2022年3月11日金曜日

論文「プーチン政権と一体化するロシア国有企業群」をHPに掲載しました(1)

論文「プーチン政権と一体化するロシア国有企業群:ウクライナ侵攻の背景」をHPに掲載しました。論文の前半をこのブログで要約しましたので、ご覧ください。論文は、以下に掲載しています。私のHPのTopページ

2022年2月24日に、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。それは、巨大軍事国家ロシアのプーチン政権が、独立したウクライナを圧倒的な軍事力で支配下に置こうとする明白な侵略行為であり、第2次世界大戦後最大の人道危機を引き起こしている。このような事態を生み出した理由は何かを考えるためには、ロシアの経済と企業を明らかにすることが必要である。

1 ロシア企業概観

ForbsGLOBAL 2000 How The World's Biggest Public Companies Endured The Pandemicのランキングは、世界2000社を調査しているが、ロシア企業はそのうち24社が含まれる。

ロシア企業で最大の時価総額はSberbank の857億ドルで、2000社の時価総額順では74位となる。ロシア企業と世界上位企業との差は非常に大きい。産業別に見ると、最大は石油・天然ガス事業で、Rosneft、Surgutneftegas、Gazpromがそれぞれ総合評価の2,3,4位で、その他の4社もすべて10位以内に入っている。

2 最有力な公開企業群:石油・天然ガスと資源産業

Rosneft(ロスネフチ)は時価総額777億ドルで、ロシア企業第2位の企業である。 その最大の株主は、ROSNEFTEGAZで、同社の所有比率はグループ全体で50.76%である。ROSNEFTEGAZは100%国有企業であり、ROSNEFTEGAZのRosneftの株式の所有比率が過半数を超えているので、Rosneftも国有企業とみなすことができる。

Rosneftは世界の石油生産の6%を占めており、Rosneftを除くロシア企業が7%で、合わせたロシア合計がサウジアラビアと同じ量となる。一企業としてのRosneftが、世界でもロシアでもいかに巨大企業かがよくわかる。

Rosneftは、ロシアのウクライナ侵攻によって、取引停止に追い込まれているモスクワ証券取引所で、以下の各社と同様に取引が停止され、London Stock Exchangeにも上場しているが、ロンドンでの株価は暴落し、現在(2022年3月9日)は取引が停止されている。

なお、Rosneftで注目すべきは、ドイツの元首相であるシュレーダーが取締役会議長に就任していることである。ドイツのロシアとの緊密な連携のひとつの例であるが、後にまた検討す
るように、シュレーダーはその中心にいる。さらに、最高経営責任者セチンは、「プーチンの側近集団」の一人として、政権を支えている。 プーチンの側近集団、プーチン政権を支える集団のうち、経済関係者・経営者たちは、しばしばオリガルヒ(新興財閥)と呼ばれる。

第3位はGazprom(ガスプロム)で、今特に注目されている企業である。GazpromもRosneftと同様にほぼ国有企業である。

Gazpromの傘下にあるNord Stream AGは、2005年に設立され、バルト海を通った天然ガスパイプラインを計画、建設、およびその後の運用を行っている国際的なコンソーシアムである。Gazpromの子会社Gazprom international projectsが過半数の株式を持ち、ドイツなどの企業も株式を所有している。また、Nord Stream 2 AGは、Nord Stream 2パイプラインの計画、建設、その後の運用のために設立されたプロジェクト会社で、Gazpromの子会社Gazprom international projects によって所有されている。このプロジェクトに深く関わっているのが、やはりシュレーダーである。彼は、Nord Stream AG の株主委員会議長でもある。Gazprom取締役会副議長のミレルは、次に見るEN+GROUPデリパスカなどともに、米国財務省の対象となっている制裁対象となっている。(2018年)

上記2社に比較してやや株式時価総額が小さい上位企業が、NovatekNorilsk NickelLukOilである。

Novatek(ノバテク)取締役の一人であるミケルソンは、ForbsのForbes WORLD'S BILLIONAIRES LISTに掲載されたロシアの大富豪の一人である。また、同じく取締役のティムチェンコは、後に検討するチェメゾフや、セチンと同様に、「プーチンの側近集団」の一人である。

LukOil(ルークオイル)2020年のIFRS連結決算は、昨年と一昨年に比べ大幅に悪化している。石油・天然ガス事業の企業だが、事業の中心は、ロシア内の探索と生産である。

最後にNorilsk Nickel(ノリリスク・ニッケル)は、ニッケルだけではなく、銅、自動車の排気ガス中の有害物質を取り除くための触媒であるパラジウムを生産している。Norilsk Nickelの第2位の株主はUC Rusal Plc(ルサール)で、その株主はEN+GROUPで、その企業の株式はデリパスカが35.0%所有している。デリパスカはかつてルサールを率いていた。このように、ニッケル・パラジウム・アルミニウムなどの資源関連企業が、政権と緊密な関係を持つ人物を通じて、相互に深く結びついている。

次のブログで、「非公開企業あるいは国有企業群:国防・軍事と原子力産業」を取り上げるが、さしあたり、次のように言える。

旧ソ連=ロシアや中国では、市場経済の歴史的経験が無いまま社会主義へ移行し、社会主義体制が崩壊後、社会主義下の国有企業が、少しずつ民営化され、国家の所有比率が高いまま実質的には国有企業として存続し、経済の基幹部門を依然として支配している。両国では歴史的経験の無い民営化が困難を極め、最近では逆に国家の経済・企業への関与が強まっている。民営化の過程で、企業の経営を担った経営者達は、かつての社会主義革命によって国民から収奪した国有財産から膨大な富を獲得し、国家と企業の癒着と一体化を進めた。


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