2022年3月11日金曜日

論文「プーチン政権と一体化するロシア国有企業群」をHPに掲載しました(2)

このブログは、論文「プーチン政権と一体化するロシア国有企業群:ウクライナ侵攻の背景後半の要約です。論文は、以下に掲載していますのでご覧ください。私のHPのTopページ

3 非公開企業あるいは国有企業群:国防・軍事と原子力産業

前のブログで紹介した、論文2節は、Sberbankを除く、株式時価総額の大きなロシアの株式公開企業5社について検討してきた。この3節は、株式を公開していないか、政府以外の投資家の株式所有がきわめて小さい、ロシアの重要な国有企業のうち、国防・軍事関連企業と原子力企業について検討したい。

3.1 国防・軍事産業

Rostec(ロステック)は、安達・岩﨑論文の「表7 露経済誌RBC500ランキングによる売上高上位のロシア企業(2015~2020年)」の第5位に位置する、企業名通りの巨大国有企業である。

Rostecでは、次に見るUACとの段階的な合併が継続され、完成すると、Rostecは民間および軍用の航空機および航空機器の最大のメーカーになる。2019年に直接支配された事業体として、やはり次に見るRosoboronexport がある。

RostecのCEOであるチェメゾフは、先に指摘したセチン同様、「プーチンの側近集団」の一人である。

(上は参考図(部分)、出所:RFE/RL: Uncensored News, Russian Arms Deals, October 22, 2018)

United Aircraft Corporation (UAC)の株式は、連邦政府が92.3%を所有する。2006年に設立された同社を構成する企業は、軍用機のSukhoi、RSK MiG、民間航空機のIrkutなどよく知られた軍事・民間航空機企業である。

売上高は、Forbsの調査の20位程度になる。ただ、売上高の増加は顕著で、2017年には2013年の2倍を超えている。軍用機の輸出は国内に比べて増加傾向にあり、全体の4割を占めている。

もうひとつ重要な企業は、武器輸出を担う国営企業Rosoboronexport(ロスオボロンエクスポルト)である。同社は「外国との軍事技術協力の分野でロシア連邦の国家政策の遂行に積極的に関与している。」とその事業を誇示している。ミヘエフ社長は「2017年に世界53カ国と総額約150億ドル(1兆6000億円)の契約を結んだ」と強調した。


3.2 原子力企業ROSATOM

ロシアを代表する国有原子力企業は、ROSATOM(ロスアトム)である。同社は安達・岩﨑論文の表7の第10位の企業である。10年間の海外注文は、原子力発電所建設が974億ドル、ウラン製品が132億ドル、核燃料集合体およびその他の活動が295億ドルである。(左は参考図、Ths Economist, Russia leads the world at nuclear-reactor exports, Aug 7th 2018)

2019年の天然ウラン市場では、ROSATOMはカザフスタンの原子力企業NAC Kazatompromに次ぐ2位で14%を占めている。核燃料製造市場のシェアでは、アメリカのWestinghouse、フランスのFramatomeに次ぐ3位の16%である。

ROSATOMの監査役会議長キリエンコは、プーチン政権を支える一人だが、ロシアの野党指導者ナワリヌイ氏の毒殺を試みた6人の一人としてEUから制裁対象とされた。

日本経済新聞は、ロシア原子力企業の強みを、次のように指摘している。「主軸を担うロスアトムは国営企業だ。原子力に関する権限が国や民間企業、自治体など広範に分散した日米欧に比べて一貫した体制を採用するのは明確な違いがある。」 この強みは、ロシア国有企業全般に当てはまる。

おわりに:プーチン政権と一体化する国有企業群

第1に、ロシアを代表する企業での国有企業の割合は著しく高い。3節の国防・軍事企業と原子力企業は言うまでも無く、石油・資源産業の株式公開企業でも国家の株式所有比率は高い。一部の企業では経営者の株式所有比率が高い場合もあるが、主要な国有企業、その経営者とプーチン政権は深く結びついている。

第2に、ロシアの主要企業を産業別にみると、石油・天然ガス、資源産業、国防・軍事、原子力産業である。それは言うまでも無く、国の経済の特徴と一致している。それに対して、最先端のIT産業や半導体、医薬、消費財・サービスなどの、国民生活向上に関連する産業の発展は遅れている。

第3に、資源、軍事を中心とするロシア企業の発展に、ヨーロッパやアメリカの企業は深く関わってきた。ドイツの役割は突出しているが、その他のヨーロッパ諸国やアメリカも例外では無い。欧米諸国とその企業は、プーチン政権の資源・軍事戦略の推進に重要な役割を果たしてきたと言わざるを得ない。しかし、今回のロシアのウクライナ侵攻によって、欧米諸国のプーチン政権への融和政策は根本的に見直されるだろう。


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