2016年7月21日木曜日

経済・経営の理論と歴史の古典(1) バーリ・ミーンズ「近代株式会社と私有財産」

このブログでは、今読み直されるべき経済・経営の理論と歴史についてのいくつかの重要な古典を順次紹介したい。まず、バーリ・ミーンズ「近代株式会社と私有財産」(The Modern Corporation and Private Property, 1932)である。コーポレート・ガバナンスを論じる場合は今でも常に参照される重要な古典である。左はその北島忠男訳、1958年刊である。

目次は以下の通りである。
第1編 財産の変革
第2編 諸権利の再編成
第3編 証券市場における財産
第4編 企業の改組
付録

この書籍の中でもとりわけ重要なのは、豊富な企業のデータを掲載した第1編である。今日ほど情報公開が発展していない1920-30年代に、非銀行業200社とその関連の重要なデータを収集し、以下のような結論を導き出している。

右の図は、バーリ・ミーンズが収集したデータを、私が日米コーポレート・ガバナンスの歴史的展開でまとめた表である。(表はクリックすると拡大できます)

バーリ・ミーンズが収集したのは200社であるが、私の右の表はそのうち上位30社を一覧にしている。バーリ・ミーンズは、支配の特徴によって、次のように分類した。
ほとんど完全な所有による支配はA、過半数支配はB、過半数所有がない法的な手段による支配はC、少数支配はD、経営者支配はGである。

この区分で30社をみてみると、Gの経営者支配は13社で、資産額は211.5億ドル、30社合計の55.3%に達する。次に大きなグループはDの少数支配で11社、資産額は109.4億ドル、28.6%になる。
Cは4社で12.1%、AとK(株式の過半数が広く分散されていると信じられ、経営支配力は、大きな少数株式所有者か経営者のいずれかに所有され、おそらくは後者により所有されている)が、それぞれ1社である。Aは、Ford家が全部所有するFordのみであり、KはBethlehem Steel Corp.で、どちらも製造業の企業である。

バーリ・ミーンズが200社について導き出した、経営者支配(G)が、究極的な支配において58%を占め支配的であるという結論が、30社についてもほぼ同様にみいだされることがわかる。

バーリ・ミーンズの結論は次の通りである。
「所有権が充分に細分されているところでは、経営者は、その所有権についての持分が取るに足らない程のものであっても、以上のようにして、自己永存体となることが出来る。この支配形態は、正しくは、「経営者支配」と呼ぶことの出来るものである」 (Where ownership is sufficiently sub-divided, the management can thus become a self-perpetuating body even though its share in the
ownership is negligible. This form of control can properly be called “management control.”)

ところで、バーリ・ミーンズの結論を踏まえて、今日の27か国の企業を包括的に分析した著名な論文は、RAFAEL LA PORTA, FLORENCIO LOPEZ-DE-SILANES, and ANDREI SHLEIFER, Corporate Ownership Around the Worldである。
この論文の結論は以下の通りである。
We find that, except in economies with very good shareholder protection, relatively few of these
firms are widely held, in contrast to Berle and Means’s image of ownership of the modern corporation. Rather, these firms are typically controlled by families or the State.

このように、彼らは、現代でもバーリ・ミーンズ型の企業は支配的ではないと主張しているが、今日でもバーリ・ミーンズの方法と結論が参照されているほど影響は大きい。バーリ・ミーンズ「近代株式会社と私有財産」は、今でも改めて読まれるべき古典である。

ちなみに私も、以下の私のWeb siteで、最近ではドイツやフランス企業を例として、家族や国家の影響が今なお強いことを明らかにしているが、それは固定的ではなく、徐々に収斂していることもまた指摘しておく必要がある。

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