りです。
「 「戦間期日米のコーポレート・ガバナンス」は、4つの章からなっています。
 1 戦間期アメリカのコーポレート・ガバナンス、2 戦間期日本のコーポレート・ガバナンス、3 戦間期日本の金融証券市場、4 まとめ
 なお、戦間期は、第1次世界大戦と第2次世界大戦の間の時期を指します。
 1が明らかにしたように、戦間期アメリカでは、株式が広範囲に分散して所有され、株式の所有と経営が分離し、経営者が経営の実質的な支配権を獲得しているコーポレート・ガバナンスのあり方である経営者支配が、広く受け入れられ、アメリカ企業の発展に貢献しました。
 2においては、戦間期日本では、戦後に発展したメインバンク・システムとは異なって、企業においても銀行においても、市場中心型コーポレート・ガバナンスが支配的だったことを明らかにしました。特に後発の新興財閥をはじめとする有力企業では、その特徴が顕著でした。
 以上の意味で、戦間期日本とアメリカのコーポレート・ガバナンスは、基本的に共通の特徴を持っていました。
 戦後の日本では、第2次世界大戦の敗北による、金融・証券市場の解体という特殊な条件の下で、融資や株式の相互持ち合い、さらには役員の派遣などを通じて発展した、銀行を中核とした企業間の相互関係である、メインバンク・システムが支配的になりました。
 しかし、メインバンク・システムは、1980年代後半から90年代初頭におけるバブルの形成と崩壊をもたらして衰退し、その後、戦間期に発展した市場中心型コーポレート・ガバナンスが、再び幅広く受け入れられつつあります。」

2025年1月23日木曜日

「『日本経営史 第三版』を読む:コーポレート・ガバナンスと直接投資の発展史の視点から」を掲載しました。

 「『日本経営史 第三版』を読む:コーポレート・ガバナンスと直接投資の発展史の視点から」を、私のwebsiteに掲載しました。(2025.1.22)

書評(ここをクリックしてもご参照いただけます)

書評でのキーワード:市場経済、財閥、新興財閥、高度成長、バブル、失われた10年、コーポレート・ガバナンス(企業統治)、日本的経営、メインバンク・システム、「新型の日本的経営」、直接投資

書評の目次はじめに、第1章 「第1章 日本型企業経営の起源」を中心に、第2章 明治維新から第二次世界大戦終了まで、第3章 高度成長期から現在まで

以下は書評の冒頭の一部です

「2023年5月に、『日本経営史〔第3版〕-江戸から令和へ・伝統と革新の系譜』が刊行された。『日本経営史』は、初版が1995年3月、新版が2007年10月に刊行され、今回が第3版になる。3つの版の著者が同じで、約30年間にわたって改訂が続けられた画期的な著作である。著者はいずれも各分野で優れた業績を挙げられた方々で、同書は日本の経営史研究の現在を示す重要な著作となっている。

私は、これまで、日本企業の企業統治(コーポレート・ガバナンス)と直接投資に焦点を合わせつつ、戦間期から現在にいたる、経済と企業の発展の歴史と課題について様々な研究を発表してきたが、この書評では、『日本経営史』の主な論点の成果と課題について、私のこれまでの研究を基礎にして検討したい。」

※なお、本書評には私の著書、研究論文なども掲載していますが、新保博彦の(YouTube)研究チャンネルでは、以下の「戦間期の日本経済:市場経済の発展と積極的な対外直接投資、The Japanese Economy in the Interwar Period」というYouTube動画も作成しています。


2月27日に、新たな動画戦間期日米のコーポレート・ガバナンス、Corporate Governance in Japan and the United States in the Interwar Period」を掲載しました。



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2024年10月18日金曜日

中国株の暴騰と急落、2024年9-10月










9月中旬から中国株の暴騰と急落が起こっている。上記6件の東証上場中国関連ETF(以下、中国関連ETFと呼ぶ)のデータを見てみよう。なお、注意しておきたいのは、上位4つは、NISA成長投資枠のETFである。表からわかるように、9月中・下旬に年初来最安値を付けた中国関連ETFは、10月上旬に最高値を付けた。「One ETF 南方 中国A株 CSI500」は、この短期間の内になんと最安値に対して57.7倍にも上昇した。中国を代表する企業を含む「(NEXT FUNDS) ChinaAMC・中国株式・上証50」ですら2.2倍である。

暴騰のきっかけは、「情報化が進展し市場環境が整備された現代で、中国株ETFの「狂乱相場」が起きたのはなぜか。中国当局が9月24日に発表した追加の景気刺激策を株式市場が好感したことは、ほんの小さなきっかけにすぎなかった。」(日経新聞、「まるでチューリップバブル 中国株ETF「狂乱相場」の真相、マーケットα、2024年10月13日 5:00」)
しかし、その後中国当局から追加の景気刺激策の具体的な内容は明らかにされず、10月18日(金)現在で、株式市場が急落しても、発表は無く、下落は続いている。
この暴騰と急落は、かなりの中国の人々の投資を一気に呼び起こし、そして結果として多くの資産を失わせたと推測される。インターネット上では、投資の失敗と生活の破綻を訴える人々の投稿が溢れている。

こうした事態に、世界でも中国投資に熱心なヘッジファンドである、ブリッジウォーター・アソシエーツの創業者レイ・ダリオ氏は、以前ほど大胆ではないが、やはり中国投資に期待を寄せている。「中国政府の政策担当者が確約したものより「はるかに多くの」刺激策を実施すれば、このような市場刺激策の大波は世界第2位の経済大国にとって歴史的な転換点になると述べた。」(ブルームバーグ「中国は「必要なら何でもする」局面、2012年のECBに類似-ダリオ氏、Ye Xie」、2024年10月2日 11:05 JST)

私は、このブログで、レイ・ダリオ氏の『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』などの主要な著作を取り上げて、彼の中国と対中国投資への傾倒を批判してきた。(そのひとつは、「レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則』:壮大な試み、危うい結論(1)」)レイ・ダリオ氏には、残念ながら、今年度のノーベル経済学賞を受賞した、ダロン・アセモグル, ジェイムズ・A・ロビンソン両氏による、政治と経済の「収奪的制度」(extractive institutions)「包括的制度」(inclusive institutions)などの概念による、中国政治・経済の基本的な特徴:中国共産党による政治と経済への権威主義的(独裁的)支配への批判が欠けている。

現在の市場の混乱を収めるためには、まずは中国政府・共産党が、当面緊急の経済対策の具体案を提示することが求められるだろう。これが無ければ、政府への信頼と市場への期待は急速に失われるだろう。さらには、改めて詳しく検討しなければならない課題であるが、「エリートだけでなく社会の幅広い階層の人々に、安全な財産権とビジネス・チャンスが与えられている」「包括的経済制度」(アセモグル・ロビンソン『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源(上)、p.133、早川書房、Kindle 版)に向けて、一歩を踏み出さなければならないと思われる。